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47.ベルとメリダ

 メリダの本屋へ向かって、私とベルさんは歩いていた。

 街へ出かけるのは久しぶりだというベルさんは、人通りが多い場所はまだ慣れていない様子で怯えているようだったので、人の行き来が少ない道を選んで進む。

 メリダのお店自体が元々大通りからは少し外れた場所にあるので、それは大いに助かった。


「ベル様、あそこです」

「あのお店?」

「そうですそうです」


 お店が立ち並んでいるうちの一つをベルさんが指で示したので肯定する。

 この辺りは大きな飲食店などは少なく、どちらかと言うと個人で経営されている小さなお店が多い。

 だからこそ、店主のこだわりが強くて珍しいものが入荷していたり、特別腕が良かったりするのだ。性格に難がある人が多いけどね!

 

「やっぱり、ベル様が思っていたよりは小さかったですか?」

「あ、う、ううん……そんなこと、ないよ」

「そうです?」

「うん。でも、その……ベルがお邪魔しても、よかったのかな」

「お客さんがいないお休みの日に約束したんですから、お店のことは気にしなくても平気ですよ。まぁ、営業中でもお客さんなんてものすごく少ないので問題なかったと思いますけど」

「そうなの?」

「はい! だからベル様は人のことは気にしないで、存分に楽しんでください」

「う、うん。わかった」


 お店が近づいてきたからか、ベルさんの表情は硬くなっていた。メリダ相手に緊張なんてする必要ないのに。むしろ緊張すべきはメリダのほうである。アポロンのギルマスの娘が来店するのである。これからお得意様になってくれるかもしれないのだ。


 定休日、と書かれたプレートがつるされている扉を開ける。

 

「メリダ、お邪魔します」

「お、お邪魔します……」 

「はーい、いらっしゃいませ~」


 と声が聞こえて、奥からこちらへやって来る足音が聞こえてくる。

 パタパタとふわりとした茶髪のメリダがやって来た。いつもの営業スマイルを浮かべる。


「いらっしゃいクロエ。と、その子が言ってた子ね?」

「そうそう。ベル様」


 と、そのベルさんはお店の中の本棚に夢中の様子だった。私とメリダの会話など微塵も聞いてないみたいで、目を輝かせてきょろきょろとしている。


「ベル様」

「あ……うん?」

「こちら、このお店の店主のメリダです」

「メリダです。こんにちは、ベルちゃん」

「前にも話しましたけど、メリダは歳は私よりも少し上で、前にベル様へ送った本を選んでくれた人です」


 メリダはさすが、これまでに面倒くさい魔法使いを相手に数多く接客をしてきているだけあるので、特に人見知りすることなく柔らかく微笑む。

 しかし、ベルさんは対照的にもじもじと俯いてしまった。か細い声で自己紹介する。

 いやいや、それでもちゃんとするだけ偉いと思う。可愛いし。


「べ、ベル……」

「よろしくね、ベルちゃん」

「……ぅ」

「ベルちゃんは物語が好きって聞いてるんだけど、この前の本、もう読んだ?」

「ッ!」


 急にベルさんは顔を上げて、コクコクと何度もうなずく。可愛いけど、首がとれてしまわないかしら、と心配になる。

 メリダも急変したベルさんの様子に苦笑していた。いや、可愛いから和んだ笑みを浮かべたのかな?


「そっかぁ。感想を聞かせてもらいたい……けど、先に見たいって顔してるから、そのほうがいいかな? うちは基本は魔法書なんだけど、クロエに言われて最近少しがんばって物語も仕入れてみたの」

「ど、どこ……?」

「あっちの棚」

「見ても……いいの……?」

「もちろん」


 メリダがうなずくと、ベルさんはペコッと頭を下げて駆け足で行ってしまった。

 角を曲がって本棚の陰に隠れて見えなくなってしまう。


「あ、ベルちゃん! 欲しいものがあったら遠慮なく言ってね。全部クロエが買ってくれるらしいから~!」

「ちょっとメリダ!?」」


 何それ聞いてない。

 メリダがどんな本を仕入れたのかは知らないけど、ベルさんのことだから呼んだことがない本は全て欲しいって言いそうだ。しかも物語だけじゃなくて、魔法書以外なら興味のあるもの全て。

 一冊くらいならプレゼントするつもりだったけど、さすがに欲しいもの全部というのは無理である。そんな約束はしていない。


「クロエ」

「な、なに?」

「小さくてお客さんの少ないお店でごめんなさいね」

「……あ、あれぇ? 聞こえてたの……?」

「うふふ」


 入店前の会話が聞こえてしまっていたらしい。

 この地獄耳め……。

 仕返しか? 仕返しのつもりなのか? 常連客によくもこんな仕打ちを。


「まぁ、それは冗談よ」

「よかった……って、よくないよ! ベル様がそのつもりになっちゃってたらどうするのさ!?」

「後で私からちゃんと言っておくわ」

「頼むよメリダ。あと、私のも半分くらいは冗談だから」

「半分は本気なのね……事実だけど……」

「…………」

「…………」


 沈黙が流れる。

 どうやら、今回話を続けても誰も幸せにはなれないみたいだ。


「ところでクロエ。あの子をベル様って呼んでるけど、誰なの?」

「今お仕事で魔法を教えている子たちがいて、その姉妹の末っ子だよ」

「あ~、前に新しい仕事をもうしているって言ってた」

「そうそう。アポロンのギルマスの娘さん」

「へぇ、アポロンの…………はぁ!?」


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