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スカウトマンは、地雷を踏み抜いたようです。


 その後、夕食を終えた後。


「おう、ゼタ」

「何? おっちゃん」


 満腹になってお腹をさすっていたゼタに、タウが声をかけた。


「模擬戦を見てたが、お前、絶対重戦士より拳闘士のが向いてるぜ」

「え?」

「やっぱマスターもそう思うか?」 


 キョトンとするゼタの代わりにイストが答えると、タウは軽くうなずいた。


「ああ。あんだけ動けるなら、下手に防御を固めるより先制で潰した方が早ぇだろ」

「それ、さっきイストにも言われたけどさ。私、拳闘士の装備とか持ってないよ?」


 ゼタは少し困ったように首をかしげた。


 双子で顔はそっくりなのに、性格が違うだけでこれだけ表情も違うのか、とイストは関係ないことを考える。


「だろうな。だからコイツをやるよ」


 タウは、手に持っていた袋を掲げた。


「昔、俺が使ってた爪系の装備だ。……まぁ服の方はデカい上に使い古したもんだからやれねーが、コイツはモノがいい」

「そうなの?」

「ああ。Aランクの装備でな。使用者に合わせて大きさが変わる神秘の武具だ」


 タウが差し出した袋と彼の顔を見比べて、ゼタは戸惑った顔をする。


「そんな貴重なもの、貰えないよ。大事なんじゃないの?」


 彼が昔拳闘士だった話は、イストも聞いていたので知っていた。

 貴重なものである以上に、彼の冒険者時代の思い出の品のはずだが、タウは笑って手を軽く振る。


「どうせもう、この足のせいで使えやしないしな。こやしになってるよりは、使われたほうがコイツも幸せだろ?」


 まるで、意思を持っている相棒であるかのように武具のことを告げてから、押し付けるようにゼタに渡す。


「持っていけよ」

「うん……」


 うなずきながらも、ゼタはちらりとアイーダを見る。


 すると見られた双子の姉は、自分の腰を示した。

 そこには、つい先ほどミロクから受け取った刀が下がっている。


「タダでもらう、というのは気が引ける。それは分かるが、イストの言うこともマスターが言うことも正しい」


 アイーダ自身も、先ほどミロクが『タダでやる』と言った時に渋ったのである。

 その張本人であるウサギ獣人は、タウとニヤッと笑みを交わす。


「こやしとくくらいなら、誰かに使われた方が武器が喜ぶ、というのは、我も賛同する」

「だろ?」

「二人の好意だ。金銭で賄えないのなら、恩義は、いずれ別の形で返せばいい」


 アイーダの言葉に、ゼタはうなずいて、おずおずとタウの顔を見て笑みを浮かべる。


「ありがと、マスター」

「おう」


 タウが腕組みをして満足そうにうなずいたので、イストはそれらの話をニコニコと聞いていたクスィーに目を向けた。


「お前さんは、結局どうするんだ?」

「はえ?」


 話を振られると思っていなかったのか、両手で木製カップを持ってお茶をすすっていた彼女が目を丸くする。


「聖騎士の話だよ」

「「聖騎士!?」」


 アイーダとゼタがよく似た声音をハモらせたので、イストはうなずいた。


「ああ。クスィーの適性に一番合ってるのがそれだったからな。ゼタが拳闘士になるなら、つけてた鎧が空くだろ?」


 三人は体格はともかく背丈は似ているので、クスィー用に少し調整すれば彼女も身につけられるはずだ。


「『預け屋』に預けるより、有効活用出来ると思うんだが」


 といっても、アイーダやゼタと違い彼女の返事は保留状態だ。

 なので今改めて意思を確認したのだが。


「そ、そうですね……」


 クスィーが、絶句している二人を見ながら曖昧な返事をしたので、イストはそれ以上突っ込まなかった。


「ま、明日までに決めてくれ。今ならまだ村で調整できるし、『預け屋』に預けてからやっぱやる、ってなると余計な金がかかるからな」

「分かりました……」


 そこから話題を変えて、たわいもない話をしていたが。


 アイーダが青ざめており、ゼタがチラチラと彼女の様子を気にしているのを、当然イストは見定めている。


 ーーー守る相手だから、って以上のことがありそうだなー。


 そのうち、ボチボチ眠くなってきたので、イストはその場を引き上げた。


 いくら若さを保っているといっても、さすがに昨日の強行軍は体力のないイストにはなかなかキツかったのだ。 

 部屋に戻ってベッドに倒れこみ、しばらくするとコンコン、と部屋のドアがノックされる。


 返事をすると、帰ってきたのはアイーダの声だった。

 ドアを開けると、彼女は真剣な顔でこちらを見上げている。


「……少し、話がある」


 押し殺したようなその声音に、イストはぽりぽりと頭を掻いた。


 ーーークスィーの話が、よっぽど地雷だったか?


 そんな風に考えながら、問い返した。


「外行くか?」

「いや。誰かに聞かれるのを極力避けたい……」

「なら、中に入れよ。後ろから襲いかかってくるのはナシだぞ?」

「そんなことはせん」


 ムッとした顔をするアイーダに、イストは笑った。


「ただの冗談だよ」

 

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