68.ジャスミンの本音とクロエの提案
「アタシの、本当の気持ち……?」
驚きに満ちた表情で、ジャスミンさんは私の言った言葉を反芻した。
「はい。ジャスミン様の本音です。シラユキ様たちは、ジャスミン様が追放となるのなら自分たちもギルドを出ると言っていました」
「え……?」
「そのくらいジャスミン様と一緒にいることに意味があるのだと」
今回の場合は、追放されるのはジャスミン様だ。
もし、追放されるのが他の姉妹だったとしたら、ジャスミン様もきっと同じことを選んでいただろう。シラユキ様の言葉を聞いて、私はそう確信していた。この姉妹なら、誰であってもそうすると。
私の話を聞いて、ジャスミンさんは衝撃を受けたように目を瞠っていた。
「そんな……そんなことしても」
「ご安心を。ここへ来る前に止めてきましたから」
「そっか、よかった……」
「ですが、シラユキ様、アリエル様、ベル様は心の底からジャスミン様のことを想っています。ジャスミン様だって、そうじゃないんですか?」
ジャスミンさんはすぐに返事をしようと口を開ける、しかし、言葉は発せられず、一度口を閉じてしまった。
それから数秒、視線を俯けてポツリと言う。
「そうだよ……そうだけど……だから、こうするんだよ。アタシといたら、ユキちゃんたちに迷惑をかけることになるもん!」
「でも、シラユキ様たちはそんなことはいいと」
「アタシが良くないの! そんなの嫌だ! クロエ、これがアタシの気持ち」
「シラユキ様……」
「本当の気持ちだからっ!」
いくら家族とはいえ、人のために自分を差し出せる人はなかなかいない。
口だけではなんとでも言えるが、ジャスミンさんは実際に自分の追放には文句を言わず、代わりにシラユキさんたちの処罰を軽くしてくれるよう頼んでいたのだ。
その言動が嘘であるはずがない。
ジャスミンさんも姉妹のことを心から大切に想っている。
だというのに、それぞれの想いは違う場所へ向かおうとしている。
私が聞きたいのは、もう一つ奥にある、正直なジャスミンさんの気持ちだ。
「でも、私が聞きたいのはそうではなくて、ジャスミン様自身がどうしたいのか、という気持ちです。ご自身の気持ちを私に教えてくれませんか」
「私に気持ちは……」
「三人のご姉妹はどんなことがあってもジャスミン様と一緒にいたいと思っています。ジャスミン様は違うのですか?」
「そんなの、決まってるじゃん……」
ぐっと拳を握り、肩を震わせるジャスミンさん。
顔を上げて私を見つめるその瞳には、薄っすらと涙がにじんでいるように見えた。胸元を押さえて、心中の言葉を吐露する。
「いたいよ! ユキちゃんアーちゃんベルと一緒にいたいに決まっているじゃんっ! でもアタシは――」
「——わかりました」
「へ?」
その言葉が聞ければ十分だ。
シラユキさんたちは自分たちがギルドを出て苦労することを選んでもジャスミンさんと一緒にいたい。ジャスミンさんもシラユキさんたちと一緒にいたい。なら、そうするべきだ。
そして、そのために四姉妹の先生である私ができること。それは――
「——ジャスミン様。私のギルドに入りませんか?」