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40.シラユキと質問

「そうだクロエ。話は変わるんだけど、ボクから一つ聞いてもいいかな?」

「はい……どうぞ?」

「ありがとう」


 優しく微笑むも、シラユキさんは「ふむ」と何やら考え込んでしまう。

 あ、あれ?

 どんなことを聞かれるのか、と少しだけ身構えてしまっていたので首をかしげる。


「シラユキ様?」

「あぁ、ごめん」

「いえ」 

「うん。率直に聞くね。クロエはどうしてボクたちの指導役を受けたんだい?」

「ティナさんに声をかけていただいたんです」

「そうだろうね。もう父上のギルドからは誰も来ないだろうし」


 今までの指導役とのことを思い出したのか、苦笑するシラユキさん。

 ティナさんの話だと、指導役として来た人の半分は、四姉妹の一人と会って話したら帰ってしまった、らしい。

 シラユキさんに関しては、こうして話をしてくれているけど正直他の三人は……。

 アリエルさんは暴言を吐いてくるし、ジャスミンさんは走り回って気が付くといないし、ベルさんは部屋に閉じこもっているし。連れてこられた指導役の皆さんが帰りたくなるのはとても理解できた。


「ちなみにだけど、クロエはどこのギルドの冒険者なんだい? ティナが目をつけて、父上がボクたちの指導役を許可するなんて、かなりの腕だと思うんだけど」

「あ、お父様の許可も一応あるんですね」

「うん? そりゃあね。ティナが父上に許可をとりに行っているはずだよ」


 言われてみれば当たり前か。

 大切な娘たちの指導にあたらせるわけだから、お父さんも把握しているだろう。

 ティナさんから話を聞いて了承した時、ティナさんは「また明日迎えに来ます」と言っていたけど、それからお父さんへ報告へ行っていたらしい。


「それで、クロエはどこのギルドなのかな?」

「エーデルシュタインです」

「エーデルシュタイン……」


 まぁ、もうクビになったけどね!

 

「それって、父上のところとよく争ってる」

「あぁ……ですね。私はあまり競争には興味なかったですけど」


 ギルドマスターやその悪しき娘は、絶対にアポロンにだけは負けるな! と口癖のように言っていたことを思い出す。

 とはいえ、今の私には関係のないことだ。


「それに、私はもうエーデルシュタイン所属じゃないんです」

「どういうことだい?」

「クビになりまして」

「そうか、クビに……え、クビ?」

「はい。というか追放? まぁ、どちらも同じ意味ですね」

「えっと、クロエ。理由を聞いても……?」

「構いませんよ」


 気を遣っているのか、それともクビになった奴では先生として不安なのか、何にせよシラユキさんが珍しく動揺を見せてくれた。

 ま、別に隠すようなことでもないし。

 悪いのはギルドマスターとその悪名高き娘である。


 ということで、シラユキさんにクビになった経緯を話す。

 ギルドマスターの娘に目をつけられて、追放となった、と。


「……そうだったのか」

「あはは」

「まぁ、こうしてボクの隣でお風呂に入っているのだから、君が悪いことをしたわけではないのだとは思ったけど」


 たしかに、私が味方を殺したとか、依頼を失敗しまくったという理由でクビにされたのなら、四姉妹のお父さんが指導役を許可してくれるはずもない。

 むしろ、私はシャルがいることもあって、けっこう強くて魔法書を持ち歩く珍しい魔法使いとして、知っている人は知っているくらいには依頼をこなしてきた。もしかすると、お父さんは知ってくれていたから、、調べてくれたのかもしれない。

 

「それで、どうしてティナと」

「ティナさんがひったくりに襲われてたので助けて、それで」

「お金につられた?」

「へ? いや……」

「違うのかい? 今まで指導に来た人たちは基本、父上に媚びるためか、お金のためだったからね。てっきりクロエもそうかと。まぁ、ボクらとしては理由なんてどうでもいいんだけど」


 そういえば、出会ったばかりのアリエルさんも言っていた。

 お金につられてきたんだろう、お前もすぐに出ていく、と。


「お金も、もちろんもらえるなら嬉しいです。お金はあって困りませんし、好きですし」

「正直だね」

「まぁ、はい。でも、それだけではないんです。住む場所と食事の提供っていう環境面とか、魔法を教えるのも面白そうかなって。それにシラユキ様たちがすっごい冒険者になったら、元のギルドは嫌でしょうし」

「それはそうだろうね」


 競っているライバルギルドの跡継ぎになるかもしれない四姉妹がそれぞれ一流の冒険者になるのは、エーデルシュタインとしては面白くはないだろう。

 ちょっとした仕返しである。


「あ、それと最近は新しい理由も見つけました。先生をしたいなって思う理由が」

「へぇ? 聞いてもいいかい?」

「シラユキ様たちに魔法のことを好きになってもらいたい」


 シラユキさんの透き通った綺麗な瞳を見て告げる。

 予想だにしない言葉だったのか、シラユキさんは目を少し大きくさせていた。

 

「魔法を、好きに……」

「魔法使いとして、ずーっと魔法を使って生きてきましたからね。魔法が嫌いっていうのは悲しいです」

「……そうか。そういうものなのかな」

「はい。だからシラユキ様もぜひ学びませんか? 魔法は嫌なら、普通の稽古だけでも」

「ふふっ、君は強制はしないんだね」

「それじゃあ身に付きませんし、今までの指導役の人と変わらないですから。私は好きになってもらいたい。好きこそ物の上手なれ、ですよ」

「…………」

「シラユキ様?」

「……やはり、君は今までの指導役とは少し違うのかもしれないな」

「え?」

「いや、なんでもないよ。これからも妹たちとよろしくしてくれるとボクとしては嬉しいかな」


 人好きのする笑みを浮かべて、シラユキさんは湯船から立ち上がる。


「さて。ボクはそろそろ上がることにするよ」

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