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スカウトマンは、少年の覚悟を問う。


「カイ、お前さん……!」

「イスト……?」


 どこか焦点の定まらない目をしていたカイ。


 彼の目が、近づいて声をかけたイストを見た瞬間に強い色を宿した。


「なぁ、オレ……オレさ」


 そこで自分の体を鎧う炎に気づいたのか、カイは自分の体を見下ろしてから、グッと聖剣の柄を握り込む。


「タウのおっちゃんを、助けたいんだ……」


 その言葉に、イストは目を見張った。


「どういう意味だ?」

「おっちゃんは……おっちゃんだけはさ、オレの夢を笑ったり、見下したりしなかったんだ」


 カイは、暴れ狂い、咆哮を上げる人狼にふたたび目を向けて、奥歯を噛み締める。


「まだ早いって怒ったり、実力が足りないって冒険者になることを認めてくれなかったけど。それでも、否定はしなかったんだ」


 イストは、タウならそうだろう、と思った。


 冒険者というのが、さほど良いものでもないとあの男は知っていただろう。


 だが、子どもは冒険に憧れることだって、彼は知っていたのだ。


 かつてトップクラスの冒険者として。

 オメガと共に戦ったあの拳闘士は、素直に冒険者に憧れるカイを可愛がっていたことくらいは、接する態度を見ただけで分かった。


 だからこそ、イストは許しがたいと思ったのだが。


「お前さんは、アイツのやったことを許すのか?」

「おっちゃんはさ……その、上手く言えないけど」


 どこか辛そうに、カイは呻く。


「イストが言ったみたいなことをする人じゃないって、オレは今でも思ってるんだ……」

「……お前さんの言いたいことは分かるが」


 それでも、プサイが目的のために手段を選ばなかったと信じ切ることは出来ない。


 しかし、イストはカイの言葉を否定せずに問いかける。


「もし、本当に裏切られていたとしたらどうする。それでも助けたいと思うのか? スティを囮にして、俺をおびき寄せたのが真実だったら?」

「分かんねーけど……事情くらいは聞いてもいいんじゃないのか!?」


 カイは、キッとイストを睨みつけた。


「イストとおっちゃんには、なんかあったのかも知れねーけど! おっちゃんは人狼になったからイストを襲ったんだろ!? だったら!」


 カイが続けた言葉に、イストはハッとした。




「ーーーもし人狼じゃなかったら、ずっとあそこで、今までみたいに居てくれたんじゃないのか!?」



 もし。

 

 それは考えるだけ意味のない話だ。


 だが、確かにカイの言う通り。

 その『もし』があれば、プサイは……タウと名乗っていた気のいい男は、これまで通りに過ごしていたかもしれない。


 イストは大きく息を吐くと、カイに問いかける。


「……その答えが、聞きたいか?」

「聞きたいよ!」

「もし残酷な真実を目の当たりにすることになっても?」

「知らないでただ殺すよりマシだろ!? なぁ、なんかないのか!? おっちゃんを助ける方法は!」


 カイの叫びは、子どもの叫びだ。

 だが、素直な感情の発露は、久しくイストが忘れていたもので……プサイが、ハジメテの村で彼を好んだ理由だっただろう。


 奴が本当に心の底から冷徹なら、彼をここまで懐かせることはなかっただろう。

 そしてこの村跡に来るまで、イストに対して腐った臭いを抑えることも出来ていなかったはずだ。


 ーーーカイの言葉には価値がある。


 プサイを助け、真意を聞く。

 それがなし得る方法は、今のところ一つだけだ。


「人狼病は、満月花(マンゲツカ)があれば治せる」


 イストの口にした言葉に、カイは大きく目を見開いた。


「ホントか!?」

「ああ。だが、そいつがどこに生える草で、どうやって花開くかを知っている奴はいない」


 それは、ただの伝説だった。

 

 満月の夜に花開き、一晩で萎れるその花を手に入れて人狼に与えれば、人の姿に戻ると。

 聖女が、自分を助けて人狼となった騎士を救うためにそれを手に入れたと言う、ただの伝説。


「伝説……」

「ああ。だが、救うことは出来ないが人狼が元に戻る方法はもう一つある。……夜明けまで、抑え切ることだ」

「夜明け……」

「人狼を殺さないまま行動不能にして、夜明けを待つ。そして説得し、満月の晩になるたびに人を害さないよう拘束して、あるかどうかも知れない満月花を手に入れる」


 そこまでやって初めて、あの拳闘士を救うことが出来るのだ。


「中途半端じゃ、お前さんもタウも苦しむだけだ」


 本当にスティとカイを、彼が利用していたのなら。

 今度は人間に戻った奴を殺すか殺さないかを選ぶことになる。


「それだけの覚悟はあるか? カイ」


 イストがまっすぐ目を見て問いかけると、勇者に覚醒したばかりの少年は、迷うことなくうなずいた。


「オレは、おっちゃんを信じる! だから、一緒に助けてくれよ、イスト!」


 力強いその言葉とともに放たれた素晴らしい芳香に、思わず口元が緩んだ。


 ーーーコイツはまぎれもなく、お前の後継者だな、オメガよ。


 心の中で呼びかけると、カイの手の中にある聖剣の宝玉が揺らめいたような気がした。


「よし。ならやろう。……めちゃくちゃ難しいけどな」


 イストが笑みとともに応えると、カイはパッと顔を明るくした。

 

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