王族との話し合い
すべすべの手触りの良い布が手に触れている。
体を包んでいるお布団が軽くて、ふわふわで、気持ちがいい。
それになんだか、良い香りがする?
ぼんやりと、目を開いた。白い天井が目に入る。
あれ?天井に布なんて、私、張ったっけ?・・・違う!
がばっと跳ね起きた。四方をカーテンに囲まれているベッドの上。
「お目覚めでしょうか。」
横のカーテンから、声がかかる。
「は、はい!」
「カーテンを開けてもよろしゅうございますか?」
「はい!」
カーテンが横にするすると開かれ、昨日、私の面倒を見てくれた2人・・・、ドルチェとレーテが、相変わらず、私に視線を合わせないよう、目をそらしつつ、朝の挨拶をしてくれる。
「おはようございます。ユーリ様。湯あみとお召替えのお手伝いをさせていただきます。どうぞ、こちらへ。」
案内されて、隣の部屋に移れば、床が円形にくりぬかれ、その中には、なみなみとお湯がたたえられている。少なくとも3人か4人は入れそうな大きな浴槽。
お湯の上には、桃色の八重桜を一回り大きくしたような花がたくさん浮かんでいて、良い香りがする。
服を脱がされそうになって、私は、自分が、薄いネグリジェ姿になっていたのに気付いた。
「あの!私、いつの間に着替えて?」
「寝着には、勝手ながら、わたくし共が、お召替えさせていただきました。相当、お疲れだったようで、お目覚めになられませんでしたので・・・。」
「・・・あ、そうだったのですか。面倒をかけて、ごめんなさい。」
「とんでもございません。それが、わたくし共の仕事ですから。」
そして、また、2人に、手際よく寝着をはぎとられ、浴槽に沈められてしまった。
その後、洗ってくれようとする彼女たちに、必死で抵抗して、自分で洗う権利を獲得したけれど、朝から、ぐったり疲れてしまった。
浴槽から出れば、すぐまた、あらかじめ用意されていたドレスが着せられ、朝食が用意されているという部屋に連れていかれれば、すでに、席には、アルフレッド公が座っていた。
「ユーリ様。」
私が入室してくるが早いか、アルフレッド公が立ち上がり、手をとって、指先に軽く口づけ、そのまま、席までエスコートしてくれる。
手を取って口づけなんて、この国の貴族のマナーかもしれないけれど、日本人には、刺激が強すぎ!
座ると、すぐに、料理が載ったワゴンが男性に運ばれ、テーブルの上に、お皿がたくさん並んだ。お皿を並べ終わると、男性は退室し、アルフレッド公と2人切りにされる。
「ユーリ様。本来は、食事中、ウェイターが給仕しますが、あなた様の目の魅了の影響を防ぐため、ウェイターをお付けすることができません。申し訳ございません。代わりに、私がいたしますので、不自由なことがあったら、何でもお申し付けください。」
アルフレッド公が、相変わらず、長い金髪で、顔を隠したまま、言ってくる。
毎日、自分で食事を作って、1人で食べていたから、別に給仕してもらわなくても、大丈夫だけれど、料理と食材の説明はしてほしい。
「ありがとうございます。あの、料理の名前と、使われている食材を教えてください。この国のこと、何も知らないので。」
「ああ、そうですね。失礼しました。」
アルフレッド公が、1皿1皿、料理の名前を教えてくれて、食材も、わかる範囲ですが、と言いながら教えてくれる。
異世界とは言っても、さすが、王宮。今までに食べたことがないくらい、どれも、おいしかった。
食事が終わった後、これからのことを相談したいと、昨日のティーサロンに連れていかれる。
昨日と違って、今日は、大きな円形のテーブルが置かれ、すでに、お茶と、クッキーが用意されていた。
レジナルド王、ルーカス王子が、にこやかに、出迎えてくれる。
「昨夜は、お休みになれましたでしょうか?」
「はい。おかげさまで。」
「良かったです。・・・今日は、これからのこと、少し、ご相談させていただこうと思いまして。」
レジナルド王が、説明を始める。
「お住まいは、叔父上、いえ、アルフレッド公の宮殿でお過ごしください。家具などは、今日中に入れ替えます。もし、ご不満や必要なものがあったら、アルフレッド公に言ってください。」
「はい。」
「それから、ご要望いただいたこの国について学ぶための家庭教師ですが、アルフレッド公が、教師を務めます。」
「アルフレッド様が?」
「アルフレッド公は、この国で、一番の学者です。あらゆる学問を修めていますので、座学は、全て、アルフレッド公から教わることができます。ただ、礼儀作法とダンスについては、彼が教えることはできませんので、王宮の教師を、別途付けさせていただきます。」
「はい、ありがとうございます。」
「礼儀作法とダンスについては、3か月、毎日、特訓をお願いする予定です。座学の方は、期限がありませんので、アルフレッド公と予定を組んでください。」
「3か月?」
「3か月後に、婚約式を行います。諸外国からも賓客が来るので、それまでに、なんとか、最低限の作法は覚えていただければ、助かります。」
「婚約式、ですか・・・。」
「はい。我が国のみならず、世界に向けて、神の御使いが我が王家に降臨くださったことを公表させていただきます。」
思わず、びびった。
「そんな大げさにされるのは、好きじゃないのですが・・・。あの、婚約式を無くすことはできませんか。・・・その、やるとしても、身内だけでささやかに、とか。」
「できません。神の御使いをないがしろにしていると、国民から反発されます。」
ため息をつく。ふと、気になって、聞いてみる。
「私の瞳の力については、この世界の人たちは、皆さん、ご存じなのですか?」
レジナルド王は、首を振った。
「いいえ。公表はしていません。知っているのは、王族と一部の貴族、召喚をする魔術師達だけです。諸外国の王族も、もしかしたら知っているかもしれませんが・・・。あと、お気づきかどうかわかりませんが、ドルチェとレーテは、秘密を知っている貴族の娘です。秘密を知っている者の名前は、後で、アルフレッド公から教えてもらってください。・・・だから、黒い瞳の話は、他の人には話さないでくださいね。」
「それでは、神の御使いと紹介するのは、何の意味があるのでしょう?」
「神の御使いが降臨されると、魔物が減ります。これは、この世界のだれもが、知っていることです。国民は、そのことに安堵するでしょう。また、魔物が減るということは、今、魔物討伐に向けている軍隊が、本来の国防の役目に戻ることを意味します。他国は、侵略を諦めるでしょう。」
「婚約式である必要はなさそうな気がしますけど・・・。」
「いいえ。必要があります。」
にっこりと、レジナルド王が笑う。
「仮にも、前国王の弟が婚約するのです。それを社交界で発表しないのは、許されません。そして、神の御使いは、我が国の王族の一員になるのだから、ちょっかいは許さないと、国内外に、釘をささせてもらいます。」
どうあっても、盛大な婚約式に出席しなければならないようだ。再び、ため息をつく。