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36.ベルと本の感想

 アリエルさんとの稽古のあと。

 私はティナさんが用意してくれたお昼ご飯をダイニングで食べて、自分の部屋へと戻っていた。

 広い廊下をトボトボ歩く。


 お昼ご飯の席で、ティナさんにはやはり不思議がられた。

 それはそうだ。アリエルさんと一緒に稽古をしていたはずなのに私一人で戻ってきたのだから。

 正直に事情を話すと、「そうでしたか……」とあくまで柔らかく答えてくれたけど、すごく心配そうな顔をしていた。

 ティナさんは深くは聞かないでくれたけど、本当は色々聞きたかっただろうし私のことを責めたかったかもしれない。

 ありがたかったけど、それだけに期待に応えねば。


 午後からはジャスミンさんと一緒に行動をしようかと思っていたけど、まだ帰って来ていないみたいだった。

 まだ森にいるのだろうか?

 でもお昼ご飯を食べに戻ってくると思う。


「……ねぇ」


 行く場所もないから自分の部屋で少し休もうかなと思っていたけど、待ちに行ったほうがいいかな?

 ジャスミンさんを私から迎えに行ってもいいかもしれない。


「……ねぇってば」


 猫は見せてもらったから、今度は私が約束を守る番だろう。

 ティナさんが作ったものではない、外のご飯を食べてみたいとジャスミンさんは言っていた。

 ジャスミンさんさえよければ、今日その約束を果たしてもいいかも。

 食べながら、お母さんについて聞けたりしないかな?

 なんて考えながら歩いていると、


「……~~ッ!」

「いたっ!?」


 誰かに足を蹴られた。

 いったい誰が……と蹴った人へ恨みを込めて視線を向ける。

 そこにいたのは、不機嫌そうにほっぺたを膨らませたベルさんだった。


「あ、ベル様!? どうしました?」

「……どうしたじゃない、何回も呼んでたのに……」

「す、すみません……」


 まさか廊下でベルさんに呼び止められるとは思っていなかったから、可能性を完全に放棄していた。


「すみません……あの、それで私に何か?」

「その……感想を……」

「へ? 感想?」

「……ほら、あの本、読んだから」

「え、もう読んだんですか!?」


 あの本、というのは私が昨日、アリエルさんと依頼に行った帰りに街で買ってきた本のことだろう。

 ティナさんからベルさんへ渡してもらったのは夕食のときだから、まだ一日も経過していない。

 私が驚いていると、ベルさんは少しほっぺたを染める。


「……うん、面白かった、から……」

「少しわかる気がします。私も魔法書を買ったときはそんな感じですから」

「……ねぇ?」

「はい?」

「……何か、あったの……?」


 ベルさんが心配そうに覗き込んでくる。

 私よりも背が小さいので自然と上目遣いである。可愛い。

 とはいえ、ベルさんは私とアリエルさんが稽古をすることを知らないはずだ。もしかしたらシラユキさん辺りから聞いたのかもしれないけど、何かあったように見えたのだろうか。

 もしかして、私ってわかりやすい?


「あ、いえ、ベル様が気になさるようなことは何も」

「そう、なの?」

「はい」


 ……いや、待て待てクロエ。

 ベルさんが相手でカッコつけたいのもわかるけど、ここはアリエルさんについて、そしてお母さんについて聞くチャンスなのでは?

 上手くいけばベルさんのことも何かわかるかもしれないし、一石が何鳥にもなるかもしれない。

 

「あの、ベル様。よかったら、相談してもいいですか?」

「……相談? ベルに?」

「はい。どうでしょうか……」


 お願いすると、ベルさんは少しの間悩むような仕草を見せた。

 感想を言いに来ただけだから、ベルさんにとってはただの面倒事だろう。

 それにベルさんは本にしか興味がないから、私の相談なんて――


「……うん、本、もらったし、ベルにできることなら」

「ほんとですか!?」

「……本のお礼」

「あ、ありがとうございます!」


 私が思っていた以上にあの本の効果は大きかったらしい。

 これはメリダさまさまだ。今度お店に行ったら、メリダにめちゃくちゃお礼を言っておかないと。


「……役には、立てるかわからないけど……」


 自信なさげにつぶやくベルさん。

 しかし、アリエルさんについての相談だ。姉妹以上に心強い味方はいないだろう。


「……ベルの部屋、来る?」

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