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71.クロエの選択

「カタリナさんと試合、ですか……?」

「ああ、そうだ」


 サンズさんはうなずいて、説明してくれる。


「ファミリアと言えども、ギルドマスターになるには試験がある。そして、アポロンに所属するというのなら、うちの試験も受けてもらわなければならない」

「そのどちらも同時に行うってことですか?」

「そういうことだ。理解が早くて助かるよ」


 一般的にはギルドマスターとしての力があるか見定める試験は王城の管轄。各ギルドの所属試験は、もちろん各ギルドに一任されていた。

 それを一度に行うなんてことは聞いたことがない。

 ファミリアを創設する場合は、まずマスターの資格を認められた冒険者がファミリアを創設させてほしいギルドに交渉し、試験を受けるのが基本的である。


「もちろん、これは決定事項ではないよ。あくまで私からの提案だ」


 つまり、拒否してもいいということか。

 カタリナさんとの試合ではなく、正規の方法で試験を受けても構わないと言ってくれているのだろう。 2度試験を受けなければならないという意味では二度手間ではあるが、カタリナさんを相手にするのに比べたら確実ではある。

 ファミリアを創設できなければ、本末転倒なのだ。


 しかし、ただファミリアを創設できればいいというわけでもない。

 私も、サンズさんもそれを理解していた。


「だが、そのほうが君にとっても都合がいいんじゃないのかな?」


 その通りだった。

 ジャスミンさんを自分のギルドに迎え入れる以上は、それができる力があると認めてもらわなければならない。

 カタリナさんと試合を行い、その結果ファミリアを設立となれば、カタリナさんの試験を突破した私がマスターをすることになる。

 試験で拮抗した力を見せられれば、アポロンのナンバー2と同格の力をもったマスターのファミリアとなれる。そうなれば、カタリナさんの強さを知っている冒険者たちは認めざるを得ないだろう。

 

「……そうですね、そうすべきだと思います」

「では、それでいこう。王城へは私から話しておく」


 それからサンズさんは視線をカタリナさんへ送る。


「カタリナ」

「はい」

「試験だからと言って、手を抜く必要はない。本気で相手をしてやりなさい」

「かしこまりました」


 顔色一つ変えることなく、冷静にカタリナさんが承諾する。

 手を抜いてもらおうだなんて考えてはいなかったけど、厳しい戦いになりそうだ。


「クロエ君。詳しいことが決まったら、また連絡しよう」

「お願いします」


 今日明日、ということにはならないと思うけど、おそらく王城の許可は出ると思う。

 カタリナさんとの試合が試験なのだ。通常のギルドマスター試験の何倍も、何十倍も厳しい。アポロンに入るための試験でも、カタリナさんが相手をすることはほとんどないと思う。


「く、クロエ……!」


 私たちの会話を後ろで静かに聞いていたジャスミンさんが駆け寄ってくる。


「だ、大丈夫なの……こんな約束しちゃって」

「心配しないでください、ジャスミンさん」

「で、でも、いくらクロエでもカタリナには勝てっこ……」


 今はギルドから離れて姉妹で生活しているとはいえ、ジャスミンさんもアポロンの所属だ。

 幼いころからカタリナさんとも知り合っているだろうから、私よりもカタリナさんの実力は知っているだろう。

 だけど、今更逃げ出せない。

 これが一番の方法なのだ。サンズさんから提案してもらったチャンスである。


「ジャスミンさんは、姉妹と離れたくないんですよね?」

「それは、そうだけど……」

「だったら、それでいいんです。あとは先生である私に任せて、信じてください」

「私のために、ごめんね……」

「謝らないでください。謝るなら、私じゃなくてご姉妹に謝りましょう。私も一緒に謝りますから」

「クロエ……ありがとう。がんばってね」

「はいっ。がんばります」


 ジャスミンさんの手に私の手を重ねて、私は安心させてあげようと微笑む。

 ジャスミンさんの手は震えていた。


「クロエ君。そろそろいいかな」

「あ、はい。すみません!」


 ジャスミンさんにもう一度笑いかけて、私は部屋を出た。

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