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62.騒動の処罰

「さて、次はシラユキ、アリエル、ベル。そしてクロエ君の処罰だが」


 サンズさんが一人ひとりの顔を見る。

 騒動の中心であるジャスミンさんのアポロンからの追放が決まったとはいえ、姉妹や私も関係者となれば、お咎めなしということにはできなかったのだろう。

 特に私の場合は、知らなかったとはいえ監督不行き届きと思われても仕方ないと思う。それでも指導役は続けられるのだから、サンズさんが王城の役人と掛け合ってくれたに違いない。


「5日間の謹慎とする。街へ買い物に行くくらいなら構わないが、依頼の受諾は禁止。当然、王都の外へ行くのも禁止だ。外出する場合は必ずティナに報告をして、クロエ君と一緒に行動すること」


 サンズさんが告げた内容に私は肩すかしを受けた気分になった。想像以上に軽い処罰だったからだ。

 依頼を受けられない点以外は、たいして大きな事柄ではない。謹慎なのだから、依頼は受けられるはずないし、王都を出るなんてことは許されない。しかし、王都内であれば外出しても構わないという条件なのだ。

 おそらく、姉妹や私へは体裁上だけの処罰なのだろう。 

 今回の騒動はジャスミンさんに責任があると判断されたらしい。

 

「待ってよ、お父さん。話が違う」

「なんだジャスミン。何も違わないだろう」

「アタシは全部アタシが悪くて、ユキちゃんたちは何も悪くないって言ったのに……」


 自身の処罰を聞いていた時とは打って変わって、ジャスミンさんはサンズさんへ不服そうに言う。

 サンズさんの角度からは見えていないだろうけど、ジャスミンさんは机の下で拳をぎゅっと握っていた。

 

「たしかに言っていたかもしれないがジャスミン。まったくないというわけにもいかないだろう」

「そんな……」

「お前にはわからないかもしれないが、仮にギルドで同じようなことがあった場合、連帯責任になることが多い。そうだね、クロエ君?」

「はい。基本的には、ですけど」


 一般的にはパーティー全員がそれぞれ処罰されることになる。

 もちろん、責任の比重によって内容は変わるけれど、連帯責任というのは基本的なルールだといってもいい。

 ……私みたいに、理不尽に一人だけ追放なんてことになるギルドもあるみたいだけど。


「そしてお前たちはパーティーではなくとも姉妹だ。当然だろう」

「でも、悪いのはアタシだけなんだから、ユキちゃんたちまで罰があるのはおかしいよ!」

「ジャスミン。これ以上は無理だ。いいか? クロエ君をこの場でクビにして、シラユキたちを連れ戻してもいいんだぞ?」

「……ッ」


 きっと、元々王城から提示された処罰はそれだったのだろう。

 それでも、ジャスミンさんが全面的に責任を認めていること、王国へ反抗する意思はなかったこと、被害がなかったこと、加えてアポロンのギルドマスターであるサンズさんの娘、ということもあって処罰は軽減してもらえたのだ。

 ジャスミンさんのギルド追放もそうだし、私や他の姉妹の処罰についても。


 ジャスミンさんが姉妹のために追放を受け入れた。

 そのおかげで三人の処罰が軽くなったとわかり、アリエルさんが隣のジャスミンさんに言及する。


「ジャスミン、なんでお前、オレたちのためにそんなこと言ったんだよ!」

「ためっていうか、当たり前だよ。アーちゃんたちは何も悪くないもん」

「そうかもしれねぇけどよ……オレたちは姉妹じゃねぇか……」

「だから、迷惑をかけたくなかったの……」

「別に迷惑だなんて」

「ううん、これでいいんだよ」


 ジャスミンさんの意志は固く、アリエルさんはギリリと歯ぎしりした。

 

「……父上」

「なんだ、シラユキ」

「ボクたちの罰を厳しくしてもらってもいいから、ジャスミンの追放というのを取りやめることはできませんか」

「処罰の変更は無理だ。他に質問は?」


 顔色を変えることなくサンズさんが断言する。

 誰も声を発したり、挙手しないのを確認してサンズさんは短く息を吐いた。


「では話は以上だ。謹慎の期限は今日から5日間。あとでティナへ書簡も届けておこう。それからクロエ君」

「は、はい?」 

「今日から屋敷に戻ってもらって構わないよ。ここ数日はすまなかったね」

「いえ、いいお部屋をとっていただいていたので」

「そう言ってもらえると助かるよ。これからも娘たちのこと、よろしく頼む」


 そう言って、サンズさんは話は終わりだと立ち上がる。


「ジャスミンは私と来なさい」

「…………うん」


 サンズさんの呼びかけにジャスミンさんは素直に腰を上げた。

 部屋を出ていくサンズさんの後ろをついていく。

 扉が開くと、廊下ではカタリナさんが待っていた。


「カタリナ。四人を外まで見送ってやってくれ」

「かしこまりました」


 部屋を出る際、ジャスミンさんが私のほうへと振り返って、薄っすらと弱々しい笑みを浮かべる。

 

「みんな、ごめんね……」

「おい、ジャスミン!」


 ジャスミンさんに駆け寄ろうとアリエルさんが歩みを進める。だけど、その前にはカタリナさんが立ち塞がった。 


「お嬢様、これ以上は」

「てめぇ、離せ!」

「申し訳ございません、アリエルお嬢様。マスターのご命令ですので」

「くそがっ!」


 ジタバタと暴れるアリエルさんだけど、カタリナさんに敵うはずもない。

 カタリナさんに小脇を抱えられ羽交い絞めにされたアリエルさんに続いて、私たちはアポロンをあとにした。


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