49.ベルと書痴友達
メリダが新しい本をお店の奥に取りに行ってくれたので、ベルさんを呼びに行く。
私とメリダが話している間、ベルさんのことは一度も見かけなかったし、足音や物音も特には聞こえなかったら、ずっと同じ場所で本を読んでいるんだと思う。
「ベル様」
おそらくベルさんがいるであろう場所に向かって名前を呼ぶ。しかし返事はない。
「ベル様~?」
あ、なんだか身に覚えがあるぞ。
ということは、ここから呼ぶだけではベルさんは気がついてくれないと思う。
「ベル様ー?」
ベルさんがいる本棚へ向かうと、予想通りベルさんは床にペタンと座り込んで本を読んでいた。やはり読書に集中してしまって、私の声が聞こえていなかったらしい。
……初めてベルさんに会った時のことを思い出すなぁ。
「ベル様」
「…………」
「ベル様~?」
これだけ近くで話しかけてもベルさんは反応してくれない。ちょっと悲しい。
うーん、どうしようかな。
用もないのに話しかけて読書を中断させたらベルさんは怒りそうだけど、今回はメリダが新しい本を見せてくれるという用事がある。
「ベールーさーまー?」
下からベルさんの顔を覗くように見上げる。ちょっと首が痛い。
おぉ……これが読書をしているときのベルさんの顔か。視線は本に向けられているのはわかっているけど、真剣な眼差しがまるで私を見ているみたいでドキッとした。
と、ページをめくろうとしたベルさんと目が合う。
ベルさんは目を大きくさせて肩を大きく揺らした。
「ッ!? び、びっくりした……」
「すみませんベル様」
「……あ、いや、いいけど……」
随分と驚かせてしまったみたいなので、謝罪しながら体勢を元に戻す。
ベルさんは開いている本へ視線をちらちらと送りながら、私を見上げた。本を読みたいのに何の用? と視線が訴えているのが伝わってくる。
「……ぁ、どうしたの?」
「メリダが最近仕入れたレアな物語を見せてくれるって言ってるんですけど」
「ッ!」
レアな物語、という単語に反応して、ベルさんが目を見開いた。キラキラと輝く瞳で私を見つめる。
「ほ、ほんと……?」
「はい。奥から取ってくるって言ってました」
「い、いく」
「では一緒に行きましょう」
ベルさんは立ち上がって、読んでいた本を丁寧に本棚へと戻した。
そのベルさんと一緒にカウンターへ向かうと、メリダは既に奥から本を取って来ていた。布にくるまれた何かを手に持っているけど、おそらくあれが今回仕入れたという本なのだろう。
あんな感じで保管していたってことは、前回のものよりも価値が高いのかもしれない。
「ベルちゃん。面白い本はあった?」
「……えっと、少し」
「少しか~」
苦笑するメリダにベルさんが「あっ」と声を漏らす。
失礼なことを言ってしまったと思ったのか、慌てて訂正した。
「あ、ごめんなさい……そういう、わけじゃ……」
「気にしなくていいよ。うちのお店は魔法書の専門だから、物語が少ないのはわかってるから」
そうだそうだ。
ベルさんは悪くない。悪いのは品ぞろえの悪いこの店だ。ベルさんは悪くないぞ!
心の中でベルさんを応援していると、メリダにジト目を向けられた。
「クロエ~? あなた今失礼なこと考えてない?」
「へっ!?」
「品ぞろえの悪い店だとか」
「そ、そそそそんなわけないでしょ!? 友達のお店にそんな失礼なことを考えたりしないよ!?」
「どうだか」
呆れ気味に短くため息を吐くメリダ。
メリダとは知り合って4年くらいになるけど、いつから私の心の中を読み取る魔法を使えるようになったのか不思議である。
「ま、それは置いといて。ベルちゃん、前の本も気に入ってくれたんだよね?」
「う、うん……すっごく」
「だったら今回も喜んでもらえると思うな」
メリダは布を広げて本を取り出すと、ベルさんへ渡した。
「……ッ! これ」
「でしょ? もうねぇ、ほんと大変だったよ~」
「すごい……っ」
「読んでみてもいいよ? あと、前回の本の感想も聞きたいな」
コクコクとベルさんは何度もうなずく。
そのまま二人は楽しそうに物語の談話へ花を咲かせ始めた。
やっぱりベルさんとメリダは気が合うのかもしれない。……けど、いつもよりも楽しそうで明るいベルさんを見ていると、ちょっと疎外感を抱いてしまう。
「……私はあの辺で魔法書を探してますね」
私がいても話に入れないし、二人に気を遣わせてしまうかもしれない。
なので、私は自分用の魔法書を探すことにした。
あ、それと四姉妹の皆さんに魔法を指導するとき、使えそうなものあるかもしれない。わかりやすいものも探してみよう。