4.先生してくれませんか?
お昼は定食屋さん、夜は居酒屋さんとなっているお店で、私はティナさんからお話を聞いていた。
お腹が減っていたので、二人とも日替わりのランチを注文。
もぐもぐしながら話し合う。
「えっと、つまりはヴァレル家……でした?」
「はい。旦那様のお家です」
「その四姉妹に魔法を教えて、冒険者になってもらうってことですか?」
「いえ、お嬢様たちはすでに冒険者にはなっているのです」
「え?」
てっきり、冒険者の試験をこれから受けるから、受かるために指導をするのだと思っていた。
言ってしまえば、子守りのようなお仕事だと。
だけど、もう冒険者となっているのなら別に私に頼まなくてもいいのではないだろうか。
「今は四人で旦那様のお屋敷を出て、四人で――といっても私もいますが、生活なさっています」
「冒険者として働いているのなら、私は必要ないんじゃないですか?」
「それが、お嬢様たちは魔法を頑なに使おうとしないんです」
「使わない? 使えないのではなく?」
使えないのか、使わないのか。
これはすごく大事なポイントだ。
使わないだけなら、どうして魔法を使わないのか疑問は残るが教えるのに問題はない。
ただ、使えないとなると骨が折れる。少しでも魔力の欠片が身体にあれば、可能性はあるけど……。
「はい、使わないのです。お嬢様たちは全員、しっかり旦那様と奥様の魔力を引き継いでおられます。ですので、才能はあるはずなのです」
「疑問なのですが、どうして魔法を使わないんですか? 便利なのに」
「それは……」
「わからない、と」
「すみません。ですが、お嬢様たちが魔法を使われなくなったのは数年前に奥様が亡くなられてからなのです。しかし、それ以外はお変わりなく……私どもには話してくださらないのです」
四姉妹のお母さんが亡くなったのがきっかけとなっているのは間違いなさそうだ。
いきなり魔法が使えなくなった、なんてことはあるまい。
何かしらの理由があって魔法を使わないのはわかった。
でも、今の話を聞くと四姉妹は冒険者として普通に暮らしているみたいだ。無理に魔法を教える必要はあるのだろうか。
「でも、暮らしていけているのなら、わざわざ嫌っている魔法を習得してもらわなくても」
「たしかに、今のまま暮らしてくのなら、必要はありません。ですが、旦那様は将来的には、お嬢様たちにギルドを引き継いでもらいたいと考えられているのです」
「ギルドを」
貴族だと言っていたし、このご時世ギルドの一つや二つくらいは所有しているかもしれない。
前の私のギルドも、どこかの貴族が出資してくれていたみたいだし。
そういえば、ゲハムさんとリュグナさんも一応貴族の出なんだっけ? まぁ、そこのステータスがあっても性格が悪すぎてちょっと……。
「どこのギルドです?」
「アポロンです」
「どぅぇ!?」
びっくりしすぎて、思わず持っていたフォークを床に落としてしまった。
ウエイターさんから新しいものを受け取る。
でもでも、仕方ない。
アポロンっていったら、エーデルシュタインと対をなしている巨大ギルドじゃないか。
まさかそんなところのお嬢様たちだったなんて。
「アポロンだったら、そこの人たちに頼んだほうが」
「もちろん、アポロンも含めて今までにたくさんの方をお呼びしています。しかし、どなたも一週間もしないうちに辞められるのです……」
「えぇ……」
それは先生となった人が悪いのか。
たぶん違う。
四姉妹のほうにきっと原因がある。魔法が使える身体なのに使わないなんて不思議なことをしているし、きっとそうだ。
「引き受けてくださったら、お嬢様たちと同じお屋敷に住んでいただく予定です。クロエさんのお部屋も用意させていただき、ご飯は一日三食、お風呂付きです」
「あの、少し相談しても」
「相談? はい、構いませんが」
正直、条件の面はすごくいいと思う。
でも、危険な香りがするぞ……。今までの経験から来る私の第六感が、この仕事は面倒なことになると告げていた。
(シャル、どう思う?)
(む? 我はどちらでも構わぬぞ。クロエが決めるがよい)
(そっかぁ)
(まぁ、住む場所と食べることに困らぬのは良いことじゃと思うがの)
シャルのいうことはもっともだと思う。
教えるっていうことにも興味はある。
せっかく自由の身になったのだから、またギルドに所属するよりも色々なことを経験してもいいかもしれない。
それにエーデルシュタインのライバルギルドであるアポロンの跡継ぎを育てられたら、少しくらいはあの人たちを見返せるかも。
「わかりました」
「引き受けていただけますか!」
「とりあえず、四姉妹に会わせていただいても?」
「わかりました。ではまた明日、この時間にこのお店でいいでしょうか?」
「はい」
「私がお迎えにあがりますね」
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次の5話から姉妹が登場します。
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