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スカウトマンは、ギルマスの世間話に付き合う。


「つ……疲れた……」


 ラフレシアン調査を終えて村に戻ったイストは、フラフラと部屋へ向かい、ドサッとベッドに倒れ込んだ。

 

 疲れたら野宿の予定で、とりあえずゴブリンの村がある山を探索してみたところ。


 ちょっと尋常ではない数のラフレシアンが、出現範囲を特定するなんて作業はいらないほど大量繁殖していたのである。


 下手をすれば山が呑まれる可能性すらある数で、1匹2匹駆除したくらいではどうにもならない。


 幸いだったのは、足取りを追ったそれらが水辺近くの窪地で繁殖していたことだ。


 迷い出るには少々入り組んだ地形であり、水を求めて彷徨い出る可能性もなく、基本的には日中常に日差しがある場所だったのだ。


 ーーーまるで計ったみてーにな。


 見た瞬間は戦慄しただけだったが、繁殖している場所の条件が良すぎたこと、状況や目撃例からもそう長い時間をかけて繁殖したわけではないだろうことは見て取っている。


 ーーー誰かが、わざわざ繁殖させてるはずだ。


 そう思いつつも、イストは撤退した。


 燃やせばあるいは、駆除だけは可能だが、ゴブリンたちが住む村まで延焼すれば彼らの住む場所もなくなり、レッドブルンも寿命を待たずに死ぬ。


 戻ってきた瞬間にドライに連絡は入れておいたので、すぐに動いてくれるだろう。


 もし窪地を埋めるラフレシアンたちに気づかずに迷い込んで、朝になったら。

 一斉に花粉を撒き散らされ、抵抗すら出来なかっただろう。


 なのでイストたちは、とりあえず迷い出て休眠していたラフレシアンを数匹駆除しただけで撤退した。


 それでも、口元を水に濡らした布で覆い、燃やして死亡したら火を消す作業はかなり骨が折れたのである。


 一度は火をつける前に目覚めてしまい、他の面々と連携して倒すのに難儀した。


 ーーーだけど、収穫もあったな。


 ウトウトしながら、イストは戦闘の時のことを思い返す。


 焦れたアイーダが前に出て、ゼタが危険な状況からクスィーを庇おうとして隊列を乱し、クスィーはクスィーで、防御結界で他の人間を庇おうとする。


 動きがちぐはぐすぎて、的確にラフレシアンの触手を斬り飛ばしていたミロクが呆れ返っていた。


『バラバラじゃの』


 ーーーそう、バラバラだ。


 それぞれの放つ才能の芳香も、妙な具合に混じり合って妙なものになっていた。

 あのままでは問題がある。

 

 ーーーだが、上手い形に揃え直せれば……。


 そんな事を考えながら、イストは深い眠りに落ちていった。


※※※


「おう、連日ご苦労さん」


 一昨日よりもさらに寝坊し、夕方近くに起きたイストにタウが声をかけてくる。


「体バキバキだわ。首が痛ぇ」

「ほぐしてこいよ。外でお嬢ちゃんたちが坊主と遊んでる」

「……アイツ、本気で暇なのか?」


 自分が村で過ごしていた子ども時代は、家畜の世話やら家事手伝いやらで駆けずり回っていた記憶しかないのだが。


「アイツは朝の担当なんだよ、基本はな。あれでも仕事は早ぇんだ」

「へぇ、よく知ってるな」

「そんなデカい村じゃねーし、スティも来るからな。ただ、一日働かせてると気づいたら勝手にどっか行ってるってんで、そんなら朝と昼で仕事終わらせたら好きにしとけって親が言ってるとよ」

「……腹が減ったら勝手に帰ってくるからか」

「ご名答」


 イストの言葉に、タウはニヤリと笑いながらコトンと白い液体をカウンターに置いた。


「その小僧が絞った牛の乳だ。今日のシチューの材料だが、おすそ分けしてやる。新鮮で美味いぞ」

「おー」


 ありがたくもらうことにしたイストは、それを味わって飲んだ。

 甘みの強い良質な味がする。


「さて、そんじゃ表でも見てくるかな」


 大きく腕を上げて肩を伸ばしながら、イストが入口に向かおうとすると、タウが夕暮れ空を見上げながら言った。


「満月は明日だな。きっと綺麗なまんまるだぜ」

「おー、そうだなー」


 夜に山を探索するのに、闇に覆われずにいい感じだった。


「イストは、連れ合いをつくらねーのか?」

「あん?」


 思いがけないことを聞かれて、イストは思わず振り向いた。

 タウが、大きく腕を広げて肩をすくめる。


「この歳まで独り身で足も悪いってなると、なかなか難儀でな。相手がいりゃ少しは楽かと考えることがある」

「根無し草でランクも上げられない冒険者と連れ添おう、なんて奇特な奴は早々いねーよ」


 イストはお互いに利用し合う関係は好きだが、結婚となると話は別だ。

 まず連れ合いを見つけるにはこちらの素性を明かす必要があるし、その上で相手が自分よりも先に死ぬことを受け入れなければならないのだ。


 そこまで惚れ込む相手には、今のところ出会ったことがない。


「初期職にしかつけない冒険者……身を固めて落ち着くでもなく、のたれ死ぬでもなく、金にならないことばっかやるお人好し。テメェは本当に不思議な奴だよ」


 しみじみと言われて、イストはどう答えたらいいものか分からず頬を掻く。


「あー……金にならないことばっかやってんのはその通りだけど。それは仕方ねーだろ。いつもじゃねーぞ?」


 目まぐるしく色んなことが積み重なって、依頼をこなす暇がないだけだ。


「ま、俺自身の人が好いのは否定しねーけどよ」

「そこは少しくらい謙遜してみろよ」


 タウが苦笑し、また窓の外に目を向ける。


「そろそろ出るんだろ? もう一回くらい墓参りにゃ行くのか?」

「どうだろうな。神聖都市の方に向かうなら、途中で寄るだろうけど」


 ドライが人を派遣してくるのにかかる時間は二日ないだろう。

 それに合わせて出るつもりではあったが。


 イストはそんなことを考えながら、寝癖のついた髪をかきつつ欠伸をして、外に出た。

 

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