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スカウトマンは、会うはずのない人物に会う。


 ーーー村跡、勇者の墓。


 再び訪れた教会跡は、崩れた壁から差し込む満月の明かりで青く照らされていた。


「ミロクたちが来たら、朝までここで待つ」

「朝まで?」

 

 荷物を下ろしながらイストが告げると、アイーダが眉をひそめた。


「村には戻らないのか?」

「溢れ返ってるラフレシアンがハジメテの村に降りて行かないか、だけが心配だが……俺たちはここで待つ方が安全だろう」


 夜でも、昼と変わらずラフレシアンが動くのであれば、視界が利く昼間に移動した方がこちらの負担が減る。

 スティ、カイ、それに現状ではクスィーと、守る対象が三人いるのである。

 

「それに『火』の魔弾が残り少ないからな」


 村跡に来るまでの間もラフレシアンを2、3体始末している。

 弾丸そのものは大量にあるが、減った時の補充用に魔法を込めていない状態のものが大半なのである。


 今回のメンバーに魔導士がいないのが痛かった。


「火矢なら使えるが」

「準備に時間がかかるだろ。魔除けの場所にいりゃ、少なくとも魔獣に襲われる心配だけはない」


 祭壇に突き立った聖剣を親指で示したイストは、その場に座り込んで使い過ぎた邪銃のメンテナンスを始めながら言葉を重ねる。


「ーーーそれに、明日の朝になりゃ状況が変わる」


 そもそも、魔獣退治のために派遣を要請したワイバーンの部隊が朝には到着するのだ。

 無意味な危険を冒して、夜道を行軍する必要などないのである。


 ーーーその段階になりゃ、クスィーの身の安全を魔王城に確保して動く手もあるからな。


 彼女本人、そしてアイーダやゼタの選択次第ではあるが。


「カイ。お前も少し休んどけよ」

「……別に平気だよ」


 邪銃の整備を終えたイストは、ここに来てからずっと入り口あたりに張り付いている少年に声をかけた。

 スティとミロクを待っているのだろう、ということは分かる。

 

「ていうか……誰か来た……?」


 カイの戸惑ったような口調からミロクではないと察して、イストは立ち上がった。


「誰だ?」

「分かんねー。フード被ってる、けど……見覚えがあるよーな」


 どこか納得いかなさそうな彼の後ろからイストも表を覗くと、そこには確かに彼が言った通りの人物が立っていた。


 外套のフードを被ったその人物は、かなり体格がいい。


 迷いのない足取りで歩き、村人たちの墓標の前に立ったその人物は軽く十字を切ると、ふいにこちらに目を向けた。


「いるんだろ? イスト。出てこいよ」


 その声に、カイが声を上げかけたので、とっさに口を塞ぐ。


「……黙ってろ」


 小声で耳元にささやき、イストは後ろを振り向いた。


「一人で出る。お前さんたちはここで待ってろ。そんで」


 何かあったら、逃げろ。

 そう口にしたイストに、全員が不審そうな顔をする。


「え……?」

「でも、あれは」


 戸惑ったように質問を投げてくるクスィーとアイーダに、イストは出来るだけ真剣な目を向けた。


 あれは確かによく知っている人物に見える。

 敵意や殺気といったものも全く感じない。


「ーーー危険の臭いがするんだ」


 イストの鼻は、焦げ臭さにも似た臭いと……かすかな、腐臭のような何かを捉えていた。


 その言葉に息を飲む面々にうなずきかけて、イストは教会を出る。

 そして、待っていた人物にイストは笑みを向けた。


「よう、なんでお前さんがここにいる?」

「テメェらがいるから、だよ」


 フードの向こうに見える目は、静かに、冷徹な光を放っていた。


 月明かりに照らされた彼の顔には、深いシワが刻まれており、口元にはこちらと同様に笑みが浮かんでいる。


「なるほど。でもおかしな話だ」


 イストは相変わらず鼻をつく臭いの理由を探りながら、いつでも動けるように軽くカカトを上げた。




「足が悪いはずのお前さんが、どうやってここまで来たんだ? ーーータウ」




 そう問いかけると。


 村から動けないはずのギルドマスターは、クク、と軽く喉を鳴らした。


「歩いて、さ。当然だろ?」


 怪我をしているはずの足を軽やかに動かして、トントン、と地面を爪先で打ったタウは、笑みを深くして犬歯を覗かせた。


「どうしても今日中に、テメーにここに来て欲しかったんだよ」


 そう言いながら満月を見上げたタウは、もう一度こちらに視線を戻して目を細める。


「魔王軍四天王、イスト・ヌール。古い付き合いだが、俺はテメェに隠し事が一つあってよ」

「へぇ」

「俺は昔、ある冒険者パーティーにいた。それなりに強くてな。魔王軍が人族領に攻めてきた時も、かなり戦果を上げてたんだ」


 彼の昔語りに、イストは眉をひそめる。

 今その話をする理由が、彼がこの場にいる理由なのだろう。


「俺らに、家族でも殺されたか?」

「そうだな。ある意味そうかも知れねぇ。なぁ、イスト」


 まるで、カウンターごしに世間話していた時と変わらない様子で、ギルドマスターは片目を閉じる。


「俺はテメェに言ったよな。正体を隠したきゃ名前くらい変えろって」

「……おう」

「俺はな、名前だけでなく顔もちょっとばかし変えたのさ。……改めて名乗ろうか」


 パサリ、とフードを落としたギルドマスターは、軽く頭を振ってから言葉を重ねる。




「俺の本当の名は、プサイ。ーーー勇者オメガと共に旅をしていた、拳闘士だ」



 

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