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60.アポロンギルドマスターの決断

「よく来てくれたね、クロエ君」


 アポロンギルドマスターの部屋へ通された私へ、マスターである四姉妹の父親が薄く笑みを浮かべた。

 やはり、よく四姉妹に似ていると思う。


 そして、部屋の中央にある6席が設けられた円卓には、驚いた表情の四姉妹の姿があった。

 左側にシラユキさんとベルさん、右側は奥からアリエルさんとジャスミンさんが座っている。どうやらシラユキさんから年齢順に時計まわりで着席しているらしい。

 それぞれ姉妹で顔を見合わせたり、何か小声で話したりしているので、私が来ることは知らなかったみたいだ。 


 姉妹を代表して、長女のシラユキさんが父親へ質問する。


「父上。どうしてクロエがここに」

「どうして? これからする話に彼女が必要だからに決まっているだろう」

 

 娘へ返答しながら立ち上がり、ギルドマスターは空席となっている席のうち、奥の席へ移動した。


「さ、クロエ君もそこへ」

「……はい。失礼します」


 促されるまま私は、入口に一番近い席——左にベルさん、右にジャスミンさんがいる席――に腰を下ろす。

 

「さっそく本題……といきたいところだけど、まずは自己紹介をしておこう。私はアポロンのギルドマスターをしているサンズ・ヴァレル。この子たちの父親でもある」

「存じております」

「だろうね。ちなみに、私も君の話はちょくちょく耳に入っていたよ。エーデルシュタインの焔の魔法使い殿」

「それは光栄です……あの、でも」


 私はギルドを追放されている。自分から抜けたわけではなく追放なので、印象は悪いと思う。

 それにもし、エーデルシュタインに所属している冒険者だから私を四姉妹の指導者として雇ってくれているのなら騙したと受け取られても仕方ないかもしれない。

 言い出しづらくはあったけど隠すつもりはなかったとはいえ、この場でクビにされても文句は言えない。

 言い淀んでいると、私とは裏腹にサンズさんは朗らかに笑みを浮かべた。


「あぁ、すまない。今はフリーの冒険者なのだったね」

「え、はい。知っていたんですか……?」

「もちろん。君ほどの冒険者の話だからね。あぁ、でも気にしなくていい。どうせあのバカマスターとバカ娘が何か理由をこじつけて君を追い出したのだろう?」

「それは……その……」

「すまない。君からは言いにくいことだったね、申し訳ない」


 あそこで首肯してしまうと、私もエーデルシュタインのマスターとその娘がバカだと言っているようなことになる。

 追放されたとはいえ、元々所属していたギルドのマスターとその娘なので気を遣ってくれたらしい。

 私が同意したとどこからか漏れれば、変な争いの火種にもなりかねないし。


「い、いえ……」

「まぁ、とにかく。そんな過去の話はどうでもいい。君が今までの指導役以上に娘たちと上手くやってくれているのはティナから聞いているからね」

「ティナさんが」

「ああ。ティナはクロエ君はご飯を美味しい美味しいって食べてくれるから作り甲斐があるとも。そんな君をクビにするだなんてことは考えていないから安心してほしい」


 どうやら今回呼び出されたのは、クビにされるという理由ではなかったらしい。

 ほっと安堵する。

 

「娘たちからも話は聞いたよ。苦労をかけるだろうが、これからも指導役としてよろしく頼む」


 小さく頭を下げるサンズさん。

 まさかアポロンのギルドマスターに頭を下げられる日が来るとは思ってもいなかったので、少し慌ててしまう。いや、これはマスターとしてというよりも、どちらかというと父親として、って感じか。

 

「では、そろそろ本題に入ろう。今回、クロエ君を呼んだのは指導役として君にも同席してもらうべきだと思ったからだ」


 サンズさんに、四姉妹の指導役として本当に認められているんだなと感じて、嬉しくなる。


「確認だけど、クロエ君はジャスミンと森へよく行っていたそうだね?」

「はい。一緒にお世話をしていました」

「だけど地竜のことは知らなかった。間違いないね?」

「はい。ですが、異変に気づけなかった私も悪いっていうか、ジャスミン様に早く相談してもらっていればよかったので、単にジャスミン様だけが――」

「——あぁ、クロエ君。娘を庇ってくれるのは嬉しいけどね。今は事実確認をしただけだから、そのへんで」

「……すみません」

「いやいや。それほど娘たちのことを大切に思っていてくれているみたいで嬉しいよ。だけど、これで君の負担も少しは減るかもしれないね」

「え? それってどういう……」


 私に質問には答えず、サンズさんが顔を向けたのはジャスミンさんだった。

 いつも元気なジャスミンさんだけど、さすがに自分が騒動を起こしたということで、しょんぼりとしていた。黙っているとまるで別人のように見える。


「ジャスミン。お前もクロエ君とのことは、それで間違いないね?」

「……はい」

「ではジャスミン――」


 サンズさんは自身の三女をじっと見つめて、ゆっくりと告げた。


「——お前をアポロンから追放とする」

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