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63.三女のいない食卓

 四人で囲んだ夕食は、私にとっては四日ぶりとなるティナさんのご飯だった。

 だというのに、とてもじゃないけど楽しくおしゃべりをして、なんて気分にはなれない。しんと静かに、食器の音だけが寂しくダイニングには響いていた。


 ……ここにジャスミンさんがいれば、空気は変わっていたんだろうな。

 こういうとき、沈んだ空気を明るく変えているのはジャスミンさんだったように思う。だけど、そのジャスミンさんはお父さんのギルドを追放されることが決まって、今はアポロンにいる。きっとサンズさんと今後についての話をしているのかもしれない。


 ヴァレル家の四姉妹の指導役になって、まだ10日ほどしか経っていないとはいえ、やっぱり四人いないこのお屋敷は広く寂しく感じる。いつも落ち着きがなくて、笑顔を絶やさなかったジャスミンさんだからこそ、より寂寞を心に抱いてしまうのだろう。

 私ですらこんな気持ちになっているのだから、姉妹、家族である三人の抱いている想いは考えるまでもなかった。


 私の斜め前、シラユキさんの正面でご飯を食べていたアリエルさんが不意につぶやく。


「気に入らねぇ……」

「アリエル様?」

「こんなの、気に入らねぇよ」


 アリエルさんはスプーンを持っている拳をぐっと強く握った。

 今回の騒動の処分でジャスミンさんは追放となった。しかし、それは地竜を王都で育てていたことを考えれば、かなり優しい処罰であると説明もされた。

 とはいえ、やはり妹が追放されるというのは受け入れがたいのだろう。


「なんで、こんな……っ」

「アリエル。落ち着いて」

「シラユキ、てめぇ――」

「ボクも同じだよ。アリエルと同じに決まっているじゃないか」


 シラユキさんがアリエルさんをなだめてくれる。

 だけど、シラユキさんまでアリエルさんに賛同するとは思っていなかった。いや、姉妹だから同じ思いなのは当然かもしれないけど、シラユキさんは冷静に胸の奥に留めておくと思っていた。


 なぜならば、何をしても一度決まった処分は変わることはないからである。

 受け入れられなくて、仮に立てついたとしてもジャスミンさんの追放が取り消されるなんてことにはならない。

 むしろ、謹慎となっている私たちが勝手な行動をしてしまえば、それこそ姉妹全員が追放、私はクビになってしまうだろう。それはジャスミンさんが望んでいることでないのは明白だった。


 だからシラユキさんは、どれだけ受け入れられていなくてもアリエルさんが変なことをしない方向の返答をすると思っていたのだ。

 それがまさか同調してしまったので、私は慌てて釘を刺しておく。

 アリエルさんだと、アポロンや王城に乗り込んだりしかねない。


「し、シラユキ様……?」

「大丈夫。わかっているクロエ」

「そ、そうですか? ならいいんですけど……」

「あぁ。君の心配しているようなことは、ボクもアリエルも考えていないさ」


 心配しないで、と言いたげに薄っすらとした微笑みを浮かべる。けれど、やはりどこか影が落ちているというか、元気がない。


「ジャスミンのことは、ボクだけじゃなくてアリエルもベルも理解はちゃんとしているつもりだよ」

「……あぁ」

「……う、うん」


 アリエルさんもベルさんもうなずいてくれたので、ひとまずは安堵する。

 でも、だったとしたら。


「なら、何が気に入らないんです?」

「ジャスミンに決まってんだろ……!」

「だから、ジャスミン様のことは」

「そうじゃねぇよ! たしかにジャスミンだけ追放ってことも納得はできねぇ。でも、オレが一番気に食わないのは、ジャスミンが自分だけ悪いって思ってるところだよ……!」


 アリエルさんがテーブルに拳を叩きつける。

 

「なんで話してくれなかったんだよ……こんなことにはならなかったかもしれないのに……姉妹だろ……家族だろ……」

「そうだね……悔しいというか、情けないよ……」

「それにオレは、ジャスミンが追放ならオレも追放でよかったんだ……なのに、あいつ……!」


 シラユキさんは自分を責めるように視線を落とし、アリエルさんは拳を振るえさせ、ベルさんは服をぎゅっと握って唇を噛んでいた。


「シラユキ様……アリエル様……ベル様……」


 この四姉妹は本当に強い絆で結ばれているんだな、と改めて感じた。


「……やっぱり、ボクが長女として頼りないから、なのかな」

「それを言ったらオレだって……」

「べ、ベルも……」


 ダイニングに沈黙が再び漂う。

 結局、それからは会話が始まることはなかった。

 やがてご飯を食べ終えた人から静かに立ち上がって、ダイニングを出ていく。食器を片付けるティナさんも、私と目が合うと小さく会釈をするだけ。

 ものすごく空気が重たくて、居心地が悪かった。


(シャルぅ……)

(気まずいからと言って我に話を振って来るでないわ……)


 呆れたように返すシャル。 


(まぁ、仕方ないであろう。今はそっとしておくしかできぬと思うぞ?)

(……だね。ごめんね、シャル)

(よいよい)


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