34.稽古
「オレの……せい……?」
「はい。アレインが巨大化してしまった原因はアリエル様です」
「なんでそんなことがわかるんだよ」
「昨日、私が見ているからと言って、いつもより急ぎましたね?」
私が問うもアリエルさんは答えない。顔を俯かせて黙りこくっていた。
この場合の沈黙は肯定ということでいいだろう。
「その結果、一撃の精度が悪くなりコアを破壊できなかった」
「でもオレはちゃんと――」
「違うのですか?」
「それは……」
「アリエル様。今の稽古だってそうです。私が相手だからといって振りが大きくなっていました」
私が蹴飛ばしてしまったアリエルさんの剣を拾う。
渡すと、アリエルさんは黙って受け取って、鞘に収めた。
「魔法使いとの戦闘で、近距離を選択するのは間違いではありません」
基本的に魔法使いは魔法を唱えるのに時間を要する。
魔法が発動するまでに倒してしまうという選択は正しい。しかし、攻撃が当たらなければまるで意味はない。むしろ、的が近い分当てやすいし、ゼロ距離となれば威力も桁違いなものとなる。
「ですが、相手に近づくということは危険が伴います。」
「…………」
「これが稽古でなければ、10回は大炎上してました」
「……さっきのはお前が相手だったからだ。普通はあんなことしない」
「今まで依頼をこなしてきたみたいですから、その言葉は信じます」
実際、剣の腕が悪いわけじゃない。
アレインを一撃で真っ二つにする力も、何匹も相手にするスタミナも持ち合わせている。
私に対して様子を見ることなく、初手から間合いを詰めて戦うことを選択した意志の強さもある。
ならばなぜ、昨日から私がいると感情的になってしまうのか。もったいない。
「なぜ私にはああなのですか? 感情的になるなとは言いませんが、あれでは……」
「お前が魔法使いだからだ。オレは魔法は嫌いだ。使いたくない。使うくらいなら、死んだ方がマシだ」
「アリエル様……」
父親はギルドマスターで、彼女には引き継いだはずの才能があるのにどうしてこうも嫌がるのか。
アリエルさんだけではないけど、四姉妹の中でも特にアリエルさんは魔法を拒絶しているきらいがある。魔法使いである私のことも一番敵視しているし。
稽古で「死ね」「殺す」なんて言われたのは初めての経験だった。稽古だよ、稽古? 物騒すぎる。
「理由を教えてくださいませんか?」
「お前には言いたくない」
「それでは解決できません。教えてください」
「別にいいんだよ、余計なことするな」
「……やはり、お母様のことが何か関係しているのですか?」
「——ッ!」
俯いていたアリエルさんがピクッと肩を揺らして反応し、私へ顔を向ける。
グッと握りしめられた拳は震えていた。
「お前がお母さんのことを口にするなッ!」
アリエルさんに、ギロリと人を殺せそうなほど厳しく鋭い目つきで睨まれる。
「やっぱりお前なんか嫌いだッ!」
叫び、アリエルさんは駆けだす。
私が止める暇もなく、街のほうへと走っていってしまった。
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