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87.魔法書指導

 それから三時間ほどの時間が経過した。

 途中途中に休憩を挟みながらの指導となったので、実際に魔法を使っていたのは二時間ちょっとくらいだろうか。

 ジャスミンさんもベルさんも、苦戦しつつも真面目に取り組んでくれていた。


 やはり二人とも生まれ持っているセンスや才能、過去にサンズさんたちから指導を受けている経験があるので呑み込みが早い。

 それに初日で三時間も指導ができるとは思っていなかったので、二人とも思いの外上達していた。

 

 ジャスミンさんは暴走する回数が格段に減って、落ち着いてきている。

 ベルさんは三つまでなら指先の火を一分間ほどキープできるようになっていた。

 この調子だと、二人のとりあえずの目標となっている手のひらに炎を出して五分間それを維持するのがクリアされるもの、時間の問題だと思う。

 特にベルさんは細かなことが得意なようなので、一週間以内にはできてしまいそうだ。


 とはいえ、二人にとって久しぶりの魔法の使用である。

 休みながらとはいえ長時間の魔法の使用によって、二人とも顔には疲労の色が濃くなっていた。


「お二人とも。そろそろ今日の魔法の指導はおしまいにしましょう」

「え! もう!?」

「……え」


 私の言葉に、二人とも驚いたような表情を浮かべる。


「何度も言っていますが、ジャスミン様もベル様も久しぶりの魔法の練習ですから、身体にあまり負担はかけられませんので」

「で、でも! アタシはまだまだいけるよ?」


 言って、ジャスミンさんは指先に魔法で火を創り出す。

 まだ元気であることをアピールするためか、その灯はさっきまでよりも少しだけ大きい。しかし、その火はすぐに消えてしまった。

 本人の意志ではなく勝手に気に消えてしまったようで、ジャスミンさんは首をかしげる。

 

「あ、あれ?」

「ジャスミン様は体力があるのでかろうじて使えていますが、魔力から魔法への変換で疲れているはずですし、集中力はもう限界のはずです」


 続けて、私はベルさんへ視線を向ける。

 ベルさんもジャスミンさんと同じくまだ魔法を使いたいと思ってくれているみたいで、じっと私を見つめていた。

 うるうるとしてい見える瞳で懇願されると私の意志も変わりそうだけど、ここははっきりダメだと言って納得してもらわないと。


「ベルさんも同じです。初めの頃と比べて、乱れてきているのがわかりますね?」

「……う、うん、それは……」 


 ベルさんはジャスミンさんのような体力はない。まぁ、引きこもりなので当たり前だけど。

 そのベルさんがジャスミンさんと同じ時間、魔法を使えていたのは単に細かな魔法の制御が得意で、すぐにコツのようなものを見つけたのだろう。

 体力がジャスミンさんの半分以下でも、魔法を使う効率がジャスミンさんの半分以下なら、保有している魔力はほとんど同じなので同じ時間魔法を使うことができるというわけである。


 けど、二人とも相当疲れているのは事実だろう。

 やる気が気力が残っているとはいえ、無理をする必要はない。量よりも質を重視してもらいたい。


「明日も指導はありますから、今日はこのくらいにして体力と精神と魔力を休ませてあげてください」

「わかったぁ……」

「うん……そうする……」


 まだ微妙に納得はしてくれていなさそうだけど、二人ともうなずいてくれた。

 お屋敷へ引き上げることにする。


「でもさぁ、クロエ」

「はい?」

「まだまだユキちゃんとアーちゃんが戻るまでは時間あるよね?」

「それは、そうですね」

「アタシたちも何かしたいなぁ。ねぇ、ベル?」

「う、うん……」


 空を見上げると、お日様はまだ元気に私たちを照らしている。

 シラユキさんとアリエルさんが返ってくるのは早くてもあと一時間……いや、二時間はかかるだろう。

 姉二人ががんばっているのに、自分たちだけ休んでいるというのは気が引けるのかもしれない。


「そうですねぇ……」


 あごに手を添えて思案する。

 魔法を使わないで何か指導できるもの。うーん、何があるだろうか。

 少し考えて、ベルさんと視線が合う。それで閃いた。


「あ、それでしたら魔法書についてはいかがです?」

「魔法書~~?」


 ジャスミンさんの反応に首をかしげる。

 前にベルさんに本をプレゼントした時、ジャスミンさんにも本を贈ろうかと言って嫌な顔をされたときを思い出す。

 魔法の書とはいえ、本を読むのは気が進まないらしい。


「ダメですか?」

「いやぁ、そういうわけじゃないけど……なんだかなぁ……」

「べ、ベルは……嬉しい、よ?」


 ベルさんの肯定で味方ができたので私は安堵する。

 まぁ、これはベルさんが魔法書について教えてほしいってお願いしてくれたのを思い出して提案したもの。だからベルさんにとっては趣味や好きなことが指導になるのだ。願ってもないことかもしれない。


 末っ子であるベルさんの好意的な反応を見ては、いかにジャスミンさんといえども否定はしにくいらしい。

 歓迎した様子ではないけど、渋々納得してくれた。


「まぁ、ベルが言うなら……」

「い、いいのジャスミン姉様……?」

「うん。難しそうだけど、アタシも興味がないと言えば嘘だし」


 ということで、シラユキさんとアリエルさんが返ってくるまでの時間は魔法書についての指導をすることになった。

 

 ……なったんだけど。


 指導はティナさんが綺麗に掃除をしてくれていたので、ダイニングですることになった。

 それはいい。

 シラユキさんやアリエルさんと魔法書の勉強をするときも、ダイニングを使うことになると思う。

 私は左隣に座っているベルさんに質問に答えながら、ちらと右側を見る。


「…………」


 ジャスミンさんが爆睡していた。

 私が部屋から魔法書を持ってきて、読み方や使い方などを教え始めて一分もしないうちに寝息を立て始めてしまったのである。

 それはもう、気持ちよさそうにぐっすり。


「あの、クロエ……」

「はい?」

「ジャスミン姉様、だけど……寝かせてあげて?」

「……わかりました。ベル様がおっしゃるのでしたら」

「うん。それで、質問、なんだけど……」

「はい、なんでも聞いてください」


 ジャスミンさんの寝息を聞きながら、ベルさんの質問に答える。

 時には答えを言うだけでなく、ヒントを言うようにして考えてもらう。

 結局、ジャスミンさんは一度も起きることなく(何度か寝言は話していた)、私とベルさんの二人だけで進んでいったのだった。


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