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89.アリエルへの提案

「シラユキ?」

「はい」


 首をかしげるアリエルさん。 


「そんなのオレに聞かずにシラユキ本人に聞きゃあいいじゃねぇか」

「アリエル様から見て、どうだったか聞いておきたくて」

「どうって……普通だよ、普通」

「普通、ですか」

「あぁ、普通だ。ブランクがあるっつっても別に昔は剣術習ってたんだし、そのときからセンスだって悪くねぇんだし、今日くらいならなんてことないだろ」


 にべもない言い方だけど、アリエルさんも心配だったのかシラユキさんのことをよく見ておいてくれたらしい。


 ていうか、昔からシラユキさんはセンスが良かったのか。

 今日の朝に見た時、シラユキさんは久々なのにそつなくこなしているなと思って感心した。

 今のところ姉妹の中で最も剣術に長けているアリエルさんが言うくらいだから、嘘でないと信じられた。

 魔法を制御できないと聞いた時は驚いたけど、そもそもシラユキさんは昔から器用だったのだろう。


 私がじっと顔を見ていたものだから、アリエルさんが不機嫌そうに尋ねてくる。


「な、なんだよ……」

「アリエル様はシラユキ様のことよく見てるっていうか、知ってるんだなって」

「はぁ!?」


 私が言うと、アリエルさんは顔を朱に染めた。それから言い訳するみたいに早口でまくし立てる。


「べ、別に姉妹なんだから普通だろ! 何か悪いのかよ!」

「いえいえ悪いなんてとんでもないです」


 ジャスミンさんの一件があって、私はこの四姉妹の絆の強さを目の当たりにしている。

 それぞれが信頼していて、必要不可欠な存在であるのは間違いない。四人は行動で示して見せて、結果こうしてファミリアを創設している。


 でも、アリエルさんのシラユキさんへの当たりは少し強いなと感じていた。

 お姉さんなのに「シラユキ」と呼び捨てだし。

 アリエルさんにとってシラユキさんは妹ではなく姉だから、ジャスミンさんやベルさんと違う接し方や話し方になるのは、わかる。でも、私に対して程ではないけど荒いというか、シラユキさんが自分は姉としてちゃんとできているだろうか、と悩んでしまう原因は多少そこにあるのではと思ったこともあった。

 

 だけど。


 こうしてアリエルさんからシラユキさんの話を直接聞いて、それは杞憂だったと思い知らされる。

 私は先生としてまだまだ。

 もっと四人のことを知らなければならない。


「とにかく。シラユキのことは心配いらねぇよ。オレもいるんだし」

「アリエル様はシラユキ様のことがお好きなのですね!」

「すっ!? すす好きっって、なんでそんな話になんだよ!?」

「え? オレにシラユキお姉ちゃんのことは任せろ! ってことですよね?」

「そんな言い方してねぇだろ! つーか、なんだよお姉ちゃんって! 気持ちが悪い!」

「照れなくてもいいじゃないですか」

「照れてねぇ!」


 アリエルさんは、ぷいっとそっぽを向いてしまった。そのほっぺたはほんのり赤いままである。


「んで、話はそれだけか?」

「もう一つあって」

「もう一つ?」

「はい」


 今のはシラユキさんについて。

 次はアリエルさん自身へのことである。


「アリエル様以外の三人が実践で経験を積んで少ししたら、ちょっと遠くの依頼を受けようかなって思ってるんです」

「遠くの……」

「今までは日帰りでしたが、それでは行けなかったところへ行こうかなと」

「つーことは、今までよりも強い相手と戦うことになるってことだよな?」

「はい。ですから、今すぐと言うのは無理なので、一か月くらい先かなって思ってるんですけど」

「ふーん。別にいいんじゃねぇの? てか、なんでオレに?」


 全員で行くのなら、準備ができたときに言えばいいじゃねぇか。とアリエルさんの瞳が訴えてくる。


「アリエル様。新しい剣を作りませんか?」

「新しい……剣……?」


 ピクリとアリエルさんの眉が動く。

 やはりお母さんからもらった大切な形見である件についての話題には敏感に反応するらしい。


「てめぇ、わかってんだろ? オレにはこの剣が」

「もちろんです。ですから、こうやって提案しています」

「あ?」

「アリエル様がお母様からいただいたその剣は、たしかに素晴らしいものです」


 心なしか、アリエルさんは剣を褒められて機嫌をよくしてくれたように見える。 


「ですが、どれだけ大切に扱ってメンテナンスを怠らずに行ったとしても、いつか寿命は来てしまいます。わかりますね?」

「……あぁ」

「これからは今まで以上の強い敵と戦ったり、稽古をすることになります。そうなれば、消耗がなおのこと激しくなると思います」

「それで、もう一本か」

「はい」


 お母さんからもらった剣を使うなと言っているわけではないのだ。

 アリエルさんも一考の余地ありと受け取ってくれたらしい。

 どれだけメンテナンスをして完璧な状態をキープしていても、丁寧に使うことを心がけていても、剣が道具である以上はいずれ壊れてしまう。

 大切な一つの剣への負担を軽減させるにこしたことはないだろう。

 

「……考えておく」

「はい。さっきも言った通り今すぐにとはいかないので、そうしておいてください」

「これで終わりか?」

「はい。お疲れのところすみません」

「別にいい」


 アリエルさんは大きくため息を吐く。

 それから、ボソッと小さな声で言った。


「……おい」

「はい?」

「さっきのこと、シラユキには」

「言わないほうがいいですか?」

「あぁ、絶対言うなよ」

「シラユキ様、喜ぶと思いますけど」

「うるせぇな! いいから言うな!」

「……わかりました」


 わずかに頬を朱に染めつつ、アリエルさんが部屋に戻ったので私はダイニングへ移動することにした。

 一日目としては、上々だろう。

 よし!

 みんなセンスはいいんだし、コツコツがんばろう!

お読みいただきありがとうございます。

ご評価やご感想、ご意見、誤字の報告などなんでもお待ちしております。

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