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98.ファミリアの名前決め

 ファミリアの名前を決めなければいけない期日まで残り一日。

 午前の指導を終えた昼食の全員がそろっているタイミングで「クロエ、話があるんだよね?」というシラユキさんの言葉で、私は頭を下げて切り出した。


「ファミリアの名前を考えて提出するのが明日までなので一緒に考えてください!」


 ジャスミンさんとベルさんが目を大きくさせる。


「え! アタシたちのファミリアの名前!」

「ベルたちが、決めていいの……?」

「サンズさんにそう言っていたのを完全に忘れてまして……」


 キラキラした瞳で私を見つめてくる二人に、申し訳ない、ともう一度頭を下げる。

 そんな二人とは反対に、正面に座っているアリエルさんが舌打ち混じりに言った。


「なんで前日に言うんだよ」

「う……すみません……」

「まぁまぁ、アリエル」


 不機嫌そうに頬杖をついているアリエルさんをシラユキさんがなだめる。


「クロエだってここ数日は忙しかったんだから、多少はね?」

「そうだよアーちゃん! まだ時間はあるんだし」

「あ、アリエル姉様も一緒に考えたら、すぐ、だよ……?」

「だとしても、この先もこんなんだとオレたちも困るだろ」

「アリエルさんの言う通りです。今後は気をつけます」


 三人が庇ってくれるのは嬉しいけど、この場合はアリエルさんが正論だ。

 ファミリアのマスターになったのだから、私も気を引き締めないと。

 私が頭を下げると、アリエルさんは意外そうに、

 

「……言い訳しねぇのか」

「しようがないですから」

「あっそ」


 冷めた口調で言って、アリエルさんが会話を打ち切る。

 本当は、というか思い描いていたのはみんなでワイワイ言いながら意見をぶつける感じだったけど、ダイニングは静かになってしまっていた。

 それを打ち破るように、シラユキさんが咳払いをして明るい声で言う。


「さて、早いところ決めてしまおうか」

「はーい!」

「べ、ベル……がんばる……っ」

「すみません、よろしくお願いします」

 

 シラユキさんは一人つまらなさそうにしているアリエルさんを見て、「ふむ」と考える。

 私を責めたら三姉妹が私を庇ってくれたので、アリエルさんとしてはバツが悪いのかもしれない。


「どうやらアリエルは参加しないみたいだから、ボクたち四人で決めようか」

「はぁ!?」

「ボクたち四人で、楽しくね」


 シラユキさんの言葉にアリエルさんが反応する。


「なんでそうなるんだよ!」

「えぇ! アーちゃん参加しないの!?」

「あ、アリエル姉様も……一緒に……」

「だから、別に参加しねぇとは誰も」

 

 妹二人に迫られて、アリエルさんはシラユキさんに焦った様子で言う。


「ん? アリエルも参加するのかい? 不機嫌にしていたから、てっきり話し合いに加わらないのかと」

「そうは一言も言ってねぇだろうが」

「だったら、一緒に決めてくれるんだね?」

「……やるよ」

「別に無理強いはしないけど」

「やるっつってんだろ! いいよやってやんよ! 別にこいつのためじゃなくて、オレたちのファミリアのためにな!」

 

 早口でまくし立てて、ビシッと私を指差すアリエルさん。 

 その後、ふんっと鼻を鳴らしてそっぽを向いたアリエルさんにシラユキさんは苦笑を浮かべた。

 

「まったく……素直じゃないね」


 シラユキさんが「さてと」と仕切り直す。


「クロエ、まだ何も決まっていないと言っていたけど」

「はい」

「何か候補くらいはないのかい?」

「一応、昨日いくつかは考えてみました」

「聞かせてくれる?」

「アタシも聞きたい!」

「ベルも……」


 アリエルさんも視線で「言えよ」と訴えかけてきていた。

 こんなに注目されてしまうと、期待されてるみたいで緊張する。

 でも、自分で言うのはなんだけど少し自信がある。


 これに決まったら話し合いがすぐに終わることになるから、四姉妹に申し訳ないなぁ。

 私はピンと人差し指を立てて、その名前を告げた。


「プリティラブハート」


 昨日の夜、寝る前に思いついた渾身の名前である。 

 可愛い感じがポイントで、我ながらネーミングセンスが恐ろしいぞ。

 きっとダイニングは拍手喝采で埋め尽くされ…………てない!?

 

 あれ? おかしいな……。

 私の超絶センスのあるファミリアの名前に絶句したのかな?

 四姉妹を見ると、何とも言えない曖昧な困惑している風に見受けられる表情をしていた。


「どうですか?」

「そ、そうだね……ボクは……いや、まぁ、うん……あはは……」

「あ、アタシはなくはなくもない……的な? いい意味でね?」

「ベルは……こういうのわかんない、けど……どうなの、かな……」


 うーん。

 三人とも具体的じゃなくて、よくわからない。

 こういうときは、一番はっきりと言ってくれそうなアリエルさんに意見を求めよう。


「あの、アリエルさ――」

「ダサい」

「え?」

「ダサい」

「えぇ!? 嘘!?」

「嘘じゃねぇよ、くそだせぇ」

「またまたアリエルさんったらぁ」


 きっと私をからかっているんだろう。

 シラユキさんもアリエルさんは素直じゃないって言っていたし、きっとそれだ。


「あ! わかりました。なし寄りのありってことですか?」

「なし寄りのなしだよ! わかるだろ!」

「なんっ……だと…………!?」


 この言い方だと、本気でダサいと思っているみたい。

 え、ということはアリエルさんだけじゃなくて……。

 三人に視線を送ると、全員にさっと顔を逸らされた。

 シラユキさんが戸惑いながら尋ねてくる。


「あの、クロエ。もしかして冗談ってわけじゃ……」

「冗談って何がですか?」

「え、そ、そっか……」

「……?」


 私の返事を聞いて、アリエルさんが大きなため息を吐いた。


「もういい、お前は黙ってろ。オレたちで決める」

「そうだね……そのほうがいいかもしれないね……」

「クロエは疲れてるんだよ! アタシたちに任せて休んでて?」

「クロエ……ご飯、食べてて? 冷めちゃう、から……」 

「え、でも私も――」


 一緒に考えますよ!

 と言い終わる前に、四姉妹が口をそろえて言う。


「大丈夫さ」

「大丈夫だ」

「大丈夫だよ!」

「だ、大丈夫だから……」

 

 さすがは四姉妹。

 ちょっと納得いかないけど……彼女たちがそういうのであれば、任せよう。

 私は寂しい気持ちを胸に抱きながら、スープを口に運ぶのだった。


 ……あ、美味しい。 

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