私の部屋
レジナルド王たちとのお茶会の後、部屋を変えて、昼食をいただいてから、アルフレッド公に連れられて、アルフレッド公の宮殿に戻ってきた。
ちなみに、王宮のエリアの中には、宮殿がいくつもあって、王族は、15歳になると、自分の宮殿をもらえるそうだ。
アルフレッド公が住まうのは、「赤の宮殿」。ルーカス王子が住んでいるのは、「青の宮殿」。王族の住む宮殿は、各自の王冠に嵌められた宝石の色を冠して飛ばれるそうだ。
つまり、アルフレッド公の王冠の宝石は、ルビーだから、赤。ルーカス王子の宝冠は、サファイアだから、青。ということだ。
ただし、国王の住まう宮殿は、単に、「王宮」と呼ばれる。
赤の宮殿に着き、昨日、泊めてもらった2階の部屋に戻ろうとしたら、そちらではない、という。
「昨日お休みいただいた部屋は、客人用の部屋です。ユーリ様の部屋を用意させました。そちらで、今日からお過ごしください。」
とのこと。
2階の廊下の奥に、3階につづく階段がある。
アルフレッド公に連れられて、その階段の前まで来ると、衛兵が複数人、階段に上れないように通せんぼするように立っていたけれど、アルフレッド公が近づくと、さっと、両脇に控えて、道を開ける。
あれ?と首をかしげたら、どの宮殿も、3階は、王族が生活するフロアなので、王族と3階専用の使用人以外、入れないのだそうだ。
だから、終日、この階段は、衛兵に護られているとのこと。
「私は、まだ王族ではありませんけど?」
3階に行きたくないな、と後ずさったけれど、がしっと、右手を握られて、どきっとする。
「ユーリ様は、私の婚約者です。私の部屋の隣・・・妃の間で過ごしていただきます。」
しっかりと右手を握られ、ひっぱられるようにして、3階に上がる。
3階までの階段は、ゆるやかな螺旋を描いていて、2階から見上げても、3階フロアは見えないような作りになっていた。
3階にたどり着くと、思わず、感嘆のため息をつく。
紫紺の毛足が長い絨毯が廊下に敷きしめられ、壁と扉は、つややかに光る白地に、金色のアラベスク模様の装飾がついている。後で知ったことだけれど、装飾は、純金で出来ていた!
天井には、クリスタルのシャンデリアが、いくつかの小さな天窓からの日の光を浴びて、煌めいている。
もちろん、1階と2階の廊下も、厚いふかふかの真紅の絨毯が敷かれ、白い壁も、淡いウォールナット色の扉もつやつやしていて、とても美しい宮殿だと思ったけれど、王族の生活エリアだという3階の豪華さを見てしまうと、格の違いを、見せつけられるようだ。
廊下の奥から、2つ目の扉の前に、アルフレッド公が立ち止まる。
「こちらが、ユーリ様のお部屋です。」
そして、一番奥の扉を指し示しながら、
「この部屋の隣の部屋が、私の部屋です。」
本当に、隣の部屋を用意されたんだ。私の笑顔は引きつっていたと思う。
アルフレッド公が、私の部屋の扉を開き、私の手を握ったまま、部屋に案内される。
「わあ、きれい。」
思わず、感嘆のため息をついてしまった。
廊下から入った部屋は、居間のようだった。
中央に、白いティーテーブルのセットが置かれ、椅子の背もたれと座面は、明るい青色のベルベット。
絨毯は足首が埋まるほど毛足が長く、なめらかで気持ちが良いけれど、真っ白だから、汚すのが怖い。
壁は、白地を基調に、腰壁部分が、金色のアラベスク模様、腰壁の上は、パステルカラーの小花が描かれている。
部屋の正面には、アーチ形の窓が大きくとられていて、バルコニーがついていた。
窓には、オーガンジーレースのカーテンがかかっている。
「ここが居間です。そして、こちらが。」
アルフレッド公が案内してくれる。
廊下から部屋に入るとすぐに、居間。正面の窓に向かって右側には、2つの扉があり、1つ目の部屋は、書斎になっていて、書き物机と、本棚が備えられている。
2つ目の部屋は、クローゼットルーム。クローゼットルームの奥が、浴室。
窓に向かって左側には、扉が1つ。
そこが、寝室で、天蓋付きのベッドが中央に置かれている・・・けれど、気になったのが、その部屋の奥にも、1つ扉がついていること。
アルフレッド公が、その扉を開くと、そこも、寝室になっていた。私の寝室の倍くらいある広さの部屋の中には、私の寝室にあるベッドの倍は優にありそうな・・・5人くらい寝られそうな・・・大きな天蓋付きのベッドが、どん、と置かれていた。
「ここは、私の寝室です。結婚したら、夫婦の寝室になります。」
私は、顔から火が出そうになった。
「あの、あの?」
「はい?」
「私の寝室と、つながって・・・います?」
「ええ。つながっていますよ。夫婦の部屋ですから。伴侶に会う時、廊下にいちいち出ないで済むように。当然ですよね?」
「あの!まだ夫婦じゃない、ですよね?」
「ああ・・・。そうですね。結婚は、あなたが17歳になるまで、できませんから、2年後ですね。あなたがこの寝室をお使いになるのは。」
「そうじゃなくて!」
「はい?」
「あの・・・。この部屋と、私の寝室との間の扉、鍵が無いように見えるんですけれど?」
「鍵?ありませんが、必要ないでしょう?」
日本と常識が違うんだろうか。混乱した。
「あの。あの。できれば、結婚するまでは、鍵をつけてほしいんですけど!」
「・・・なぜですか?」
「その・・・。夜、安心して、眠るため?」
あなたに夜這いされたくないからです。と直接言えず、言い淀む。
「安心して・・・?でしたら、なおさら、鍵は、つけられませんね?」
「はい?」
・・・何か、意見が、かみ合っていないような気がする。
「神の御使いを守るのは、私の義務です。従って、何かあった時、あなたのそばにすぐ、駆け付けられるようにしなければなりません。・・・本当は、この主寝室で、一緒に眠ってほしいのですが、さすがに、それは、結婚まではやめておけと、まわりから言われたので、隣室で眠ることで、妥協しているのですよ?」
唖然とする。
どうも、この人は、男女の仲とか、女性の気持ちをよくわかっていないような気がする!!逆に、夜這いもされないかもしれない。それはそれで、複雑だ。
ふいに、なんだか、悲しくなってきた。
やっぱり、私が、神の御使いとかだから、仕方なく、伴侶になることを受けたんだ。
守ってくれるだけで、愛情なんてこれっぽっちも持ってもらえないんだ、・・・と。
「鍵のことは、もういいです。」
投げやりな気持ちで、答える。
その言葉のトゲに気付かなかったのだろうか、アルフレッド公は、軽くうなずいてから、主寝室の、私の部屋につながる扉の正面の扉を開ける。
「こちらが、私の部屋につながっています。間取りは、あなたの部屋と同じです。いつでも、自由に出入りいただいて構いません。」
主寝室を突っ切って、アルフレッド公の部屋に行くのは、今は、嫌だ。彼に会う用事ができたら、廊下から入ろう。と、暗い気持ちで、決心した。