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61.納得いかねぇ!

「——ジャスミン、お前をアポロンから追放とする」


 サンズさんが下した言葉に、シラユキさん、アリエルさん、ベルさんは信じられないと目を大きく瞠った。ジャスミンさんは俯いたまま黙って受け止めているようだった。もしかすると、ジャスミンさんは昨日までの聴取のときに聞いていたのかもしれない。


 驚く姉妹三人の中で、誰よりも先にアリエルさんが机をバンと強く叩きながら立ち上がる。


「なんでだよッ! オレは納得いかねぇ!」

「落ち着きなさい、アリエル」

「これが落ち着いてられるか!」


 怒りを滲ませた口調で、父親であるサンズさんを睨みつけるアリエルさん。

 そんな次女に続いて、長女であるシラユキさんもサンズさんへ意見を口にする。


「父上。ボクからもいいでしょうか」

「構わん。ダメと言っても聞かないだろうしな」

「ありがとうございます。ボクもアリエルと同じで納得はできません。少し厳しいのではないかと思います」

「厳しい?」

「いくらなんでも追放というのは、あまりにも」


 激怒しているアリエルさんとは違って、シラユキさんの話し方は至って落ち着いたものだ。本当はアリエルさんと同じくらい理不尽に思っているのかもしれないけど、この辺りはさすが長女というべきか。

 その言葉を聞いたサンズさんは大きくため息を吐き出した。


「まったく……お前たちは何もわかっていない。まぁ、だからこそ半人前……いや、四分の一人前なのかもしれないが……」

「あぁん? 何が言いたいんだよ」

「そのままの意味だ。クロエ君」

「は、はいっ」


 突然私の名前が呼ばれたのでびっくりしてしまった。

 家族で揉めているというか、言い合いをしていて私は間に入れそうになかったので私は関係ないのかと思っていた。けど、どうやらそんなことはなかったらしい。

 サンズさんに呼ばれたことで、アリエルさんたちの視線も自然と私へと向けられる。


「クロエ君。エーデルシュタインにいた君ならば、わかってくれるね?」

「そんなことねぇよな? お前もおかしいと思うよな?」


 アリエルさんだけでなく、シラユキさんとベルさんの縋るような目に気づく。

 心は痛いけど、私は正直に答えることにした。


「私は……お父様の言う通りだと思います」

「なッ!? おい、てめぇ!」


 目を大きくさせるアリエルさん。だけどすぐに弾かれたように私の前へとやって来た。


「お前、本気で言ってんのかよ」

「……はい」

「このままジャスミンが追放されてもいいってのかよ!」


 興奮状態になっているアリエルさんに胸ぐらを掴まれる。

 シラユキさんが慌てた様子で席を立ち上がろうとし、ジャスミンさんは「どうしたら……」と混乱しているのが見えた。

 けど、隣に座っていたベルさんがすぐに仲裁に入ってくれた。


「あ、アリエル姉様……」

「なんだベル? お前までジャスミンが追放されていいってのかよ!」

「ベルだって、嫌だよ……でも、クロエは関係ない……」

「……ちっ」


 舌打ち混じりに不機嫌な様子でアリエルさんは手を離してくれた。

 

「ベル様、ありがとうございます」

「う、ううん……」


 シラユキさんとジャスミンさんはほっと安堵した顔をしていた。

 サンズさんは表情を変えることなくこちらを見ており、アリエルさんは荒々しくドカッとイスに腰を下ろした。


「アリエル様。ギルドの追放はたしかに重たい罰かもしれません」


 自分からギルドを抜けた場合と比べて、追放というのは要するにクビなので印象が悪い。

 前科、というわけではないが、それだけで他のギルドに所属しようとしても断られてしまうことだってあるのだ。

 私の場合は運よくティナさんに仕事の話をもらえたし、サンズさんも事実を知ってくれていた。追放されたことが不利に働かなかったのは、本当に運が良かったと思う。

 そのくらい、追放というのは印象も悪いし罰としても重たいものだ。

 だけど。


「ですが、今回のジャスミンさんの騒動はギルドではなく、王都の追放や投獄されてもおかしくはなかった。そう考えるとこの判断は厳しいとは……むしろ……」

「軽いってか……?」

「……客観的には、ですけど」


 きっとサンズさんもギルドマスターとして、父親としていろいろと苦悩したに違いない。

 トップギルドのマスターとして、いくら娘でも特別扱いはできない。しかし、マスターとしてはそれでよくても、投獄や王都からの追放となれば、父親としては周りからどう思われるか。その印象はギルドにも影響しかねない。

 だから、そのギリギリの部分で、サンズさんは王城の役人と話し合って、本当に苦しい決断をしたと思う。


 アリエルさんも投獄や王都からの追放と比べると、ギルドからの追放がどれだけマシな罰か理解してくれたらしい。

 ギリッと怒りを抑えるように歯噛みした。


「ジャスミンはそれでいいのかよ」

「……うん。アタシが悪いんだし、仕方ないよ」


 アリエルさんの問いかけに、ジャスミンさんは力なく微笑んだ。


「くそっ」

「そういうことだ、アリエル。ジャスミンとは昨日話して、納得もしていることだ。シラユキとベルもいいな?」


 アリエルさんが黙ったということが大きかったのかもしれない。

 シラユキさんとベルさんは静かに俯いていた。それは首肯と捉えられたらしい。

 私もジャスミンさんが事前に了承していたことならば、今更何を言ってもダメだろうとうなずく。

 

「さて、次はお前たちとクロエ君の処罰についてだ」


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