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スカウトマンは、魔王の作り方を知る。


 ーーー何か企んでると思ったんだよな。


 イストは、姿を見せたツヴァイが軽く目を見開いているのを眺めながら、腕組みを解いて秘書庫のドアから背中を起こした。


「おやイスト、なぜこんなところに?」

「さっき話してた時に、お前さんから焦げ臭さを感じてな。まーた何か悪巧みをしようとしてたんだろ?」


 するとツヴァイは、軽く自分の首筋を手で撫でる。


「おっと、また誤魔化そうとしてるな。そのクセ本当に変わらねーよな」


 指摘してやると、ツヴァイは苦笑する。

 その仕草は、彼女が何か都合の悪いことをごまかそうとする時にするものなのだ。


「感謝はしているけど、こういう時に君の鼻は本当に厄介だね、マイダーリン」

「誰がダーリンだ」


 ツヴァイと付き合った記憶も、手を出した覚えもない。

 大昔、彼女を夜の見張りに配置換えした頃に、懐かれて冗談で言っていたことを定番のネタにしているだけである。


「何か企んでいることは分かったとして、どうやってボクがここに来ることを知ったのかな?」

「ここの管理官に話してもらっただけだよ」


 彼女は、管理官を脅して『鍵を開けておくように』と伝えたのである。

 そこでも焦げ臭い臭いがしたので、そんなことだろうと後でこっそり話を聞きに行ったら案の定だった。


「口は塞いでいたはずなんだけど」

「ちなみに条件は、『命を保証する』ことで、そいつは『オヤジに伝えた』」


 なので、彼の命を魔王の名の下に保証して、イストはそれを守ったのである。


「なるほど……困ったものだ。そうされると手は出せないね」


 負けを認めたのか、ツヴァイは両手を挙げた。

 イストとツヴァイなら実力は比較にもならないが、アインスは四天王の誰よりも強い。


 使えるものはなんでも使う主義なので、虎の威を借る狐になることに特に抵抗はないのである。

 

「まぁ、お前さんが裏切るとは思っちゃいないが」


 ツヴァイは悪巧みをするが、それはあくまでも自分の楽しみのためだ。

 それを優先して迷惑をかけられることは多々あるものの、彼女が魔王政府の不利益になるような行動をすることは、基本的にない。


 あくまでも、仲間だからだ。

 ツヴァイもこちらをそう認識していることは、理解している。


「だが、今回に関しては隠し事はなしだ。俺は戦乱を再び起こすつもりは微塵もないからな」


 イストは笑みを消して、ツヴァイの目を見つめた。


「話せよ」

「……話した上で、ボクのやりたいことを許容してくれるかい?」

「内容によるな。俺は隠し事の内容を知らないからな」


 そこで、ツヴァイは少し考えた。

 この段階では隠し切れないことを賢い彼女は理解しているはずなので、どう話すかを考えているのだろう。


 交渉で、少しでも自分の望む形に持っていこうとしているのだ。


「……ボクが興味を示したのは、魔王の力に関することさ」


 ツヴァイが話したのは、魔王という存在に関する事実だった。


「真なる魔王……そして、眠る修羅、か」

「そう。修羅もそうだが、後天的にでもなれるという『魔王』が何なのかを確かめに来たのさ」


 邪神への対抗者としての『魔王』。


「なら、見に行こうぜ」


 無精ヒゲを撫でたイストは、親指をそのままドアに向けた。


「良いのかい?」

「確かめなきゃいけないなら、確かめるべきだろ。だが、これ以上分かったことを隠すのはナシだぜ?」

「仕方がないね」


 小さく笑みを浮かべたツヴァイと共に、再び秘書庫に入ると、彼女は昼の冊子ともう一つ何かを持ってきた。


「そいつが?」

「そう。聖白龍の召喚式と、魔王に関する事柄が記されているというものだな」


 ツヴァイは昼のようにそれを読むと、徐々に目を輝かせていく。


「……この雑用係という人間は、凄まじいな」

「どういうことだ?」

「筆跡が同じなので、ただ一人の人間が書いたのは間違いない。これほどの知識と慧眼を持つ存在が過去に存在し、我々よりも深く物事を知っていたというのは、面白い」


 冊子を閉じたツヴァイは、吹っ切れたように冊子を閉じて生き生きと話始めた。


「『魔王の力』というのは、世界に散っているらしい」

「ほお」

「魔王の力というのは、強い魂を持つ者の内に封じられており、八つの神器……いや、宝具か。そうしたものを手にすることで発現するそうだ」

「で?」

「力が封印から解放され、倒された時、あるいは譲り渡した時。その力に適性を持つ者に集約されていく、とここには記されている」

「……オヤジみたいな肩書きではなく、存在としての『魔王』が復活する、ってことか?」

「もう少し状況としては複雑だな。この記述によれば、陛下も『魔王』だ」


 口の端を釣り上げるような笑みを浮かべて、ツヴァイは大きく手を広げる。


「どういうことだ?」

「先ほど言っただろう。……宝具さ」


 彼女は、それらの名前を羅列した。


 一の罪【傲慢(サマルエ)の杯】

 二の罪【愛欲(サラ)の輪】

 三の罪【強欲(マモン)の杖】

 四の罪【憤怒(オロチ)の刀】

 五の罪【暴食(イクス)の剣】

 六の罪【怠惰(バアル)の瞳】

 七の罪【嫉妬(アタン)の牙】


 話を聞いて、イストはツヴァイの言うアインスも魔王、という言葉の意味を知った。


「【怠惰(バアル)の瞳】……」

「そう。アインス様の魔眼の名前だ」

「目が宝具、ってのも意味が分かんねーけどな」

「力そのものが強大な存在の内に隠されているというのなら、アインス様がそうであっておかしくはないからな。あの方自身が闇の巨人であり、封印の宝具でもあるのだろう」


 ツヴァイがそう告げ、さらに言葉を重ねる。


「〝七ツ罪〟と呼ばれるそれらの宝具の所持者を見つけ、八つの魔王の力を集約することによってーーー『真なる魔王』が誕生するのさ」

 

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― 新着の感想 ―
[一言] すっごーい(思考停止) 設定が凝ってますね。
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