6.次女・アリエル
「お、ティナ帰ってたのか」
銀色のショートカットの少女が広間にやって来る。
快活に口角を上げ、八重歯を覗かせる彼女にティナさんは丁寧にお辞儀をした。
「アリエル様。あの、本日はお会いしていただきたいお方がいるとお話していたはずなのですが……」
「あん? そうだったか?」
本当に忘れていたのか、アリエル様と呼ばれた少女は首をかしげた。
「アリエル様、他のご姉妹は」
「オレに聞くな、知るかよ。あぁ……まぁ、あいつは部屋じゃねぇの?」
アリエルさんが姉妹で何番目なのかは、現時点ではわからない。
でも、乱暴な言葉遣いをする人だな……。
じっと見ていたから、アリエルさんが私に気づく。
「ん? ティナ、あいつは?」
「本日からアリエル様達ご姉妹のご指導役として来ていただきました、クロエさんです」
「……おい、ティナ」
アリエルさんの顔から笑顔が消える。
美人系の顔をしているから、少しムッとした表情をするだけでけっこう怖かった。
「余計なことすんなっつってんだろ」
「すみません、アリエル様。ですが」
「あぁもういいよ。呼んじまったもんは仕方ねぇ」
かったりぃ……とアリエルさんが頭をガシガシと掻く。
大きなため息を吐くと、私のほうへやって来た。
めちゃくちゃ睨んでくる。これ、普通に歩いてたら喧嘩を売っていると受け取られても仕方ないくらいの威圧感だよ……?
まぁ、たぶん魔法ありで喧嘩をしたら秒殺だと思う。
とはいえ、私は先生。
喧嘩をしに来たのではなく、魔法を教えるために来たのだ。
「アリエル様。これからよろしくお願いします」
「けっ、そんなのどうでもいいよ」
「へ?」
「どうせ金に釣られて来たんだろ? お前もすぐに出ていく」
「いえ、私はちゃんと魔法を教えに来たんです」
「はっ、どうだか」
アリエルさんはさらに眼光をきつくさせた。
あまりの迫力に少し気圧されてしまう。
あぁ、これは小さな子だったら泣き出してしまうだろう。
「オレは――いや、オレたちは魔法が嫌いなんだよ。だからお前も嫌いだ。さっさと出ていけ」
ふんっとアリエルさんは鼻を鳴らして、広間を出ていった。
それを見送って、私は頬を掻く。
「えっと、ティナさん? 今のは」
「次女のアリエル様です。年齢はクロエさんと同じ16歳」
「え、同い年……」
もう少し年上だと思ってたぞ……。
っていうか、初対面のはずなのにこんなに嫌われてるって……。
魔法のことも相当嫌っておられる様子。これはかなり難しい仕事を受けてしまったかもしれない。
「クロエさん、平気ですか?」
「あぁ、はい。びっくりはしましたけど」
「お嬢様が失礼をすみません……実を言うとお呼びした半分くらいの方が最初に会われた一人と話して、帰ってしまうのです……」
「なんとなく、気持ちはわかります」
先生として来ているのに、あんな態度を最初に見せられちゃあ帰りたくなるよね。
だって、同じような問題児の姉妹が全部で四人。先が思いやられるもん。
私が過去の指導役の方々に同情していると、隣のティナさんが今にも泣き出しそうだった。
「あの、クロエさんは帰ったり……」
「大丈夫ですよ。まだ帰りません」
「まだ……?」
「とりあえずは姉妹全員に会わないと。それにアリエル様は教え甲斐がありそうですし」
魔法書に触れて、シャルにも問いかける。
先ほど、アリエルさんは私に接近したのでシャルも感じ取れたはずだ。
(うむ。魔法の才能はそこそこはありそうであったぞ。さすが貴族と言うべきかの)
私の言葉にティナさんの顔が明るくなる。
うーん。他の姉妹がみんな、ティナさんみたいにいい人だったらいいのに。
もちろん、私のこの願望が叶うことはなかった。
「そうですか! クロエさん。他のご姉妹もお願いします」
次女 アリエル=ヴァレル
16歳。銀髪のショートカット。肩口の長さ。長いのは鬱陶しいので嫌い。