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夏という暑さと音と匂いと

作者: わたくし

エアコンがない6畳の部屋に蒸し暑さを感じ始めた7月4日の5時。


身体からは汗が滲み出てきていて、布団の中にいるのが気持ち悪く感じる。でも、布団から出るということは、今日という日を始めてしまうということ。その葛藤を脳内で掻き乱しながら、無理矢理布団から抜け出す。


朝から室内24度もあるとは何事だろうか。一般家庭なら扇風機をだしてこの暑さと戦うのだろう、しかし自分は生憎そんなものは持っていないので、空気洗浄機から出てくる風で今年も乗り越えなければいけない。ただ問題がある。最近風の匂いが臭いのと、音が扇風機よりも大きいから寝付けが悪いということだ。…そんなことを考えても仕方がないや、と思い洗面所で顔を洗い流すことにした。

最近寝付けないのは空気洗浄機だけが悪いわけではない。この『夏』という季節が自分の気持ちを揺さぶっているのも一つあるのだ。


そもそも夏というのは特殊な季節だと思う。学生は「夏休み」、大人は「お盆」があり必ず何かしらのアクシデントが起きるのだ。それを言ったらどの季節にもあるじゃないかと言われそうだが、この季節はその特殊期間が長いのだ。そして心に残り続けるのだ。


自分が学生の頃は、夏休みにどこか遠くに出かけることも無ければ、誰かと遊ぶということすら無かった。やる気のない部活動に顔を出し、1日の1/3を費やして「今日は無駄な時間を過ごさなかった」と言い訳を作っていたりしていた。でも学生という枠組みから外れ、社会に出るとそれがいかに無駄な行為だったかを痛感する。


大人になって、お盆休暇をもらうようになってからは家族ぐるみの「あーだこーだ」が嫌なほど体に絡みついてくる。合わなければいいんじゃ?と思う人もいるが、家族はこの世界でたった一つだけの存在なのだ。だからこそどうするべきなのかを困るのだ。


朝からこんなことを頭から吐き出しながら、メッセンジャーの確認をした。通知の数は0で、あぁ返信きてなかったやと思い、動画を垂れ流す。


最初は「面白い!」と思っていた人たちも、いつの間にか「観ることが業務」に変わっている。それを解っていたとしても止めることができない、なぜならそれが自分を支えているからだ。だからといって新しい道を開く気にもなれないのも確かだ。


「…この人たちも苦労してんのかな」

勝手ながら自分の世界に入れ込んで、適当に朝食を片付ける。味のない透明な液体を水筒に入れ込んで、おしゃれと言えない服装に着替える。最初は服装に気にかけていたが、もう他人の目なんか気にしてられるほど余裕はない。カバンを背負い込んで、

「いってきます」

と誰もいない部屋に一人消えそうな声で放った。

電車に乗る前の待ち時間はいろんな人たちが立っている。この人たちは今日どんな人生を送るのだろうか、他人の自分が知るわけないが、ただ言えることはこの時を共有して暑さの中電車を待ち、蝉の鳴き声を左から右へと流していることだ。


こういう価値観を分かり合える人が近くにいたら、今の自分はもっと良い方向に向かうのかもしれないな、とふと感じた。その時メッセンジャーから通知が届き目を通す。

「…ふっ、どういうことだよ」

少し口角が上がり、返信をした。今日も1日頑張るとしようかな。

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