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48.ベルと新しい本

「アポロンって、クロエ、それ……え?」

「あは、びっくりするよね」

「あは、じゃないわよ……」


 だからベル『様』って呼んでたのか、とメリダは納得した様子を見せる。

 そして、はっと何かに気づいたように目を大きくさせた。


「さっき私、普通にベルちゃんって呼んじゃったけど大丈夫かな……」

「たぶん。ベル様は気にしないと思うし、メリダはヴァレル家に雇われているわけじゃないんだから」


 メリダとベルさんは指導役と生徒ってわけじゃなくて、私とメリダの関係性に近いと思う。今は私が連れてきたお客さんって感じだけど、ゆくゆくは本好きの友達って感じになるのではないだろうか。

 私は物語を読まないから、メリダと話せるとベルさんもきっと楽しいと思う。


「でもクロエがアポロンのところのお嬢さんの魔法の先生か。たしかにクロエは魔法使いとして一流だし、いいお仕事かもしれないわねぇ」

「そう思うでしょ?」

「違うの? アポロンのお嬢さんなら魔法はきっと上手に使えるはずだから、教え甲斐がありそうだけど」


 たしかに、普通の生徒に魔法を教えるだけの仕事なら、メリダの言う通りになったと思う。私が人に教えた経験がないから、多少は手間取ることもあるかもしれないけど。

 しかし、私が教えなければならない生徒たちは普通の生徒ではない。魔法嫌いで魔法を使おうとしない個性的な姉妹だ。しかも四人である。


「実はまだ誰にも魔法を教えられてなくて」

「どういうこと? クロエは指導役で行っているんでしょ?」

「そうなんだけど」

「今日だって、そのご褒美に本を買いに来たってわけじゃないの?」

「いやぁそれがね、四姉妹の全員が全員、魔法嫌いで……」

「え?」


 やっぱり、メリダも王都で有名なあのアポロンギルドのご令嬢たちが魔法嫌いで、魔法を覚えようとしない、という話は信じられないらしい。

 メリダにはベルさんのことでお世話になっているし、これからもきっと四姉妹のことで頼りにさせてもらうと思う。魔法書もそうだし、友達として相談することもあるかもしれない。


「嫌いってどういうこと? ていうか、四姉妹!? 四人もいるの!?」

「う、うん……あれ、言ってなかった?」

「初耳よ……ベルちゃんが末っ子っていうのは、さっき聞いたけど」

「ベル様は一番下で13歳ね」

「あ、もう少し下かと思ってた……」


 確かにベルさんって華奢だし、可愛いし、顔も幼い感じが残っているから、もう少し年齢は下と思われるかもしれない。

 私もティナさんに年齢を聞いておかなかったら、メリダと同じ感想を抱いたに違いない。


「って、そうじゃなくて、四人ともギルドマスターの娘さんってことは、魔法を使うセンスはあるんじゃないの?」

「あぁ、うん。それは間違いなくあると思う。だけど、それぞれ理由があって魔法を教わりたくないみたいで……」

「理由?」

「まだ具体的にはわかってないんだけどね。今は魔法以外を教えたり、四姉妹のことを知って、原因を調査中って感じかな」

「大変そうね……」

「まぁね」


 それでも少しずつは距離は縮まってきていると思う。

 アリエルさんは稽古を続けてくれているし、ベルさんとはこうしてお出かけをすることができている。

 

「ということは、前に買って行った物語ってベルちゃんへ渡すためだったのね」

「そういうこと。仲良くなれないかなって思って」 

「なるほど、クロエが物語なんてどういうことかなって思ってたから納得したわ。それで今日もベルちゃんに貢ぐために来たわけね?」

「貢ぐって言い方が悪くない?」

「間違いじゃないと思うけど。まぁ、可愛いから気持ちはわからなくもないけど」

「ちょっとメリダ。うちの生徒に手を出さないでよ?」

「出さないわよ! あなた私のことをどう思ってるの!?」

「あはは、冗談だって」


 メリダが思いのほか大きな声で否定したので、すぐになだめる。

 さすがにメリダがベルさんに手を出すのは冗談だとしても、その辺の冒険者が四姉妹に寄って来る可能性は十分にあるだろう。悪い虫からは私が守らないと。


「ベル様が可愛いって言うのは同意かな。というわけで、今日も何かいい感じの本って手に入ってない? できればベル様のためにお安くしていただきたいんだけど」

「やっぱり今日も貢ぐんじゃない」

「貢ぐって言わないでよ。せっかくだし、一冊くらいわね」

「……安くなるかは置いておくとしても、あるわよ」

「さすがメリダ!」


 前回、ベルさんへお土産を買ったときに物語も探してみると言ってくれていて、今日までに仕入れてくれていたらしい。


「取ってくるからベルちゃん呼んで待ってて?」

「おっけー」 

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