41.アリエルと謝罪
シラユキさんが先にあがってから数分後、私もお風呂から出た。
きっとアリエルさんは帰って来ていると思う。シラユキさんが早く帰ってきたのは、おそらくアリエルさんと一緒だったからに違いない。
となると、今はアリエルさんはご飯を食べているのかもしれない。
だったら謝るために私もダイニングへ向かうとしよう。
ダイニングには先にお風呂から出たシラユキさんもいるから、たぶん私が入ってもアリエルさんは逃げたりしないだろう。シラユキさんが止めてくれると思うし。
アリエルさんを見つけたらすぐに頭を下げて、誠意を伝えないと。
頭の中でシミュレーション(アリエルさんが逃げた時のことも考えて)をしつつ、ダイニングへ向かう。
近くにやってきたとき、扉がゆっくりと開いてアリエルさんが出てきた。
「あ」
「アリエル様」
「ッ!」
脱兎のごとく、アリエルさんは一目散に走り出した。
わたしも慌てて追いかける。
「待ってくださいアリエル様!」
「うるさい! こっちに来るな!」
「お話が」
「オレにはねぇ!」
自分の部屋に引きこもられたら大変だ。中から鍵でもされてしまえば、今日会うことは叶わなくなってしまう。
廊下を追いかけっこして、やがて自分の部屋に辿り着いたアリエルさんは乱暴に扉を開ける。
扉を閉めて鍵をかけられる直前で、なんとか追いつくことができた。取っ手を引っ張って、アリエルさんの籠城を防ぐ。
「追いつい……たッ!」
「やめろ手を放せ!」
「嫌です!」
お互いに力いっぱい扉の取っ手を引っ張り合う。
どうやら単純な力比べだと互角に近いみたいだ。アリエルさん、剣士だから腕の力はあるのかもしれない。
「扉が壊れるだろうが!」
「アリエル様が放してくだされば」
「なんでオレが」
「私は話を聞いてほしいだけなんです」
「聞きたくねぇ!」
「お願いです、謝らせてください」
「別に謝罪なんて求めてねぇ!」
「いいえ、あれは私に非がありますので。本当にすみませんでした」
「いいって言ってんだろ!」
「それと今後のことも話したいです。出てきてくれませんか?」
「オレはお前と話すことはねぇ!」
「お願いします。このままじゃ扉が壊れそうですし……」
気のせいかもしれないけど、取っ手から嫌な音が聞こえている気がする。取っ手が外れるのか扉そのものが壊れそうなのか。
アリエルさんもそれを察したらしい。舌打ちをしながら、引っ張っていた力を緩めてくれた。大きなため息を吐いて廊下に出てきてくれる。
「くそっ、一分だけだからな」
「ありがとうございます」
その際、アリエルさんの部屋の中がちらっとだけ見えた。
「アリエル様」
「あん?」
「ぬいぐるみ、お好きなんですか?」
一瞬しか見えなかったけど、机の上や窓際にクマのぬいぐるみが数体置いてあった。
もしかして、お母さんからのプレゼントなのだろうか。
と思ったけど、違うかもしれない。アリエルさんは顔を耳まで真っ赤にして
「べ、別にいいだろ! つーか、今は関係ねぇだろうが!」
「いえ、可愛いなと」
「かっ、可愛いって言うな!」
「いいじゃないですか。私も好きですよ」
「あぁもう! それはいいから話ってのはなんだよ!」
あぁ、そうだった。
というか、なんだかんだでもう一分は過ぎてしまった気がするぞ。アリエルさんが気にしてないみたいだからいいけど。
「まずは今朝のこと本当にすみませんでした。軽率でした」
「……いいって言ってんだろ」
「ありがとうございます。それで今後のことですが、今後も稽古は続けさせていただきたいんです」
「だからオレは――」
「わかってます。ですから、もうアリエル様には魔法をとは私からは言いません」
「はぁ?」
アリエルさんの反応はもっともだと思う。
だけど、アリエルさんに魔法を使ってもらうためには……いや、使いたいと思ってもらえるようになるには、これしか思いつかなった。
時間は、かかるかもしれないけど……。
「ただ冒険者として強くなるために稽古をしませんか、ということです。その代わり、私からアリエル様へ魔法についての発言はしません」