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58.クロエとギルド・アポロン

 地竜の騒ぎが一旦落ち着いたのち、私たちはブリジットさんたちに連れられてアポロンのギルドへとやって来た。

 アポロンのギルドは外から見ることは今まで何度もあったけど、中に入るのは初めてだ。


 ……まさか、こんな形で踏み入れることになるとは思ってもいなかったけど。


 以前所属していたエーデルシュタインのギルドも、アポロンと並ぶ大きなギルドというだけあったので、ここと基本的な造りは変わらない。競争しているギルド同士とはいえ、どちらもギルドであることに変わりはないので、内装には大きな差はないのかもしれない。

 依頼が貼りだされた掲示板、依頼の受注や報告をするカウンター、横には酒場兼レストランも併設され、アポロン所属の冒険者たちで賑わっていた。


 とはいえ、アポロンのギルドは雰囲気が良いように見える。

 エーデルシュタインで、マスターの娘に目をつけられて依頼に失敗し、さらにギルド追放というコンボを決められたから、そう見えるだけかもしれないけど。 

 私も最初からアポロンに所属していたら、どうなってたのかなぁ。

 あ、でもそうすると、四姉妹には今のような形で会えていなかったかもしれない。

 なんて考えていると、ギルドの二階から階段を下りてくるブーツの音が聞こえた。ついこの瞬間までざわざわと活気づいていたのに、雰囲気が一変したのである。

 

「お久しぶりですね、アリエルお嬢様、ジャスミンお嬢様」


 薄っすらと口元だけをわずかに緩ませてこちらにやって来るのは長い赤髪の女性。長袖にスカートというシンプルな服装ながら、腰に差された二振りの細身の剣が異様に似合っていた。

 直接この女性と私は話したことはないけど、何度も話には聞いているし、見かけたことがあった。いや、冒険者なら彼女のことは一度は必ず聞いたことがあるはずである。


――カタリナ・ヴリューシア。


 強者ぞろいのアポロンにおいて、誰もが認めるナンバー2である。

 エーデルシュタインにもその名前は轟いており、あまりの強さから彼女の髪は返り血で染まった赤色だと噂されていた。


「ブリジット、ご苦労様」

「い、いえ。カタリナ様、いかがいたしましたか?」

「あぁ、お嬢様たちのことは私が引き受けるようにと、マスターのご命令でして」


 アリエルさんとジャスミンさんがビクッと反応したのがわかった。

 四姉妹の指導には、以前はアポロンの有力な冒険者があたっていたと聞いているから、きっとカタリナさんもその一人だろう。

 その間に、私の知らない何かがあってもおかしくはない。

 良い関係でなかったのは間違いないと思うけど……。


 じっと見つめてしまっていたからか、カタリナさんが私に顔を向ける。


「あなた、エーデルシュタインにいたクロエですね?」

「私のことをご存知で」

「もちろんですよ。以前から噂はかねがね」


 くすりとカタリナさんは微笑む。あくまで口元だけであり、目の奥はとてもじゃないけど笑っているとは思えない。……普通に怖い。

 

「焔の魔法使いと一度話して見たかったんです。まぁ、今は無理そうなので、次の機会にでも」

「……はい」

「ではブリジット。そちらはよろしく頼みます」


 ブリジットさんの返事を聞いて、カタリナさんはアリエルさんとジャスミンさんを連れて再び二階へ上がっていった。

 

「それではクロエ様。私たちはあちらの部屋で」

「わかりました」


 ギルドの一階にある部屋に案内される。

 そこに王城から来た役人が加わって、さっそく事情聴取が行われた。

 今回の件で、私が知っていることは全て正直に話す。

 地竜のことだけでなく、最近は森にいる動物たちのお世話をしていて、違和感を覚えていたことも。

 

「——つまり、クロエ様はジャスミン様が地竜を隠れて飼っていたことは存じていなかったわけですね?」

「はっきりとは」

「というと?」

「ジャスミン様の様子が最近、おかしいというか何か隠しているような気はしていたんです。まさか、地竜の子供をお世話してるなんて思っていませんでしたが」


 まさか森の中に地竜がいるだなんて思わないだろう。

 多くの人は王都にモンスターがいるとすら考えないのだから。

 

「あの、ジャスミン様ってどうなるんですか?」

「それは、私には何とも言えません」


 そりゃそうか。

 今ジャスミンさんやアリエルさんから話を聞いているのはカタリナさんである。もしかすると、お父さんも参加しているのかもしれない。


「ブリジットさん。ジャスミン様は王都をめちゃくちゃにしようとか、そんなことは絶対に考えていません。一緒に動物のお世話をしてきましたけど、だからこそ、そうだって言い切れます」

「私もそう信じたいですが……」

「カタリナさんに伝えてもらえませんか?」

「む、無理ですっ! 私がカタリナ様に意見など……斬られてしまいます!」


 手と首を横に振るブリジットさん。

 こんな反応をされては無理強いはできない。

 なんだか悪いことをしたなぁと思ったので謝罪しておく。


「そうですか……すみません」

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