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スカウトマンは、マスターに情報をもらう。


「おはよーさん。珍しく色々拾ってくるが、今年は豊作か?」

「うっせ」


 おかしげにニヤニヤするタウに、イストは寝癖のついた頭を掻きながらカウンターに腰掛けた。


 村に着いたのは早朝で、朝飯も食わずに寝たので腹の虫が鳴いている。

 昼過ぎの今まで寝こけていたので眠気は取れたが、体がダルいのでイストは大きく伸びをした。


 ーーー後で、少し体動かすか。

 

 経験上、こういう怠さは欲求に従ってダラダラするよりも、一度体を動かしてしゃっきりした方が調子が良くなると知っている。


 カウンターに座っていると、シチューが出てきた。


 ホワイトシチューだ。

 それに黒パンをつけて噛むと、じゅわりと滲んだ甘い香りと濃厚な味わいが口の中に広がる。


「美味ぇ。ギルドやめて食堂だけでもやってけそうだな」

「この足がまともならな。せめて歩けるくらいで止まっといてくれりゃいいが、年々痛みがひどくなりやがるんだよ」


 タウは人がいなくて暇なのか、カウンターに肘を着いて足を叩きながら話しかけてくる。


「新月草、わざわざ取りに行ってくれて助かったぜ」

「いいけどよ。え、もう持ってきたのか?」

「煎じ薬だからな。ここの薬屋は乾きの魔法も使えるし手が早ぇんだ」

「はーん」


 それなら早く採ってきた甲斐があったな、とうなずいたイストに、タウは持ち上げた口を縛った布袋をプラプラと振る。


「さっき、スティの嬢ちゃんが、この通りよ。クソうるさいガキもついでに付いてきたが」

「ああ、あいつが大騒ぎしてる声で目が覚めた」


 しかしタウも、彼に対してはそういう認識らしい。

 クソうるさいガキ、と言うのは間違いなくカイのことだろう。


「冒険者になりたいって言ってたけど」

「おう。剣のスジはそれなりにいいんだが、どう考えても頭の方がな……」


 眉根を寄せたタウに、イストもククク、と肩を揺する。


「確かに。止める奴がいないと、いきなり痛い目に遭いそうだよな」

「そう。だから成人するまでと条件をつけちゃいるが、本当は冒険者証を出したくねーんだよな……」


 身を起こして腕組みし、アゴヒゲを撫でた彼は、意味深にイストを見下ろした。


「連れて行くか?」

「本当にスジが良けりゃ考えるがなぁ。でも、勝手に連れてったら親が怒らねーか?」

「両親は呆れ返って『好きにしろ』って言ってるが……スティがな」

「ああ……」


 困ったように苦笑するタウに、イストは彼の言いたいことを悟った。


「なるほど。惚れてると」

「出て行くっつったら、猛反対するか、一緒に行きかねない勢いでな」


 微笑ましい話だ。


「じゃ、連れて行けねーな。女の子を悲しませるわけにゃいかねーし。いっそスティの許可がもらえたら、にしとけよ。条件を」

「悪くねーな。俺もギャンギャン騒がれることが減るかもしれん」


 イストはそこで、底まで綺麗にさらったシチューの皿を差し出す。


「おかわり」

「追加料金」

「臨時労働の対価」

「早朝に叩き起こされた分の手間賃」

「ケチ野郎」

「お互いにな」


 皿の横にパチン、とコインを二枚置くと、タウは一枚だけ取った。


「半額にしといてやるよ」

「最初からそう言えや」


 いつもの軽口の叩き合いをした後、おかわりのシチューを受け取りながらイストは本題を切り出した。


「そういやマスター」

「なんだ?」

「ここ最近、俺の情報誰かに売ったりした?」


 さらっと伝えたが、タウの目はごまかせなかったようだ。

 妙に思った表情をした後に、声を低くする。


「何かあったか?」

「少しな」


 冒険者には、中身が話せないこともあるのでそうボカすと、タウはそれ以上追求しなかった。

 イストは、ゴブリンに自分の話を伝えた相手のことが気になっていたのだ。

 

「お前の情報は売っちゃいないな。だが、お前が目的にしてる『墓』の情報は売った」


 勇者の聖剣がどこにあるか、という情報を買った者がいるらしい。


「男か?」

「いや、女だ。白いローブを身につけてたな」


 イストが目を細めると、タウは軽く手を振って否定する。

 

「女……」


 それはむしろ嫌な情報だった。

 なにせイストの周りにいる情報に精通した女たちは、そこらへんの男どもよりよほど厄介なのである。


 剣のありかを今更知る必要がある者、しかもイストを知っている誰かだと仮定すると……正直、魔王政府に敵対的な誰かの可能性が高くなってくるのだ。


 植物魔獣ラフレシアンの繁殖といい、破壊工作なのか、もしくはイストをハメようとしているのか。


 ーーー警戒しとくに越したことはねーか。


 そう考えたところで、外から誰かが帰ってきた。


「戻りましたー」

「おう、嬢ちゃん。助かるぜ」


 振り向くと、腕まくりをしたクスィーが水瓶を抱えていた。


「……何してんだ?」

「イストさんたちが眠っている間、暇だったので、お手伝いです!」


 私はお金もないので、というクスィーはどこか生き生きとしていた。

 彼女に有り余る奉仕の精神が満たされているのかもしれない。


 ーーーまぁ、本人が満足してるならなんでもいいけど。


 そうしてイストがカウンターに向き直りかけると、今度は奥の貸し部屋スペースにつながるドアが開いて、アイーダとゼタが姿を見せる。


 アイーダの方はきちんと身なりを整えていたが、ゼタは鎧を脱いで髪もボサボサだ。

 双子なのに対照的な二人に、イストは片手を上げた。


「よう、おはよう」

「ああ、おは……!?」


 と声を上げかけたアイーダが、驚愕したように目を見開く。

 その横で、ゼタもぽかんとした顔をしていた。


「……?」


 どうかしたのか、と問いかけようとしたイストが口を開く前に。


 彼女らは、水瓶を抱えた治癒師を見て声を張り上げた。




「「ひっーーークスィー様!? なんでこんなところに!?」」




「え?」

「あん?」


 キョトンとしたクスィーとイストは、思わず顔を見合わせた。

 

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