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70.ファミリアの条件

「まず一つは、ジャスミン様はもちろんですが、他のご姉妹たちも今まで通りではいられなくなるということです」


 今までは魔法が嫌いだから、使いたくないからという我儘がまかり通っていた。

 それは四姉妹がアポロンというギルドに所属していて、そのギルドのマスターの娘だから可能だったことだ。

 ギルドから離れたお屋敷でそれぞれが好き勝手に暮らしていても、誰も文句は言えなかったと思う。指導をきちんと行えなかった指導役が悪いとなっていた。

 それでも生活に必要なものはギルドが支給してくれて、ティナさんもいた。四姉妹は指導役の先生に問題があるということにして追い出しておけば、暮らしに困ることはなかったのだ。

 だけど、私のギルドの所属となれば、そうもいかない。


「ファミリアに所属するということは、ギルドには絶対に貢献しなくてはなりません」

「そうだね。その条件でうちのファミリアとして迎え入れるわけだから、今のようにお屋敷で指導を拒否する、なんてことは許されないだろうね」


 活動する意思がないのなら、ギルドにはファミリアを置いておく意味はない。

 アポロンギルドのファミリアと、アポロンの名前を貸してもらう以上、アポロンの看板に泥を塗るような行動は許されない。

 必要ないと判断されれば、即ファミリアを解散、なんてこともあり得る話だ。


「ご姉妹も、それは自覚されると思います」

「そうかな。あの子たちはどうだろうね?」

「姉妹でいるためですから。姉妹のそれぞれを想う気持ちを私は信じたいです」

「……随分とクロエ君は娘たちを過剰に評価してくれるね」

「私は過剰だとは思いません」


 サンズさんの娘だからということもあるのか、四人とも素材としては一級品だ。

 冒険者としてはまだまだかもしれない。

 私はまだ四姉妹のことをよく知っているわけでもない。でも、一緒に過ごしてみてそれは感じていた。

 シラユキさんはコミュニケーション能力や優しさ。

 アリエルさんは負けん気や吸収の早さ。

 ジャスミンさんはこの騒動の原因となってしまったけど、地竜を育てていたし、体力もある。

 ベルさんは集中力や知識があり、一歩踏み出す勇気もある。

 

 そして、それを感じているのは私だけではないはず。


「サンズさんだってそうでしょう?」

「ほう?」

「だから何度でも何人でもご姉妹に指導役を向かわせた。娘だからっていうのもあるかもしれないけど、やっぱり期待しているんだと思います」


 でなければ、いくら自分の娘とはいえ、ああやってお屋敷を用意してまで四姉妹を自由にさせないだろう。


「その成長を近くで見られるのなら、そのほうがいいと思います。将来、ギルドを背負ってほしいんですよね?」

「あぁ、それは認めよう。だが私はアポロンのギルドマスターだ。それだけでファミリアを認めるわけにはいかない」

「わかっています」 


 今のだけでは、サンズさんのメリットでしかない。

 将来的に考えれば、四姉妹がアポロンを率いるようになる可能性もあるけれど、すぐにアポロンへ何か恩恵があるのかと聞かれれば微妙なところだ。

 だからもう一つ。

 ファミリアを創設する価値があると思ってもらわなければならない。

 

「ファミリアを創設する以上、私はアポロンに所属になければなりません」


 ファミリアのメンバーは、そのファミリアに所属しているだけでも構わない。

 しかし、そのファミリアのマスターとなる冒険者は、ファミリアとして加入するギルドに所属していなければならないのである。

 つまり私はアポロンに所属しなければならない、というわけで。


「私が加われば単純に戦力になると思います」

「たしかに、焔の魔法使いがうちに来てくれるのは嬉しいね」

「もちろん、ご姉妹の指導が優先なので何でも依頼を受けるというわけにはいきませんが……それにサンズさんは私の境遇をご存知ですよね?」

「なるほど……エーデルシュタインは君のような優秀な人材を理不尽に追放した無能ギルド、となるわけか」


 エーデルシュタインは世間からそう思われでも仕方ない。

 それは王都で二大ギルドとしてしのぎを削っているアポロンにとっては悪くない話だと思う。

 私を受け入れたということで、器の大きなギルドと思ってもらえるかもしれない。


「カタリナはどう思う」

「私も悪くない提案だとは思いますが……」


 カタリナさんは私と、それからジャスミンさんに目を向ける。


「周囲だけでなく、ギルド内部からも反発は免れないでしょうね」


 冷静な指摘だった。

 サンズさんやカタリナさんほどになると、私がどのような理由でエーデルシュタインを追放されたか知っていてもおかしくはない。けれど、他の冒険者にとってみれば、私は追放された冒険者でしかないのだ。

 その私がマスターとなり、さらにジャスミンさんを所属させようとしている。

 批判されるのは目に見えていた。

 

「納得……とまではいかずとも、認めさせる何かがなければ難しいかと」

「そうだね。クロエ君で問題ない、クロエ君が加わってくれることが心強いことだと思ってもらえないとね。少なくともアポロンに所属している冒険者たちには」

「……私はマスターの判断にお任せします。私を含めてアポロンの冒険者は全員、マスターの決断を信じていますので、思うままに」

「そうだねぇ……」


 とサンズさんは思案する仕草を見せて、視線をカタリナさんへ送る。


「例えば、クロエ君のギルドマスター試験でカタリナと試合をするのはどうかな?」

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