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73.いざ、決戦

 私とカタリナさんの試合は、三日後に行われることになった。

 サンズさんから送られた手紙によると、王城が管理している闘技場を使用して私の試験である試合をするらしい。

 

 闘技場は年に一度、冒険者同士が腕を競い合う祭りが行われるときに主に使用されている場所だ。

 私は参加したことがないし、カタリナさんが出場したとも聞いたことがないけど、それなりに実力のなる冒険者たちが出場して、勝ちぬけば王様から賞金が贈られる。

 冒険者にとっては賞金が目当てなのはもちろんのこと、自分の力をアピールして、有名なギルドからスカウトされるのを待つための手段でもあった。


 その期間中は、王都の外からもその試合を見るために大勢の人々がやって来て、一年でも最も盛り上がるイベントと言って差し支えないだろう。

 まさか、そんな場所を使えるとは思わなかった。

 私とカタリナさんの戦いが激しくなるから、普通の場所で試合を行えないと判断されたのかもしれない。シャルがある程度は制御してくれるとはいえ、たぶんカタリナさんが相手だったら余裕はない。

 思いっきり力を出して構わないのなら、私にとっては嬉しいことだった。

 

 ……それでも勝てるかどうかは、かなり怪しいけど。

 なんとか、負けないようにはしなくては。


 お昼ご飯を食べているときに、三人にも報告しておく。


「え、闘技場でするのかい……?」

「はい。さすがに観客は入れないみたいですけど」


 カタリナさんが出るとなれば、お金をとっても見たいという人は大勢いると思う。

 だけど、今回は私に試験ということで一部の冒険者を除いては観客はないらしい。


「そっか。ボクたちは行ってもいいのかな……?」

「大丈夫だと思いますけど……シラユキ様たち来て下さるんですか?」

「当たり前じゃないか。ねぇ?」


 シラユキさんが問いかけると、アリエルさんはぷいっと顔を逸らす。

 ベルさんは強くうなずいてくれた。


「まぁ、どうせ暇だし」

「クロエの応援……したい、から」


 ジャスミンさんもきっと、サンズさんに連れられて見に来ると思う。

 これは負けられないっていうか、生徒の前で恥ずかしい姿は見せられない。


「あ、そうだ。みなさん午後から予定ってありますか?」

「予定? ボクはないけど」

「別にオレもねぇよ」

「べ、ベルも……」


 今は謹慎中なので、三人は外出する用事があるのなら私と一緒でなければならない。

 もし今日、誰かに外出する予定があったら、私に用事があったので迷惑をかけるところだった。

 ほっと安心する。


「すみません、私、少し用事があるので出てきますね」

「何の用事だよ?」


 アリエルさんがパンをかじりながら尋ねてくる。


「剣を買いに行こうかなって思ってまして」

「剣? 試合で使うのか?」

「はい、一応」


 アリエルさんだけでなく、シラユキさんとベルさんの顔にも疑念が広がっていた。

 その理由は明白。三人とも、私が魔法使いであると知っているからだ。

 

 魔法使いは剣を使ってはいけない。なんて規則はない。だけど、基本的に魔法使いが試合や依頼の討伐で剣を使うことはない。なぜならば魔法使いだから。

 それに私が剣を使っても、カタリナさんに剣術では敵わない。

 私も同意だ。単純に剣で勝負しても勝てるはずがない。 


「持っておくに越したことはないかなって。丸腰は怖いですから」


 遠距離で戦えるのであれば、私が有利なのは間違いない。

 でも相手はカタリナさんだ。いくら気を付けても至近距離に持ち込まれてしまうときは来るだろう。

 そうなったとき、今持っている短剣だけでは不安だ。リーチも違うし。

 魔法で剣を強化しつつ、至近距離で魔法を放つ。魔法剣士に近い戦い方になるのではないか、と私は思っていた。


 それに魔法剣士は今の時代は少ないので、上手く戦うことができればアピールにもなると思う。

 そのためにも、そこそこ良い剣を調達しなければ。

 まずは私の魔力強化に耐えられなければならないし、なおかつカタリナさんの剣を受けられなければいけない。すぐに壊れる安物では困ってしまう。


「……なぁ」

「はい……?」

「…………えよ」

「え?」


 アリエルさんがぼそぼそと俯き加減でつぶやく。


「だったら、オレの使えよ」

「オレのって……でも、それは」


 アリエルさんの剣。

 それはつまり、アリエルさんがとても大切にしているお母さんの形見の剣である。


「別にお前が嫌なら? オレはどっちでも構わねぇけどよ!」

「い、いえ。アリエルさんがいいのでしたら、ぜひお借りしたいです!」


 前に見た時に、アリエルさんの剣が良いものであることは知っている。

 さすがアポロンのギルドマスターの奥さんが使っていた剣だと、感心したものだ。


「そうかよ。なら特別に貸してやる。今回だけだからな!」

「ありがとうございます!」


 あの剣を貸してもらえるのなら、剣の問題は解決だ。

 正直、三日以内に新しく作ってもらうのは金銭の問題もあるし、時間的にも厳しかった。

 オーダーメイド以外の売り物となると、少しばかり強度が心配だったのである。 


「ふふっ、いいかもしれないね。そういうの」

「ああん? んだよシラユキ」

「いいや? 勝利への祈願っていえばいいのかな。お守りのようなものだろう? そういうのはいいなって言ったのさ」


 アリエルさんに微笑みかけ、シラユキさんが私へ顔を向ける。

 あごに手を添えて、「うーん」と悩む様子を見せた。

 

「そうだな……ボクはいつも付けているリボンにしようかな。クロエ、受け取ってもらえるかい?」

「シラユキ様まで、いいんですか?」

「もちろんさ」


 柔らかく、まるで陽だまりのような笑みをシラユキさんが浮かべる。


「べ、ベルも……!」

「ベル様まで」

「えっと、えっと……」


 自分も、とベルさんは自分の身に付けているものを見たり触ったりして探す。

 しかし、アクセサリーを身に付けているわけではないので、何もなかったらしい。

 しゅんとベルさんは肩を落としつつ、


「あの、当日までに探しておく、から……」

「わかりました。ありがとうございます」


 あの本がとっ散らかった部屋で探すつもりだろうか。

 気持ちは嬉しいけど……骨が折れそうだ。

 でも、ここまでしてもらったら、負けられないな。

 四姉妹のために、改めて私は思うのだった。


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