7.三女・ジャスミン
アリエルさんと出会ったあと。
私はティナさんに連れられて、お屋敷のダイニングへとやって来た。
20人くらいは優に座れるであろう広さである。
その一つに腰を下ろした私は、ティナさんのお手製お昼ご飯をいただいていた。
「ん~美味しい♡」
特にこの牛肉が使われたシチューはコクが深くてまろやかで絶品だ。
ソーセージも外はカリっと、噛むと中から肉汁が溢れ出す。
パンと一緒に口の中に放り込んでも、抜群の相性だった。
舌鼓を打っていると、ダイニングの扉がバタンッと乱暴に開かれた。
「ただいまー! わぁ! いい匂いがする!」
そこに立っていたのはアリエルさんと同じ銀色の髪の少女。しかし髪はポニーテールにまとめられているので、アリエルさんではない。
アリエルさんが美人系だったけど、この少女は活発で元気な印象を抱いた。
「あれ!? そこにいるの誰!? ティナじゃないよね!?」
私と目が合った少女が飛び跳ねるという表現が似合いそうな軽やかさで、こちらにやって来る。
「ねぇねぇ、あなたは誰?」
「私はクロエです。もしかして四姉妹の」
「正解!」
なぜか彼女はビシッと背筋を伸ばして敬礼をした。
「三女のジャスミンです!」
「ジャスミン様ですね」
「はい、ジャスミンです!」
再び敬礼をするジャスミンさん。
アリエルさんみたいに攻撃的じゃないし、素直そうだ。
まるで小動物みたいだなって感想を抱く。
と、ジャスミンさんの敬礼をしていないほうの手から何かが飛び跳ねた。
「うぇっ!?」
「あっ、ダメだよ!」
「な、なぜ子猫が!?」
トン、とテーブルの上に現れたのは本物の小動物だった。
ジャスミンさんが慌てて取り押さえようとするも、子猫はテーブルの上を走って逃げだした。
まさか、この子猫。ジャスミンさんが拾ってきたのだろうか。
よく見ると、ジャスミンさんの服は泥や砂埃で汚れてしまっている、とてもじゃないけど、貴族の令嬢には見えなかった。
「待ってー!」
ジャスミンさんが子猫を追いかける。
すると、扉が再び開いて今度はティナさんが戻ってきた。個人の部屋にいるお嬢様に昼ご飯を届けに行っていたのだ。
「あ、ジャスミン様。おかえりになられていたのですね」
「ティナ! アタシの猫を捕まえて!」
「え?」
子猫が開かれた扉から逃げようとする。
それをティナさんは素早く反応して、子猫を捕まえた。
「ティナありがとう~」
「ジャスミン様。また勝手に拾ってこられたのですか?」
「だってぇ……」
「アリエル様に怒られますよ?」
「……はぁい」
捕まえられた子猫と同じように、ジャスミンさんも大人しくなる。
たしかにアリエルさんに怒られると聞いたら、妹としては怖いだろう。
「戻してくるね」
「はい、お気をつけて」
「クロエもまたね!」
ティナさんから子猫を受け取って、ジャスミンさんは廊下を駆けて行った。
嵐のような人だったな、と思う。
(シャル、どうだった?)
(うむ。あやつもまた、鍛え甲斐がありそうじゃ。かかっ)
ジャスミンさんを見送って、ティナさんが心配そうな顔でこちらにやって来る。
「クロエさん、平気でした?」
「あぁ、はい。三女のジャスミン様っていうのは聞いたんですけど。何歳なんです?」
「15歳です」
ということは一つ下か。
四姉妹のうち、長女が私より年上、アリエルさんが同い年、下の二人が年下ということになる。
「クロエさん、お食事はお口に合いましたか?」
「はい。もうめちゃくちゃ美味しいです。これが毎日食べられるなんて、夢みたいです」
「ふふっ、ありがとうございます」
三女 ジャスミン=ヴァレル
15歳。銀髪のポニーテール。髪を解くと肩よりも少し下くらいの長さ。