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96.シャルロットとティナ

 驚愕しきっている三人に、私はシャルの説明を始める。


「この子はシャルロット。私はシャルと呼んでいて、魔法書に宿っている妖精です」

「うむ、いかにも我こそが妖精シャルロット。主ともども、よろしく頼むぞ?」


 快活な笑みを浮かべるシャル。

 ちなみに、未だにドヤ顔である。


「マジかよ……」

「べ、ベル、聞いたことない……」


 アリエルさんが眉をひそめて、ベルさんが首を横に振る。


「皆さんが聞いたことがなくても当たり前だと思います。私もシャルに出会うまでは知りませんでしたから」

「クロエも……?」

「はい。初めは私も信じられなかったですけど、シャルがいるということはシャルはいて、人間ではないので妖精なのです」


 シャルが出てきた魔法書をホルダーから取り出して、四姉妹とティナさんに見せる。

 ここから出てきたときは見ていなかったと思うから、実際にシャルが魔法書を行き来する様子を実演したほうが理解してもらえるだろう。

 昨日もシラユキさんもそうだったし。


「シャル、戻ってもらえる?」

「承知した。また出てくればよいかの?」

「うん、お願い」


 一瞬でシャルの身体が光に包まれ、粒子となって消える。

 光は線を描くように魔法書へ移動して、シャルが魔法書へ戻る際に一度だけ輝くと落ち着いた。


「と、いう感じでシャルは基本的に魔法書にいます。これで、シャルが魔法書の妖精であるということは信じていただけましたか?」


 尋ねると、シラユキさんを除く四人は互いに顔を見合わせて、困惑気味にうなずいてくれた。

 魔法書に入れる人間なんて存在するはずがないから、納得せざるを得ないって感じかもしれない。


「シャル、戻ってきてもらえる?」

「うむ」

 

 再びシャルにこちらへ戻って来てもらい、私は説明を続ける。

 なお、やはりシャルは裸である。

 次はこの裸についての説明なんだけど、これについてはどう説明をしたことで納得なんてしてもらえない気がする。

 というか、私も納得はしていない。服を着てください。


 シラユキさんは相変わらず優雅にお茶をしているけど、妹さんたちはそうではない。

 アリエルさんは居心地が悪そうに身をよじり、シャルを横目でちらちらと観察。

 ジャスミンさんは「はわわ」とまだ驚きが強いみたいだけど、じっとシャルをガン見。

 ベルさんは顔を赤くさせて顔を両手で覆っているけど、指の間から覗き見していた。


 ……シラユキさんの精神力強すぎない?


「えっと、裸については私はわからないというか、本人のこだわりみたいな感じ……らしいです……はい」

「そ、それは困ります!」


 抗議の声をあげたのはティナさんだった。

 ちらっとシャルを見て頬を赤くさせ、私に言う。


「ずっと裸ということですよね?」

「出てる間はそうなりますね」

「そんなのダメです! 今は食事中ですし、そうじゃなくても、もし誰かが来たらお嬢様たちが疑われます!」


 ティナさんの言っていることはもっともである。

 いずれはシャルにも協力してもらって、四姉妹の指導を行うつもりだ。もちろん魔法の指導なので野外で行う。

 誰かに見られる可能性はとても高いと言えるだろう。

 そうなれば、サンズさんのところの四姉妹が裸の女の子と魔法を使っていた、なんて噂が王都中に流れかねない。


 ……それは私も避けたいけど。


 しかし、当の本人であるシャルはティナさんの言葉に不満げである。


「別に他人がどう思おうが構わぬではないか」

「構います! お嬢様方は今後アポロンを率いる立場なのですよ!?」

「我の知ったことではないわ」

「そんな無責任な」


 嘆くように言って、ティナさんが私へ問うてくる。


「クロエさん。どうしてこんな人をお嬢様たちに紹介するんです」

「……実は、今後魔法の指導を手伝ってもらおうと思っているので、顔合わせをしておこうかなって」

「反対です!」

「で、ですよね……」


 食って掛かる勢いで否定されてしまった。

 そりゃそうだ。

 どこの馬の骨かもわからない裸の女の子が大切なお嬢様方の指導をするなんて、ヴァレル家の使用人としては許可できないし、サンズさんに紹介することもできないだろう。


「だけどティナさん。さっき言った通りシャルは妖精で魔力も魔法も人間とは比べ物になりません。必ず姉妹のみんなの力になってくれます」

「でも裸なんですよね?」

「裸ですね」

「だったらダメです!」


 ……どうしよう。

 ティナさんが否定するのも理解できる。でも、四姉妹を一人前の冒険者にするとなると、必ずシャルに力を借りなければならない日がやって来ると思う。

 シャルを説得しようにも、今ここで服を着てと言って服を着ていたら、すでに服を着ているだろう。

 

 うーん、難しい。

 頭を悩ませていると、シラユキさんが苦笑しながら助け舟を出してくれた。


「まぁまぁ、ティナ。落ち着いて」

「シラユキ様」

「クロエはボクたちのために言ってくれているんだし、ね?」

「ですが……」

「ティナの言っていることも正しいと思うし、感謝しているよ。でも、ボクたちはファミリアとして強くならないといけない」

「それは私も理解はしているつもりですけど……」

「だろう? きっと父上だってわかってくれるはずさ。だから断るわけにはいかないよ」


 ね? とシラユキさんがアリエルさんへ話を振る。

 アリエルさんは頬杖を突いたまま、鼻白んだみたいに答えた。


「ま、今更オレたちの評判っつてもな……それに指導役のこいつが必要だって言ってんだから、必要なんだろ」

「あはは……アタシのせいだね」


 頬を掻くジャスミンさんに、アリエルさんはちらっと視線を送り、


「……別にそうは言ってねぇけど」

「いいよいいよアーちゃん。ほんとのことだもん」


 でも、とジャスミンさんは拳を握る。


「だからこそ、アタシも強くなりたい。もっと魔法を上手く使えるようになりたい」

「べ、ベルも……」


 肯定してくれたベルさんは左右の指の先をツンツンとさせながら、ティナさんに「あのね」と話しかける。


「魔法書に戻れるんなら、なんとかなる……んじゃないかな……」

「そうかもしれませんが、ベル様まで……」

「ごめんね、ティナ……」

 

 ベルさんまでもが私の味方をするように言ってくれたので、ティナさんは少しショックを受けていた。

 嬉しいけど、これは勝ち負けではない。

 ティナさんも私も四姉妹も間違いではないのだ。


「ティナさん。今すぐにシャルに指導をしてもらうつもりはありません。もう少し先になると思います」


 基礎ができていない状態でシャルに教えてもらうのは危険だろう。

 それこそ、本当に身体がバラバラになりかねない。

 シャルにしてもらいたいのは魔法の活用だったり幅の広げ方だったり、発想だったりである。あとは単純に、私一人では四人の相手を同時にすることはできないからだ。

 

「そのときまでにいい方法を考えてみますので、今日は一旦保留ということでどうでしょうか」

「……わかりました」

「ありがとうございます!」

「いえ、お嬢様たちに必要なことですもんね……それに私もクロエさんを信じていますから……」


 やっぱりシャルに服を着てもらうのは難しいかな……。

 となると、ベルさんが提案してくれたみないに、誰かが来たら魔法書に戻ってもらう。

 これが現実的だろうか。


 まぁ、いずれにしてもまだ先の話だから、色々と考えてみよう。


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