43.四姉妹と一週間
「そうか、アリエルとは何とかなったんだね。よかったよ」
「ありがとうございます、シラユキ様のおかげです」
「いいや、ボクは何もしていないよ」
アリエルさんと話した後。
私はシラユキさんとともに夕食を取って、バルコニーでお礼を言っていた。
陽が落ちてしまうと少し肌寒い。
「それでシラユキ様」
「ん、なんだい?」
「シラユキ様も一緒に稽古をしませんか?」
「……それは前にも断ったはずだけれど」
「ですが。シラユキ様も魔法を使うのが嫌なら、それなしで稽古だけでも一緒に」
「ボクはいいよ。アリエルに時間を割いてあげてほしい」
やんわりと柔らかな笑みを浮かべて、シラユキさんが言う。
今までもシラユキさんは妹たちを優先してほしいといった旨のことを何度も言っていた。だけど。
「私は今、シラユキ様のお話をしているんです」
「ボクの」
「はい。アリエル様のことはもちろん一生懸命私にできることをするつもりです。それはシラユキ様に対しても同じです」
「……そういえばクロエは、ベルと仲良くもなっているんだろう?」
「お話はしてくれるようになりましたけど……そうではなくて」
「母上のことも聞いたようだし、アリエルのことと言い珍しいこともあるものだね。でもベルは部屋で――」
「——シラユキ様!」
名前を呼ぶと、シラユキさんが真っすぐに私に視線を送る。
またシラユキさんの話から妹さんたちの話に変わってしまっていた。シラユキさんはいつもそうだ。妹たちが大切で長女として優先してほしい気持ちも理解はできる。
だけど私はシラユキさんのことを話したいのだ。
「クロエがボクのこともそうして思ってくれているのは嬉しいよ」
「だったら」
「距離を縮め始めたのなら、今はボクよりもベルに時間を使ったほうがいいんじゃないかな」
「それはそうかもしれませんが……」
「だろう? ボクのことは後でいい。その気持ちだけ受け取っておくよ」
「どうしてシラユキ様はそうやって自分を後回しにするんです」
「どうしてって、ボクが長女だからさ。今のクロエはアリエルとベルに時間をかけるべきだと思う。それだけだよ」
気を遣ってもらえるのはありがたい。
だけど、私が請け負った仕事は四姉妹を立派な冒険者にすること。そこには当然シラユキさんも含まれている。
妹さんたちを想う気持ちは本物だと思うけど、シラユキさんは自分のことになると随分と他人事になっている気がするのだ。
「それじゃあ、また明日」
「ま、待ってください」
「今日な一段と冷える。クロエも早く部屋に戻ったほうがいいよ」
にこりと微笑みかけて、シラユキさんは室内へと戻って行ってしまった。
* * *
そして、私がヴァレル家の四姉妹の魔法の先生(といっても、今のところ一度も魔法の指導はできていない)になってから一週間が経過した。
朝、起きたらジャスミンさんと動物のお世話をする。
急いで戻ってアリエルさんと稽古をこなして、お昼ご飯。
午後からはアリエルさんの依頼について行ったり、ジャスミンさんと森で他の動物のお世話をしたり、街でシラユキさんとお茶をしたり、ベルさんへお土産で本を買ってきたりして時間を過ごした。
アリエルさんは少しずつだけど上達していると思うし、ベルさんとの関係も本のおかげで良好だと思う。
メリダに次の休みの日を聞いたので、その日にベル様と訪れるという約束もした。
ジャスミンさんはお世話を手伝った甲斐もあってか、朝起きてから軽いトレーニング(ランニングやストレッチなど)だけは付き合ってくれるようになった。
しかし、シラユキさんは相変わらず相談には乗ってくれるものの、自分が指導を受けようとは一切しない。
そんななか、誰も予期できない事件が起こるのだった――。