33.これ稽古なんですけど!?
「お前はオレが殺す!」
「いや、これ稽古なんですけど!?」
アリエルさんの木刀をぶっ壊したら、激怒された。
稽古であることを忘れてしまったのか、腰にさしていた剣を抜く。私が昨日アレインから取り返してあげた、お母さんの形見だ。
「アリエル様、落ち着いてください」
「オレは至って落ち着いてるぜ?」
「いやいやいや!? 目がマジなんですけど!」
「ぶち殺してやる!」
「待って下さ――」
私の説得に耳を貸すことなく、アリエルさんは少しの躊躇いもなく剣を振るった。
反応して躱すことはできたけど、前髪の先が切り落とされてしまった。
「危なっ!?」
「ちっ、避けんな!」
「避けなきゃ死にますって!?」
とてもじゃないけど、先生に対する行いだとは思えない。
いや、私はまだ先生だとは認めてもらっていないのか。だとしても、私を先生という仕事から追い出すどころか、この世界から追い出そうとしているじゃないか。
さすがに勘弁願いたい。
まだまだ死ぬわけにはいかない。
「おらぁッ!」
「話を聞いてくださいよぉ!?」
何度も剣が振るわれる。
まったくやめてくれる気配はないみたいだ。
……どうやら、やるしかないみたい。
先輩冒険者として、厳しさを教えてやりますよ! 昨日の依頼の件でお説教もしなきゃだしネ!
大振りのアリエルさんの攻撃を避けるのは簡単。手に魔力をめっちゃ込めて、いつでも魔法を放てますよ! ってくらいを保てば剣を受け止めるのもなんとかできると思う。
とはいえ。
魔力の調節を間違えると、形見の剣をへし折ってしまうかもしれない。かといって魔力を込めないと私の腕がサヨナラしてしまう。
くっ……。
加減が難しいぞ……。
「おらっ! 逃げんじゃねぇ!」
「理不尽ですって!」
アリエルさんが剣を上から下へ思いっ切り振り下ろした。私を真っ二つにする気満々である。
しかし、隙だらけの攻撃なので受け止める絶好のチャンス。
ということで私は、
「魔法書ガード!」
ベルトから魔法書を取り出して、盾の代わりにして剣を受け止めた。
もちろん魔力で補強しているけど、魔法使いとしてしてはいけないことの一つである。他の魔法使いに見られたら怒られそう。
「くそっ……」
悔しそうに歯ぎしりをするアリエルさん。
私は動きを止めることなく、握られている柄を思いっ切り蹴飛ばした。
アリエルさんの握っていた剣が宙を舞って、地面に落ちる。
勝負あり。
これ以上は続けても、魔法を使える私が勝つ以外の道筋はない。
「アリエル様。これじゃあ少し強いモンスターにも勝てませんよ」
「ちっ、だからって魔法を覚えて使えってか? お断りだね」
「魔法は関係ありません」
「は?」
どうやらアリエルさんは何もわかっていないみたいだ。
この様子だと、昨日のアレインのことも自分の怠慢が原因だと気づいていないのかも。
「魔法以前に意識の問題です。それでは一生私には勝てませんし、強くもなれません」
「なっ……お前に何が分かるんだよ!」
「わかります。実際に私と稽古をして、アリエル様はわかりませんか?」
「うぐ……」
昨日、私のことをクビにすると宣言していたのにこの結果。
私との実力差はちゃんと理解してくれたらしい。
まず改善しなければならないのは、感情的になってしまうこと、だろうか。
「アリエル様。昨日の巨大なアレインのことですが」
「あぁん? あれは偶然だろ?」
「違います」
「はぁ?」
「あれはアリエル様のせいです」