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94.シラユキとシャルロット

「シャル!」

(かかっ、任せるがよい!)


 私の腰のホルダーにある魔法書が光って、そこからシャル(全裸)が飛び出した。

 シャルはスタッと地面に着地すると、両腕をシラユキさんへ向けて構える。真紅の魔方陣がシャルによって展開される。


「焔よ、我に従え」


 シャルの言葉で、シラユキさんの周りを渦巻いでいた炎の龍は標的をかえたようにシャルへと迫った。

 見る人によってはシャルが襲われているみたいに見えるかもしれないけど、当のシャルはあくまでも落ち着いた表情。

 冷静に迫りくる炎を手で振り払った。

 その瞬間、炎は弾けて消え去る。

 シラユキさんの暴走させた炎によって、辺りが昼間のように明るく照らされていたので炎の消滅に寄って一気に暗くなった。


 どうやらランタンは無事だったようで、かろうじて真っ暗闇は避けられたみたいだ。

 ぼんやりとした灯りに移っているシラユキさんを確認することができた。無傷では済んでいないかもしれないけど、大怪我というわけでもなさそうだ。

 とりあえずほっとしていると、シャルが


「主よ、これでよいかの?」

「うん。ありがと、シャル」

「よいよい。容易いことよ」


 上機嫌で呵々と笑うシャルにお礼を言って、私はシラユキさんのところへ駆けつける。

 シラユキさんは呆然とした様子で立ち尽くしていた。


「シラユキさん」

「あ、クロエ」

「大丈夫ですか?」

「あぁ、ボクは平気だ……クロエのおかげで、なんとか……」

「よかったです……」

 

 改めて安堵する。

 頬や服が煤で汚れていたり、焼けてしまっている部分はあるけど、大きな怪我はないみたいだ。


「ごめんよ、クロエ……」

「いえ、謝らないでください」

「それでもやっぱりボクには――」


 と、言葉の途中でシラユキさんが目を見開いた。そして絶句する。

 まるで幽霊でも見てしまったかのような反応だ。

 

「シラユキさん?」

「あの、クロエ」

「はい」

「あそこにいる女の子って」

「へ?」


 シラユキさんが震える指で示している背後へ振り向く。

 そこには「むふん」と何故か自慢げに胸を逸らしているシャルの姿があった。

 

「あ……」


 しまった……。

 シャルのことはまだ姉妹の誰にも言っていない。むしろ隠していたまである。だって裸だし。

 そりゃあ、いずれはシャルのことも話さないといけないとは思っていたけど、うわぁ、どうしよう。

 四姉妹がもう少し魔法を使いこなせるようになってから話すつもりだったぞ……。

 

「クロエ?」

「は、はい!?」

「いきなり裸の女の子が出てきた気がするんだけど……何か知っているのかい?」


 シラユキさんを相手に誤魔化すのは無理だ。

 いや、シラユキさんが相手じゃなくてもこれだけじっと見られたら無理。

 ていうかシャルはどうして黙ったままドヤ顔で仁王立ちしてるの!?


 ……こうなったら正直に話すしかないだろう。

 ダメなことではないんだし。

 裸の妖精という刺激が若干強いけど、シラユキさんならきっと大丈夫。受け入れてくれるはずだ。


「えっと、ですね。私、いつも持ち歩いている魔法書があるじゃないですか」

「うん。珍しいよね」

「彼女は、その魔法書の妖精なんです。名前はシャルロット」

「ま、魔法書の妖精……?」


 さすがに一流ギルドのマスターの長女であるシラユキさんでも、その存在のことは知らないらしい。

 まぁ、そうだよね。

 私もシャル以外には知らないし。


「いつもは魔法書の中にいるんですけど、今みたいに呼んで出てきてもらうこともできます」

「な、なるほど……?」

「シャル――あ、私はシャルって呼んでるんですけど、彼女は火の魔法が得意で、ですから先ほどのシラユキさんの暴走した炎を止めたのはシャルの力なんです」

「そうだったのか……」

「え、えと、理解していただけましたか……?」


 尋ねると、シラユキさんは未だに混乱しているようではあるものの、うなずいた。


「まぁ、実際にそこにいるわけだし……」

「あ! そうです」


 私はホルダーから魔法書を取り出して、シャルに向ける。


「シャル、一回戻ってもらっていい?」

「うむうむ。よいぞ」


 シャルの身体が一瞬だけ光り、さっきまで立っていた場所から姿が消える。次いで、私の手にある魔法書がわずかに煌き、シャルが戻ったことを知らせた。


「信じていただけますか、シラユキさん」

「あぁ、実際に見たんだし、クロエの言うことだからね。信じるも何も事実じゃないか」

「ありがとうございます、シラユキさん」

「いや、正直ボクもまだ混乱しているんだけど……これ、妹たちは知っているのかい?」

「いいえ、まだ誰にも」


 以前、バルコニーでシャルと話をしていた時に、シラユキさんに気づかれそうになったことはある。

 だけどそれ以外で勘付かれそうになったことはないはずだ。

 

「シラユキさんが初めてです」

「そ、そっか、ボクが初めて……」

「隠してた訳じゃないんです! ほんとにいつか説明はしなきゃとは」


 あれ……?

 なんか私が悪いことをして、シラユキさんに許してもらおうとしているみたいになってない?

 いやいや違う違う。

 この状況だけを見たら、まるで私が浮気をして謝っているみたいな感じだけどそうじゃない。


「ということは、ボクはまずいものを見たわけではないんだね?」

「はい、全然大丈夫です!」

「そっか、ちょっと安心したよ」


 ほっとした様子で苦笑するシラユキさん。


「クロエの隠し事を見てしまったのなら、どうなるのかと思ったよ」

「安心してください。明日、皆さんに話します」

「わかった。えっと、助けてもらったお礼はその魔法書に言えばいいのかな?」


 私が肯定すると、シラユキさんはシャルのいる魔法書に話しかけた。


「助けてくれてありがとう」


 シラユキさんの言葉に反応して、魔法書が微かに輝きを見せる。


「クロエも、ボクのためにごめんね」

「いえ。今日はこのくらいにしておきましょうか」

「……わかった。ありがとう」

「少しずつ、焦らずにやっていきましょう」


 正直、想像を絶するほど、制御できていなかった。いや、制御どころか、あんなの見たことがない。

 魔方陣の大きさを考えても、あり得ないと思う。

 もう少し冷静に見て、分析してみないといけない。


 とにかく、シラユキさんの身体に負荷がどれだけかかるのかも不明なので、無茶だけは本当に気をつけないと。

 今のところ、シラユキさんに影響はなさそう……だけど。


 ランタンを回収して、私たちはお屋敷へと戻った。

 

「ではシラユキさん。おやすみなさい」

「あぁ。おやすみ、クロエ」 

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― 新着の感想 ―
[一言] なんだろ 単に制御出来てないっていうかこうさぁ…回路に対して出力が強すぎる感じ? いやそれで望んだ結果を出せないんだから制御出来てないで合ってるんだけど…w でも魔方陣とかで見て『大丈夫そう…
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