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9.長女・シラユキ

「はぁ~、良いお湯……」


 夕方。

 私はお屋敷の大浴場の湯船に、贅沢にも一人で浸かっていた。

 身体がポカポカしてきて、今日一日の疲れが溶けていくような気分になる。

 最初に入った時はお湯が少しぬるかったので、勝手に火魔法で温度を上げたけど、大丈夫だよね……?


「…………はぁ~~」


 ため息が漏れる。

 結局、四姉妹の長女には、未だ会えないでいた。

 ティナさんは、四姉妹の長女は夕方には帰って来ると思う。と言っていたが、帰ってこなかったのである。

 それに問題は会えていない長女だけじゃない。 

 ベルさんは部屋から一度も出てこなかった。

 ジャスミンさんは走り回っているところを何度か見たけど、すぐにどこかへ「あはは」と走り去っていった。

 アリエルさんはお屋敷に戻ってきて私の顔を見るなり顔を歪めて舌打ちをした。

 

 残念だけど、現時点ではとてもじゃないけど魔法を教えられるような状態ではなかった。

 とはいえ、悪いことばかりでもない。  

 ティナさんのご飯は美味しいし、こうして広いお風呂も使わせてもらっている。寝室のベッドもふかふか。

 環境は最高だ。

 うーん、と両手を伸ばして伸びをする。


 とりあえずは、四姉妹の長女に会わないと。

 それから今後の方針を考えようと思っていると、カラカラと浴室の扉が開いた。

 脱衣所からペタペタと足音が近づいてくる。


「おや?」


 私を見て首をかしげたのは、腰まで伸びた長い銀髪の少女だった。いや、少女っていうか女性?

 髪の長さだけなら末っ子のベルさんと同じだけど、顔つきと体つきがまるで違う。

 同性ながらドキッとしてしまいそうな整った顔立ち。すらっと背が高く、抜群のプロポーション。特に胸なんかは、シャルが見たら激怒しそうな感じだった。  


「見たことない顔だね、誰かのお友達かな? 可愛らしいお嬢さん」

「今日から魔法の指導役として来たクロエです」

「指導役……あぁ、たしか昨日ティナが何か言っていたような気がするな……」


 ふむと、少女は考えるようにあごに手を添える。

 浴槽に腰を掛けて、お湯に足をつけた。

 他の姉妹と同じ髪の色をしているし、十中八九この人が長女だろう。


「あの」

「ん、なんだい?」

「四姉妹の長女様ですよね? お名前は」

「シラユキ。長女のシラユキ、だ」


 ふふっと上品な笑みを浮かべるシラユキさん。

 その美しい顔立ちに、お互い裸であるということもあってか、同性なのに思わずドキリとしてしまう。


「シラユキ様」

「ははっ、様なんてやめておくれよ。ボクの柄じゃない」

「ですが……」

「別に構わないよ」


 シラユキさんは湯船に身体を下ろし、私の隣までやって来る。

 ち、近い……。


「おや? 顔が赤いみたいだけど、大丈夫かい?」

「だ、大丈夫です」

「しかし、君はボクよりも早く入浴していたみたいだからね。のぼせてしまったんじゃないか?」


 じっとシラユキさんに顔を覗かれる。

 長いまつげ、透き通った瞳、きめの細かい肌、それにその胸も思わず見てしまう。

 たしかに、のぼせてしまいそうだった。


「そ、そうですね。では先に失礼します」

「うん。またね、クロエ」


 シラユキさんに軽く頭を下げてから湯船を出る。

 脱衣所へ歩いていると、


「あぁ、待ってくれクロエ」

「はい?」

「妹たちのことで君には迷惑をかけるだろう。妹たちのことで何かあれば、遠慮せずボクに相談してくれて構わないよ」

「いいんですか、シラユキ様」

「言っただろう? ボクは長女なんだ」


 ウィンクをして、ふふっと微笑むシラユキさん。

 これはすごく心強い味方ができたものだ。

 長女のシラユキさんなら妹さんたちのことも理解している部分も多いだろう。

 まだ今日は終わっていないけど、初日にしては上々なのではないだろうか。

 入浴前の悩みなんてどこへやら。私は晴れやかな気持ちで脱衣所へ向かった。




 だけどこの後、私はシラユキさんの言葉を勘違いしていたと思い知ることになる。

長女 シラユキ=ヴァレル

18歳。銀髪の腰まで伸びたロングヘア。普段は髪を首の後ろで一つにまとめている。



お読みいただきありがとうございます。


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