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スカウトマンは不審な話を聞く。


 イストは、ドライに連絡を入れた。

 

 使ったのは、遠方と連絡を取るための魔導具……【風の宝珠】である。


『何?』


 即座に繋がった先から、相変わらず素っ気ない口調で返事があった。

 イストが事情を説明すると、ドライは端的に問いかけて来る。


『ラフレシアンね。情報が少ないけど、根拠は?』

「俺の鼻」

『そ。なら裏付けよろしく』

「やっぱり?」


 素直に答えたら即座にそう切り返され、イストは肩を落とした。


 まぁイスト自身も、応援が欲しいとは思っていたものの、ドライが簡単に応じてくれるとは思っていない。


「出来れば、被害が出る前に始末をつけたいんだが」

『それはそうね。兵を出す準備はしておくわ』

「出動要請が受理される条件は?」

『ラフレシアンが繁殖してる証拠。個体遭遇歴と目撃範囲ね。半径5キロでよろしく』


 あっさり言うが、かなり面倒くさい仕事である。


 言うだけ二秒だが、まず山の中を探索してラフレシアンを探し出し。

 最低四体程度の位置を特定した後、地図に印を打つ。

 最後にその中心点から円を描いた中で、一番遠い個体が半径5キロを超えていたら派兵する、ということだ。


 つまり『くまなく山を歩き回って探索しろ』と言われているのに等しい。


「あー……ワイバーンを一匹貸与してくれたりなんか?」

『予算は? ていうかそもそも一人で乗れないでしょ』

「いやでも、山一つだぜ……? 一人でやんのかよ?」

『あなたが引き受けたのは、辺境査察の任務のはずだけど。手が必要なら根拠、これ鉄則』

「ですよねー」


 ラフレシアンが二匹確認されただけでは『繁殖している』として派兵は出来ないということだろう。


 実際彼女に権限があるわけではなく、軍部に要請を出すところから始まるのである。

 そのための説得材料が欲しい、ということだ。


 魔王を通せば無理も利くが、緊急かどうかはイストも判断し切れていない現状でそうした手段を使うのは好みではなかった。


 ーーーま、受けてくれりゃラッキーくらいだったしな。


「準備するのは、フィーア辺りにしといてくれ」

『……そこまでの事態なの?』

「いや。そろそろ暇してるだろうなと思って」


 最強の竜戦士は、最弱の自分同様事務に関してはからっきしで、未だに他の四天王以外との連携が取れない困ったヤツである。


 強いということは偉大なことだ。

 何せ仕事をしないで給料を貰っても文句は言われない。


 ノインに散々小言を食らうイストとは、大違いである。


「ま、証拠は集めるよ。じゃーな」


 そのまま引き下がって通信を切ろうとしたところ、珍しくドライの方から引き止められた。


「何だよ?」

『神聖国家ナムアミの動きが少しきな臭い感じ。最近、聖教会が権力を強めてる感じがするわね』

「聖教会……?」


 その名前を聞いたのは久しぶりだった。


 今は故郷の村跡にある聖剣を、オメガが手にする以前に保管していた組織である。

 勇者パーティー側にいた聖女が元々属しており、対魔王軍の急先鋒だった。


 世界征服の後、報復行為に関しては魔王政府発足とともに禁じてはいたが、勢力は衰えていたはずである。


 衰えたと言っても、魔王軍最大の敵であった神聖国家は未だに国そのものは警戒対象として監視下にあるのだが。


 が、当時の青年だった者たちもすでに初老の域に達しているため、完全に世代交代が起これば警戒レベルを引き下げるということで、魔王政府内では合意していた。


「権力を強めてるってのは、どんな風に?」

『まだよく分からない。最近の記録を遡っても取り立てて怪しい動きはないし。でも、数年前から王族の露出が徐々に減ってるのよね』

「……単にトシなんじゃねーのか?」


 あの国は、王家が教会の最高位である法皇を兼任している。


 王家そのものは魔王軍に降伏する前からお飾りではあるものの、宗教、行政、軍部がかなりそれぞれの権益にうるさいため、聖教会が他を侵せば騒ぎになるはずだ。


 また法皇は現在、かなりの高齢である。


「今まで大人しくしてて、このタイミングで反乱を起こす意味があるか……?」

『準備を整えてた可能性はあるけど。王の代わりに聖教会の大司祭が祭事を行うことが増えてるのよね』

「ふーん……? やっぱピンとこねーけど」

『法皇は世襲だけど、権を譲るのは生前でも可能。だから、もし体調の問題なら新王が立つはずなのにそれがない。だからおかしい』

「なるほど。この件が落ち着いたらついでにそれに関して調べろってことか?」

『何か仕掛けてくる可能性がある。元勇者パーティーの連中は行方が分からないし、あなたのことを知ってるから』


 直接顔を合わせて対峙し、かつオメガにイストがトドメを刺したことを知っている連中だ。


 その時の記憶が蘇ると同時に、その時に耳にした声が幻聴として聞こえた。


 オメガーーー! と悲痛な叫び声を上げた、一人の聖女の声だ。


 半狂乱になり、必ず殺してやる、とイストを睨みつけたあの苛烈な視線を、忘れてはいない。


『警戒して。何事もなくてもいいから、万一に備えて』

「……分かったよ。お前さんは心配症だな、ドライ」


 イストはわざと軽く笑ってから、通信を切った。

 

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