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3.焔の魔法使い

 ギルドを追放された私は、行く当てもなく大通りをぶらぶらと歩いていた。

 少しの間なら退職金で生活できると思う。

 でも、ずっとというわけにはいかない。生活費はどうしてもかかるので、稼がないといけない。


「どうしようかな~」


 やっぱり、新しいギルドを探すのが一番だろうか。

 さすがに大きなギルドは難しいと思うけど、どこかに入れたら生活は安定する。

 依頼はギルドに届くものを受ければいいし、ギルドによってはご飯を食べられたり寝る部屋を提供してくれたりするところもある。

 衣食住のうち、二つが安定するのは大きなことだ。


 でも、いっそのことシャルと二人でフリーの冒険者として活動するのも悪くないかもしれない。

 限界を感じたら、そのタイミングでギルドを探しても遅くはないだろうし。

 何より、人間関係で悩むことにはならないだろう。

 正直、もう追放されるのは勘弁だ。

 

 今後について考えながら歩いていると、前方から女性の悲鳴が聞こえた。

 続けて、


「どけ! 邪魔だどけどけ!」


 と、男が乱暴に人波をかきわけて、私のすぐ横を駆け抜けていく。

 男はバスケットを抱えており、どうやらひったくり犯のようだ。

 盗られた女性は突き飛ばされたのか、道に横たわりながら「返して!」と男に手を伸ばしていた。


「シャル、いける?」

(うむ、よいぞ)


 右手で腰の魔法書に触れて、左手の手のひらを犯人へ向けた。


「炎の壁よ、あの者の進行を妨げろ!」


 手のひらに魔方陣が出現し、刹那。

 犯人の男の進路を阻むように火の壁が現れた。

 いきなり出てきた炎の壁に、男は驚き体勢を崩す。

 

 街中ということもあって、あまり魔法に魔力を込めていない。

 壁が消えたら再度逃げられてしまうかもしれないので、急いで男のところへ向かう。  


「おじさん、人の物を盗るのはダメだよ」

「くそっ……」


 男は苛立った様子を見せるものの、素直にバスケットを私に渡してくれた。

 中身はパンみたいだ。

 あ、たしかこのパンって、有名なパン屋さんの。

 今はクビになってしまったけど、毎朝ギルドに行くときに良い匂いがしていたお店だった。


(かかっ、クロエよ。燃やすか? この者を燃やすか?)

「燃やさないよ……」

 

 なぜか嬉々としているシャルに否定しておく。

 燃やす、という単語が男にも聞こえたみたい。

 ひぃっ、と小さな悲鳴を零した。 


「い、命だけは……」

「いや、燃やしませんって……」


 バスケットは返してもらったし、反省をしてくれるなら、私はそれでいい。

 あとは衛兵さんに引き渡すだけだ。

 抵抗もしていないのに燃やすって、そんなのは悪魔の所業だとしか思えない。


「ちゃんと反省してくださいね」

「は、はい」

「もう二度としちゃダメですよ」


 約束をしてもらう。

 そこにバスケットを盗られた女性が到着した。

 ロング丈のメイド服姿だから、どこかのギルドの使用人か何かだろうか。


「はい、これ。中身はちょっと無事かわからないですけど」

「ありがとうございます」


 笑顔で女性が受け取る。

 わたしの周りに集まっていた観衆から拍手が送られて、ちょっと恥ずかしい。

 ま、人助けは冒険者として当たり前だよね。

 その後、駆け付けた衛兵さんに男の身柄を引き渡して、一件落着となった。


「あの、すみません。お名前は」

「クロエです」

「クロエさん。私はティナと申します。本当にありがとうございました」

「いえいえ。お礼なんていいですよ」


 ティナさんが何やら、考えるように目を泳がせる。

 そして決意をしたようで、「よし」とうなずいた。

 え、何?


「クロエさん。いきなり、本当に失礼だとは思うんですけど」

「はい」

「クロエさんって、お強い冒険者さんですか?」

「えっと……?」


 そんな質問をされたのは初めてだった。

 強いのかって、何を基準に? 

 前のギルドでも、そこそこは強かったとは思う。あのリュグナお嬢様にパーティーに誘われるくらいだし。

 ……まぁ、そのせいで解雇されたわけなのですが。


 とりあえず、シャルにも相談しておく。

 魔法書に触れて質問する。


(シャル、私って強いのかな?)

(我がおるのだぞ? 最強よ)


 上機嫌にシャルが答える。


「クロエさん? どうかしました?」

「あ、すみません。最強らしいです」

「最強、ですか」

「はい。そこそこは」

「なるほど……」


 とティナさんは考え込むように、あごに手を添える。

 ぶつぶつと独り言をつぶやいたのち、顔を上げた。


「あのっ、本当にいきなりなんですけど」

「は、はい……?」


 ぐいっと迫ってきたティナさんに、手を握られる。

 顔がめっちゃ近い。

 それにけっこう力が強い。普通に痛い。

 

「クロエさん。お嬢様たちの魔法の先生をしてくださいませんか?」

「……へ?」

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