スカウトマンは、薬草採取に付き合うようです。
話を聞いたところ、カイとスティは薬草取りに来たらしい。
「私の家は薬師をしているんです。なので、その材料を採取しに来ました」
利発そうな少女のよどみない説明の後、しゃきーん! とナタを構えてカイが続ける。
「そして俺は、その護衛としてここにいるのだ!」
「薬摘む手伝いをしろってあなたのお母さんに言われて来たんでしょ!? 家にいても遊んでるだけだからって!」
「だってお前の方が詳しいじゃん! 俺、薬草の種類とか間違えて怒られるし!」
「手伝いをしなくていい理由になってないでしょうがあああああ!! 覚えなさいよ!!」
後、ナタを振り回すな! とまた、少年が少女に頭をはたかれる。
どう見ても保護者と問題児だが、仲は良さそうだ。
「つまり、スティはカイの世話を押し付けられてるってことでいいのか?」
「人聞きの悪いことゆーな! 俺が世話してるんだ!」
「いや、どう考えてもそれはねーだろ」
「即答ッ!? 俺をバカにするなんて、やっぱお前は悪いヤツ!!」
「ナタを振り回すなって言ってるのよ!!」
ついに少女に蹴りつけられる少年だが、ギャンギャン文句を言いつつもビクともしていない。
体幹がしっかりしているのだろう。
体も頑丈そうだし、猪突猛進でバカなところも見ようによっては長所だ。
めちゃくちゃ前衛向き……それも完全にアタッカー気質である。
ーーー鍛えるところは状況判断力、ってところかな?
危険に対する嗅覚がどの程度あるのか、が分からない。
少なくとも自分の実力を把握せずにイストに襲いかかって来た時点で、危機『管理』に関する部分は落第レベルの評価だが。
「後、イストさん」
「ん?」
クセでカイの適性を見極めていたイストに、スティが顔を向ける。
どこか顔が怒っているというか、少し不機嫌そうな感じだった。
「一方的に世話を押し付けられてる、て訳ではないですよ。薬草採取には確かに役に立たないですけど、カイは山で絶対迷わないし、どこからでも村の場所が分かるんですよ」
「へぇ」
その言葉に、イストは二重の意味で感心した。
一つは、スティがカイを正当に評価する言葉を口にしたこと。
もう一つは、カイの能力に関してである。
「へへ、この山は俺の庭だからな!」
「そうやってすぐ調子に乗らないの!」
鼻の下を掻くカイの脇腹を、スティが肘でこづく。
仲が良さそうで何よりである。
ーーーしかし、コイツも原石っぽいなぁ。
地理の把握というのは、あまり後付けでどうにかなる類いの能力ではない。
地図もなしにそれらを把握できる、というのは感覚の鋭さがモノをいうのだ。
まぁ、理性よりも感情で生きていそうなのは今少し見ただけでも分かるので、カイはそういう少年なのだろう。
何の匂いかは分からないが、挑みかかって来た時に香りも感じたことだし。
そんな風に思いながら、イストは一番気になっていたことを尋ねてみた。
「で、カイは何でここにある剣のことを知ってたんだ? もしかして、台座を掃除したのもお前さんか?」
「雨の次の日に山に入ったら、この辺りでなんかデカい音がして来てみた! そしたら、あんま近づくなって言われてた教会んとこの壁が崩れてたから、中覗いた時に見つけた!」
カイの説明に、スティが眉根を寄せる。
「……あんたもしかして、中に入ったんじゃないでしょうね?」
「入ってねーよ! 入りたかったけど、それしたらタウのおっちゃんが冒険者にしてくれねーって言ってたし!」
「ん? お前さんタウと知り合いなのか?」
そんなに広い村でもないので、全員顔見知りでもおかしくはないのだが。
「顔見知りってか、冒険者にしてくれって言ったらまだ早いって言われて! 約束守れば、成人したら考えてくれるって言うから!」
「当然でしょ! 皆に反対されてるのにそろそろ諦めなさいよ!」
「ヤだ!」
ーーーてことは、台座を掃除したのはカイじゃねーのか。
タウは足が悪いので、こんなところまで登っては来ないだろう。
彼は教会の中に聖剣が安置されていることは知っているし、抜けないことも知っている。
謎は残るが、それよりも大事なことが一つあったので、イストはジッとスティを観察した。
冒険者になるならない、で口論を続けているが、スティはたまに何かを堪えるような顔をしている。
ーーーこの子、どう考えてもカイに惚れてるよな。
もちろんオトナなので、そんなことを当人が揃っている状態で口にはしないものの、ちょっと楽しいので思わずニヤけてしまった。
「? イストさん? 何笑ってるんですか!?」
「いやいや、冒険者になるって言っても、今のカイの実力じゃ無理だろうなーって思ってな」
内心で考えていたことなどおくびにも出さず、イストは口元に手を当てて嘘をつく。
「何だと〜!?」
すると、カイが地面をダンダン、と踏みつけてから、ビシィ! とこちらを指差して来た。
「なら勝負だ! さっきは手加減してやってたんだからな!」
「どう考えても全力だっただろ、ガキんちょ」
イストは突きつけられた指先を払って、ポンポン、とその頭を軽く叩く。
「ま、稽古つけてやってもいいけど、その辺は村に戻ってからな。それより、薬草摘んで帰ろうぜ。付き合うからよ」
「え、ほんとですか?」
スティの言葉にうなずきかけてから、イストは空を見上げる。
山を降りるのにさほど時間はかからないにしても、彼女のカゴにはまだ半分程度しか薬草が入っていなかったので、もう少し必要だろう。
なら、日が暮れる前に出たい。
「この辺りに、レッドブルンがいる可能性があるんだ。タウには伝えたんだけどな」
「魔獣が……!?」
イストの言葉にスティは顔を強張らせたが、カイはへへん、と鼻を鳴らした。
「出て来たら、俺がやっつけてやるよ!」
「はいはい分かった分かった」
「あしらい方が適当!?」
「ガキの戯言に、いちいち真面目に付き合ってらんねーの」
ほれほれ、とカイの背中を押して、スティを手招きする。
「さっさと終わらせて帰ろうぜ。三人でやったら少しは早いだろ?」