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66.三人の決断

「シラユキ様。もしかしてですけど、自分たちもアポロンを出ていこうってこと、考えてないですよね……?」


シラユキさんとの会話で脳裏をかすめた違和感。それを思案して行きついた先にあったのは、そんな可能性だった。

 ジャスミンさんとまともに話もできていないのに、「ダメだったときはダメだったとき」なんて言うだろうか。いや、言わないと思う。

 それでもシラユキさんが、そう言う風な言い方をしたのはジャスミンさんとまた会うことができる、話すことができると、わかっているからだ。昨日の姉妹会議では、今までと同じように四人でいられる方法を話し合ったのだろう。

 

 その結果。

 追放されたジャスミンさんをギルドに戻すことはできない。そしてシラユキさんたちがアポロンに所属していれば、いくら姉妹と言えども今のようにジャスミンさんと過ごすことは厳しくなる。

 ならばどうすればいいのか。

 簡単な話だ。ジャスミンさんがこちらに戻れないのなら、こちらがジャスミンさんのところへ行けばいい。

 そういった結論に至ったのだろう。

 

 目の前にいるシラユキさんは肯定こそしないけれど否定もしないでいる。

 私の推測が間違ってはいないという証拠だ。


「…………」

「そうなんですね?」

「……ジャスミンと一緒にいるためには、これしかないんだ」

「アリエル様とベル様も」

「あぁ、昨日三人で考えて三人で決めた」


 シラユキさんは、いや、アリエルさんもベルさんも本気なのだとすぐに理解できた。

 まさか昨日の夜、三人でそんなことを考えていたなんて……。

 正直、四姉妹の絆や愛を見くびっていた。でも、考えたらそうか。今までずっと姉妹として生きてきたのだ。シラユキさんたちにとっては、どんな場所で何をするよりも、誰といるかが大切なのだ。姉妹でいることが。


 仮に出ていったとして、四姉妹を待っている苦難は楽なものではない。

 住む場所だって、お屋敷は無理だし、ただただ生活するだけでも厳しいものになると思う。


「ボクたちは何があっても姉妹で、家族で、四人だ。誰一人だって欠けちゃダメなんだ。それはもうボクたちじゃない」

「ですがシラユキ様、アポロンを抜けるようなことは」

「こうするしかないよ。ジャスミンと今まで通りいるには、それしかない」

「それは、そうかもしれませんが……」

「ほらね。方法がない以上、こうするしかない。クロエが心配してくれるのはありがたいよ。君は今までの指導役の魔法使いとは違った。まぁ、ボクが言ったところでって感じだけどね」


 苦笑を浮かべるシラユキさん。


「でもね、これだけは言える。ここでジャスミンを見捨てて今の暮らしを選ぶくらいなら、ボクたちはジャスミンと地獄へ行くことを選ぶよ」

「シラユキ様……」


 はっきりと淀むことなく言い切ったシラユキさん。


 その声や覚悟に、私の中で何かが弾けた。はっとして、目を覚ましてもらった気がする。

 そうだ。そうじゃないか。このまま、姉妹の仲が引き裂かれるのを諦めて見てるだけでいいの?

 そんなはずはない。

 シラユキさんたちは自分たちで方法を考えた。私は何か考えた? いや、何も考えていない。どうしようもないことだと、心の中で勝手に思い込んでしまっていた。


 だけど、私の仕事は何?

 

 サンズさんはジャスミンさんが追放となって私が指導する人数が減るから楽になるかもしれない、なんてことを言っていたけど、それは違う。

 だって、私が請け負った仕事の内容は――


――ヴァレル家の()()()の魔法の先生、なのだから。


 長女・シラユキさん。

 次女・アリエルさん。

 三女・ジャスミンさん。

 四女・ベルさん。

 この四人の魔法の先生だ。三人でも五人でもない。四人の指導役として、私はティナさんに声をかけられて、今まで過ごしてきたのだ。

 私だって、できることなら四人を指導したい。四人ともに魔法を好きになってもらいたい。

 

 ……思いの外、私は四姉妹のことを好きになっているのかもしれない。まだまだ全然だけど、過ごした日々が新鮮で楽しかったのだ。


 でも、ジャスミンさんの追放は止められない。

 かといって、三人がアポロンを脱退するようなことを見過ごすわけにもいかない。

 それでも四人が一緒にいる方法は……。そのために私にできることは……。


 考えろ~! 考えろ私!

 

「あ……これなら……」

「クロエ?」

「シラユキ様。やっぱり私はどんな理由があろうとも、アポロンを抜けるのは賛成できません」

「……クロエが賛成してくれなくても、ボクたちはジャスミンを選ぶよ」

「わかってます。私もシラユキ様たちは絶対に四人でいるべきだと思います」

「どういうことだい?」


 シラユキさんが眉をひそめる。

 

「シラユキ様。一つだけ、思いついたことがあります」


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