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スカウトマンは稽古をつける。


「話は終わったか?」


 宿に戻ると、外の壁にもたれて目を閉じていたミロクが、こちらの気配に気づいたのかピッと黒ウサギの片耳を立てて問いかけてきた。


「ああ。ラフレシアンがどのくらい広がってるか、歩き回って調べろってよ」


 高くなってきた日差しに目を細めつつ、グチっぽくそう伝えながら肩をすくめる。


「自分で探すのなら、その場で始末してしまえば良いではないか」

「あのな……そんなやり方でシラミ潰しにやってったとこで、どんだけ掛かると思ってんだ? まして相手も増えるんだぞ」


 繁殖する速度よりも減らす速度の方が早くなければ駆除の意味がないのだ。

 そういうのは数がモノを言うので、イスト一人ではどうにもならない。


「まぁ、我は飽きるまでお主について行くだけ身ゆえ、特に問題はないがの。今夜のことについてはどうするつもりかの?」

「ああ……レッドブルンの件なぁ……」


 魔獣をどうするか、という解決策を、今夜までに準備しなければならないのだが。


「そいつについては、一応案は浮かんだよ」


 言いながら後頭部を掻くと、ミロクは感心したように隻眼を大きく開く。


「ほう。さすがだな。やはり眠ったからか?」

「頭はスッキリしたからな……後は、俺のレッドブルンに対する予測が正しくて、ゴブリン達がこっちの案を受け入れりゃ多分、解決するよ」


 そのためには、最初にクスィーと出会った場所に行かなければならない。 

 ブルンドックーの死骸から、取ってこなければならないものがあるのである。


「死骸は獣や鳥に食い散らかされてるのではないか?」

「毛皮さえ残ってりゃ良いんだよ。量もそんなにいらないしな」

「ふむ。では今から赴くか?」

「ああ。……クスィー達の話が終わるのを待ってからな」


 イストは、軽く傾きかけた太陽を見上げて目を細める。

 ここ最近は晴れが続いているのでありがたいが、山の天気は変わりやすい。


「せめて今夜くらいは、晴れたまんまだと嬉しいんだが」

「雲の形は雨天を知らせておらん。湿り気も感じんから、せいぜい降っても小雨だろう」

「なら安心だ」


 ミロクの言葉にイストが小さく笑いかけると。


「おおおおおおおおおおいっ! イストーーーーーーー!!!!」


 突然、やかましい大声とともにダダダダダッ! と走る音が近づいてくる。


「イスト。やかましい小僧がお呼びだぞ」

「振り向きたくねぅごるぁ!?」

「ドーン! 耳遠いのかーーーーッ!?」

「ウルセェよカイ!! テメェはちょっと静かに出来ねーのか!?」


 勢いも緩めないまま、背後から飛びついてきて耳元で怒鳴る日焼け肌の少年をイストは振り払った。

 そのまま、ゴン! とげんこつを振り下ろす。


「イッテぇえええええ!?」

「そりゃこっちのセリフだボケ!」


 頭を抱えてうずくまるカイに、イストは殴った手の痛みを散らすためにプラプラと振りながら答えた。


 めちゃくちゃ石頭だ。

 加減なしで突撃された背中も痛い。


「何しにきたんだよ?」

「何しにって、修行だよ修行!」


 ガバッと身を起こしたカイは、両手に一本ずつ握った木剣を、構えらしきポーズをビシッと決めた。


「ちゃんと剣持ってきた!!!!」

「頼んでねーし。ていうかなんだ修行って」

「冒険者になるには強くなくちゃだろ!? イストはザコっぽいけど一応冒険者だし、稽古してくれ!」

「それが人にモノを頼む態度か!?」


 片方の木剣を突き出してくるカイから、それを受け取ってそのままもう一度ゴツン、と頭に軽く振り下ろす。


「うぉおおおおお!? 痛い!?」

「中身空っぽな分、固いんだから大丈夫だ」

「ん? それは褒められてるのか!?」

「褒めてる褒めてる」

「そーか!」


 痛みは会話をしている間に忘れるらしい少年は、ふふん、と得意げに胸を逸らす。


 ーーーやっぱバカだ。


「この小僧の頭の中はどうなってるのかのう?」

「お花畑なんじゃね?」


 ちなみにそう言うミロクの脳内には、飯と戦いに関することしか詰まっていなさそうだが、指摘してもしょうもないのでわざわざ言わない。


「ったく、しゃーねーな。……クスィー達が降りてきたら教えてくれよ、ミロク」


 言いながら、イストは外套を脱いだ。

 腰の【七ツ導具】や足のスリットポーチはそのままだが、実戦でもないのにこの暑い中フル装備で戦いたくない。


「何じゃ、文句を言っても付き合うのか。人が良いな」

「ん? まぁ元々体を動かすつもりだったからな」


 カイが相手なら、ちょうど良い準備体操になるだろう。

 ぐるりと首を回したりと体を軽くほぐしていると、ミロクはさらに話を続ける。


「ふむ。ではそれが終わったら我とだな」

「いや、やらねーからな?」

「なぜじゃ?」


 ーーー強ぇからだよ!


 しかもこっちの本気を引き出すために、本気で斬りかかってきそうなニオイがプンプンする。

 真正面からツッコンでも諦めないかもしれないので、イストは話を逸らすことにした。


「なぁ、ミロク」

「む?」

「俺は弱い者イジメが好きなんだ。強い奴からは逃げる」

「堂々と情けないことを言うな。それでも男か」

「強い弱いに男も女も関係あるか。お前さんの方が強くて、カイは俺より弱い。つまりそういうことだ」

「なんだとーーーーー!!!???」


 案の定、はっきり言ってやると、カイはブンブンと木剣を振り回しながら挑発に乗る。


「イストなんか、指先一つでボコボコに殴れるぞ!!」

「どうやってだよ」


 その言い方なら、せめてデコピン一発でダウン、くらいだろう。


 ーーーま、扱いやすくて助かるけどな。


 そう思いながら、イストは興奮しているカイに向かって、半身になった。

 軽く剣を握った左手の袖をまくってから、片手で構えたまま肩から力を抜いて踵をわずかに浮かせる。


「よし。いつでも来いよ」


 言いながら、イストは口の片端をあげて片目を閉じた。

 

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