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スカウトマンは、勘違いされる。


「後で向かう『ハジメテの村』は、こっから半日かからないくらいのとこにある」


 魔獣の巣穴を探しながら、イストはクスィーにこの辺りのことを説明していた。


「北に向かえば、マイドの国の属する『宿場町ボチボチ』があって、南に向かえばナムアミの国に属する『鉱山の街メリカンド』があるんだ」


 ーーーかつて、メリカンドの領主とボチボチの富豪は仲が悪かった。


 イストの故郷だった山村は、この二つの街で起こった小競り合いの余波で、メリカンドの領主側に狙われたのである。


 当然、そいつは世界征服の過程で更迭したのだが、命は奪わなかった。


 ……代わりに鉱山の労働夫として、領主自身が重い税を掛けていた土地に送ってやったので、まぁ相応の扱いを受けただろうが。


 ということは一切言わずに街や土地のことだけ説明すると、クスィーはふんふんと素直にうなずいて聞いてくれた。


「では、その『ハジメテの村』で冒険者ギルドというところに行くのですね?」

「ああ」


 うなずいて、イストは足を止めた。

 そして視界の先に見えた木々を指差して、クスィーに伝える。


「多分、巣はあの辺だな」


 平原の中にある、林というにも小さいくらいの木が集合した場所である。


 少し離れたところから観察するが、特に動きはない。

 ニオイも嗅いでみたが、危険の臭いは特に感じなかった。


「なんで分かるんですか?」


 横で木々のある方向を覗き、なぜか小声で話すクスィーにイストは軽く説明する。


「ブルンドックーは、別の魔獣と共生してるからな。【怒り大猪(レッドブルン)】ってヤツなんだが」


 危険度Bランクに指定されている魔獣である。


 ブルンドックーは、そのレッドブルンの身の回りの世話をする代わりに、外敵から守ってもらう関係にあるのだ。


「レッドブルンは、木の根辺りを掘り返して巣を作る魔獣だ。だからこういう場所に巣があることが多い」

「なるほどー」


 わりと基礎的な知識なのだが、クスィーが素直に感心してくれるのでイストはもう少し説明することにした。


 遭遇しないように逃げるためにも、そういう知識は大事である。


「だが今は、なんかの事情でレッドブルンが巣穴にいない可能性が高い」

「何でですか?」


 キョトンとする彼女に、イストはピッと指を立てた。


「まず魔獣特有の危険の臭いがしないことが一つ。もう一つはブルンドックーがあんな場所まで出張ってたからだな。連中は、本来、魔獣の中でも臆病な部類だ」


 本来なら。


 ナワバリに足を踏み入れた相手を追い払うのは、レッドブルンの役割である。


 それも通常なら、姿を見せて威嚇される程度で済むはずだ。

 なのに元来臆病なブルンドックーがあの数で出張り、クスィーに襲い掛かったのは、子どもがいて気が立っていたのも当然ながら。


「向こうもお前さんに怯えてたんだ。主人がいなくなってパニックになってた可能性もある」

「……悪いことをしました」


 しょぼんとした少女に、イストは肩をすくめてみせる。


「《遊離体(ファントム)》になっちまったんだから、お前さんがあの場にいたのは不可抗力だろ」


 この話題をこれ以上続けると、またクスィーが良心の呵責などに苛まれる可能性もあったので、イストは話題を変えた。


「まぁ、いない方が好都合だけどな。さすがにBランクを俺一人で相手にするのはキツい」


 というか八割がた負ける。

 

 Bランクの魔獣は、パーティーも組まずに、罠の準備などもしていない状態で相手にしたい類いの魔物ではないのだ。


「ある程度は慎重に近づくぞ。まだブルンドックーの残りがいるかもしれねーし」

「は、はい」


 ぎゅ、と両手で杖を握りしめてクスィーは緊張した様子を見せるが、平原はまだ見晴らしがいい。


 木の密集している場所の近くは日光が遮られて多少草も背丈が低いので、身を隠した魔獣に不意打ちされるようなことはないだろう。


「そういえば、少し気になっていたことがあるのですが」

「なんだ?」

「先ほどブルンドックーを倒した時に何か大きな音がしたのですが、あれは?」

「ああ、邪銃(ジャガン)だよ。一応奥の手の一つだから、連発は出来ねーけどな」


 戦闘の才能が皆無で魔法も使えないイストには、なかなか重宝する遠距離用の武器である。


 すると、クスィーはその言葉に驚いたように目を見開いた。


「邪眼……!? イ、イストさんは邪眼の持ち主なのですか!?」

「そーだが。ていうか知ってるのか?」


 記憶もないわりに、そういう武器のことは知っているらしい。

 ファントム化していても、知識の類いは失われていないのだろう。


 防御魔法を使えたのも、その辺りに理由がありそうだ。


 驚きから覚めたクスィーは、なぜか興奮したように言葉を重ねる。


「世界に、数えるほどしか持ち主がいないと言われる、特殊なものではないですか!」

「そいつは言い過ぎだろうが、まぁ少ないだろうな」


 魔法が使えれば必要ない類いの武器なので、市場にはあまり出回っていない。

 貴重というよりは、流行らないと言った方が正しい。


「てゆーか、一応もうちょっと静かにしろよ」

「! す、すいません!」


 魔獣の巣に向かう途中だということを思い出したのだろう、クスィーが慌てて声のトーンを落とす。


 ーーーやっぱ天然なのか?


 そんな風に思いながら、イストは森の中に足を踏み入れた。

 

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