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スカウトマンは、村に着く。


「おっきな村ですね……」


 たどり着いた『ハジメテの村』を見て、クスィーが、ほぁー、と口を開けた。


「この街道は一応、二つの国を繋ぐ交易路だからな。間にある村もそれなりに発展するもんだ」


 答えたイストは、一年ぶりに見る村の景色に目を細める。

 特に変わりはなさそうで少し安心した。


 彼女の言う通り、『ハジメテの村』はそれなりに大きな集落だ。


 村の周りを覆う畑とその中心にある家屋、というシンプルな作りだが、畑の周りをぐるりと覆う獣避けの柵はかなり

背が高く、作りもガッチリとしている。


 村に住む者の大半は農民で名産品などもないが、訪れる者は後を絶たない。


 街道を通って物を運ぶ者がいる、ということは、彼らが泊まる場所が必要になるからだ。

 ちょうどいい位置にある『ハジメテの村』は、彼らに食料を提供するのと引き換えに、金銭や他の地域の名産品などを得ているのである。


「とりあえず最初はギルドだな」


 この村の冒険者ギルドは、宿屋も兼ねている。

 毎年、来るたびに泊まっているので宿屋のオヤジでもあるギルドマスターは顔なじみである。


 すると、ミロクがアゴを撫でながら問いかけてきた。


「ぎるどというのは何だ? 聞いたこともないが、美味いのか?」

「メシじゃねーよ!」

「何だ、違うのかつまらん」

「あのな……」


 先ほど堅パンと干し肉を食べたばかりだというのに、このウサギは食事のことしか頭にないのだろうか。


 ーーーまぁ、面白いからいいんだけどな。


 才能がある奴は基本的に変なので、慣れるまでは少し戸惑うことも多いが、ミロクはそういう奴なのだろう。


「ギルドってのは、冒険者が依頼や報酬を受け取るところだ」

「興味がないな」

「いや聞けよ! ていうか何で人族領にいてギルドを知らねーんだよ!」

「別に目指してきたわけではないしな。そもそも我の住んでいた場所にそんなモノはない」

「……まぁ、言われてみればそうか」


 ギルドは元々、人属領に存在する『魔獣狩り』の依頼窓口だったのだ。

 昔は魔物も区別をつけられていなかったので、人族と魔の眷属の間で諍いが絶えなかったのも、世界征服前の戦乱の一端である。


 当然ながら、魔族領にはないものだ。


「私も詳しくはないのですが、ギルドというのはどういうものなのです?」

「それに関する知識はねーのか?」


 クスィーの言葉に、もしかして彼女は冒険者じゃなかったのか、と思ったが、彼女はミロクとは逆に興味津々の顔でこちらを上目遣いに見る。


「いえあの、依頼を受ける窓口ということは知ってます。でも、詳しくはないので……」


 そういうことか、と納得したイストは、畑のあぜ道を歩きがてら説明してやることにした。


「今の冒険者ギルドってのは、いわゆる『何でも屋』の窓口だ」


 受け付けているのは、一般人だと少し危ない依頼や、困りごと全般である。


「冒険者の活動が活発になると、国をまたぐ交流が増えてギルドも大きくなっていった」

「何で大きくなるんですか?」

「元々は色んな国でそれぞれに存在した『魔獣狩り』の受付が、それを専門にして国境をまたぐ連中に対応しきれなくなったからだな」


 今でいう『冒険者』が好き勝手動き回り始めたことで、強い冒険者や弱い冒険者が把握しきれなくなり、また強力な魔獣を直接強い冒険者に依頼しなければならない事態も増えた。


「冒険者がどこにいるのか把握して国境をまたいで連携するために、それぞれの窓口が協力し始めたんだ」


 イストは家屋の入り口に出てきた顔見知りの村の女に軽く手を上げて挨拶してから、クスィーの顔を見る。


「その頃には魔導具が発達して、連絡手段が整ってきてたからな。そうした窓口が次々に併呑・統合してって、今の冒険者ギルドになったんだよ」

「初めて聞きました……!」


 こういう話を聞くのが好きなのか、クスィーは目を輝かせて笑みを浮かべている。

 と、思ったら。




「つまり、冒険者ギルドを潰せば、魔獣を狩ろうとする人はいなくなるんですね!?」



 

「待て待て待てちょっと待て! 何でそうなる!?」


 思考が飛躍し過ぎていて、まるで理解できない。

 こいつもこいつで、ミロクとは別の意味で変人過ぎるのだ。


 思わず突っ込んでしまったイストに、クスィーはきょとんとしながら言った。


「でも、魔獣の縄張りに手出しするから魔獣が怒るってイストさんが言ったんですよ?」

「だからってギルド潰したら今度は死人が大量に出るわ!」

「え……?」


 どうやら手出しをしなければ魔獣は襲ってこない、という思考回路でモノを考えたらしい。


 ーーーいやまぁ、魔獣のことだけ見りゃそうかもしれねーけどな?


 イストは頭をバリバリと掻きつつ、どう説明したものかと考えた。

 慈悲の心だか何だか知らないが、やっぱり世間知らず過ぎるのではなかろうか。


「完全に縄張りを分けることなんて基本的にできない。だから冒険者がいるんだよ」

「え?」


 目を丸くするクスィーに、イストは大きく両手を広げて見せた。


「よく考えろ。いいか、人間が山で木や獣を狩ったり、土地を開墾して畑を作ったりするだけで魔獣の縄張りに入ることになるんだぞ。それに魔獣自身も、レッドブルンみたいに土地を移動するしな」

 

 人間を守るために魔獣を狩る、のが冒険者の役割なのである。


 それが発展して遺跡に潜ったり金銀財宝を求めたり、金儲けのために魔獣狩りをしたりする者もいるが、冒険者ギルドというもの自体はそもそも『必要だから存在する』ものなのだ。


「だから世界征服の後にオヤ……魔王が補助金を出して、採算があまり取れない地域にも窓口を置くようになったんだぞ? 元々は、『他人の命を守るための組織』なんだ」

「そうだったのですか……いい考えだと思ったのですが」

「いやめちゃくちゃ物騒な考えだからな?」


 しょぼんとするクスィーは、平和を謳いながら反乱を起こすような、そういう指導者的な素質があるのではなかろうか。


 元々善良な少女ではあると思うが、命を大切に思うあまり思考が極端に振り切れている。


 ーーーいや面白いんだが、もうちょっと一緒にいる間に考えねーと変な方向に伸びちまうわ。


 イストが少し困っていると、ミロクがクックと喉を鳴らした。


「クスィーは、弱肉強食の〝肉〟側になるのが望みか。なかなか面白い」

「そういうつもりはありませんが……命をなるべく奪わずに済むのならそれに越したことはない、と思っています」


 からかうようなウサギ獣人の言葉に、クスィーは真面目な顔で答えた。

 すると咥えていた高楊枝を手にしたミロクは、ピッとそれを治癒師の少女に向けた。


 隻眼の獣人は自分よりも背が高い少女に向かって、笑みと共に首を傾げてみせる。


「じゃ、目の前に腹を空かせた魔獣がいたらどうするのだ? 相手を殺さずに自らが食われるのか?」

「そうですね……こちらに非があれば、そのまま食べられてもいいかと……」

「なわけあるか!」


 どこぞの神話にある、火に自分をくべて神に食わせたというウサギのようなことを言うクスィーに、イストは即座に突っ込んだ。


「会った時も言ったが、お前一人が食われるだけで魔獣は納得しねーの! むしろ人肉の味を覚えて他の連中まで襲うようになるとも言ったよな!?」

「そ、そうでした……」


 縮こまって、怒られた子どものようにこちらを上目遣いに見る彼女は可愛いが、だからと言ってそんな物の考え方を放っておけるわけもなく。


「イストよ。クスィーには少し現実を見せてやった方がいいのではないか?」

「奇遇だな、ミロク。俺もそう思ってたところだ」


 ウサギ獣人の言葉にうなずいたところで、村の中央広場近くにあるギルドの姿が見えてきた。

 

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