27.姉妹三人とご飯
なんとかシラユキさんにシャルのことを誤魔化すことができた。
ほっと安堵の息を吐く。
自分の部屋以外では、シャルを外に出すのは注意した方がいいかもしれない。
というか、もういっそのことシャルの存在を発表してしまおうか。
「クロエ、夕食はまだ食べていないのかい?」
「はい、まだです。これからいただこうかなと」
「ではボクも一緒にいただくとしようかな」
また、とシラユキさんは軽く手を上げて、お屋敷の中に入っていった。
なんだか寒くなってきた――シャルの件で胆が冷えたから?——ので、私も夕食へ向かおう。
廊下を歩いてダイニングへ進んでいると、ベルさんの夕食をおぼんに乗せたティナさんがやって来た。
「あ、クロエさん。今から夕食ですか?」
「はい。シラユキ様も帰られて、夕食をいただくと言ってました」
「わかりました。こちらをベル様に届けたら、すぐに準備に戻りますね」
ちらとお盆を見る。
ベルさんへお土産として買ってきた本は乗せられていなかった。
汚れてしまうといけないから、別に運んでいるのだろうか。ティナさんのことだから忘れているってことはないと思うけど、一応尋ねておく。
「あの、ティナさん。ベル様への本は」
「あ、すみません。お食事と一緒に運んでは汚れてしまうかもと思い、エプロンのポケットの中に」
たしかにティナさんの白いエプロンのポケットが膨らんでいた。
「ありがとうございます。わざわざ気を遣っていただいて」
「いえいえ。使用人として当然のことをしているまでです」
ベルさんの部屋へ食事を運んでいくティナさんと一旦別れて、ダイニングへやって来る。
扉を開けて、私は思わず立ち止まってしまった。
「…………」
先ほど帰ってきたシラユキさんだけでなく、アリエルさんとジャスミンさんもいたからである。
シラユキさんのご飯はまだ用意されていないけど、その正面に二人並んで座っているアリエルさんとジャスミンさんは美味しそうに夕飯を食べていた。
ジャスミンさんとシラユキさんが私に気づく。
「あ! クロエだ~!」
「ど、どうも……」
「どうしたんだい、クロエ。そんなところで立ち止まって」
「あぁ、いえ……」
入り口で足を止めた私に、不思議そうに首をかしげるシラユキさん。
そういえば、シラユキさんは私がアリエルさんに一緒に食べたくない! と言われているのを見たことなかったっけ。
アリエルさんは、私のことを無視しているのか食事を黙々と続けていた。
「ん? アリエルがどうかしたのかい?」
「な、なんでもないです」
「そうかい? なら、ボクの隣においで? 一緒に食べよう」
シラユキさんに促されたので、首肯して隣に移動する。
席に座ると、どうしても左斜め前にいるアリエルさんへ視線が向かってしまった。
「……なんだよ」
「あ、その、いいのかなって」
「別にいいんじゃねぇーの。食べる場所はここしかねぇんだから、仕方ねぇだろ」
ぶっきらぼうに言い放って、アリエルさんは立ち上がる。
どうやら黙々と食べていたのは早く退出したかったから、らしい。
それでも言い方や態度が今朝に比べて柔らかくなっているのは、少しだけでも認めてくれたと考えていいのかな?
今日、アレインから助けたということもあったし、強くは言いにくかったのかもしれない。
「ちっ、勘違いすんなよ。オレはお前となんて食べたくないんだからな」
釘を刺すように言って、アリエルさんはダイニングを出ていこうとする。
拒否されているのは変わらないけど、それでも少しだけ前進した気がした。
「こらアリエル。そういう言い方は良くないんじゃないかな?」
「うるせぇな! 姉貴面すんな!」
アリエルさんは乱暴に扉を開けて、出ていってしまった。