24.ティナの心配
「ただいま帰りましたー」
私を追い抜いてお屋敷に先に帰ったジャスミンさんに続いて、私も屋敷に帰ってきた。
ジャスミンさんの姿はすでになく、ティナさんが顔を出してくれた。
「おかえりなさい。クロエさん」
「ただいまです。ジャスミンさんはもう?」
「先ほどバタバタと帰ってこられて、ご自身のお部屋へ。何かご用が?」
「あぁいえ。帰りに少し会ったので、このあと魔法の指導をと言ったら逃げられちゃって」
「そうだったんですか……」
今日はこれから自分の部屋で少し休んだら、お風呂に行こうかな。
あんなに広い浴槽を使えると思うと、これが毎日のルーティーンになりそうだ。
廊下を進んでいると、ティナさんに声をかけられる。
「あの、クロエさん」
「はい?」
「えっと、その依頼はどうでした?」
「成功しましたよ?」
アリエルさんとの討伐依頼のことだろう。
アリエルさんが私のことを一番目に見えて嫌っていたから、今日一日心配してくれていたのかもしれない。
私の返事を聞いて、ティナさんはほっと息を吐き出す。
「そう、ですか。よかったです」
「アリエル様からは、聞いていないのですか?」
「はい、アリエル様からも失敗はしていないと聞いたのですが……アリエル様だけ一人でお帰りになられたので何かあったのかと」
喧嘩別れでもしたのでは、と思われていたらしい。
「大丈夫です。心配するようなことは何も。むしろ、明日から稽古をすることになりました」
「え!? そうなのですか!?」
「はい。まぁ、魔法は嫌だから、普通に戦闘の実践の稽古ですけど」
頬を掻きながら、正直に告げる。
さすがにいきなり魔法を教えるのは無理だった。
ティナさんはガッカリしただろうか。と思ったけど、むしろ逆。ティナさんは興奮気味に目を大きくさせた。
「いいえ! それでもすごいです! 今までに、お嬢様の誰かと練習ができた人が何人いたことか……」
「これで魔法も覚えたいってなったらいいんですけどね」
「はい。クロエさんにお願いしてよかったです」
「気が早すぎますって。まだ魔法は誰にも教えられていませんよ?」
「あ、そうですね……あはは……」
すみません、とティナさんが恥ずかしそうに頭を下げる。
けれど、そのティナさんの期待に応えるためにもがんばらねば。
まずは明日の稽古で、ボコボコにしようと思う。
「依頼のあとは、アリエル様と別れて私一人で街へ少し」
「そうだったんですか」
「はい。ベル様にお土産を、と」
「ベル様に?」
ティナさんの視線が私の抱えている紙袋へ注がれる。
中に入っている本を取り出して、ティナさんに見せる。
「ベル様は本がお好きなようですので」
「たしかにお嬢様は書痴ですが、それで魔法を学ぼうと思うでしょうか?」
「これ一度では難しいかもしれません。でも、そのために知り合いの本屋に行って、なかなかレアなものを手に入れたんです」
「へぇ、そうなのですね」
どうやらティナさんは私と同じように、物語には詳しくないらしい。
私の持っている書籍を見ても、イマイチピンと来ていない様子だった。
「ティナさん、これをベル様に渡していただけませんか?」
「私が、ですか?」
「はい。ダメでしょうか」
「構いませんが……クロエさんご自身で渡されたほうが」
「それができたら、そうしたいんですけどね……」
ベルさんは部屋に閉じこもっている。
前に行ったときは部屋に鍵がされていなかったから、勝手に入ってしまったけどさすがに二度目は控えるべきだろう。
となると、私と会ってくれて話を聞いてくれる可能性は現時点では低い。
シャルの魔法書で釣るのも難しそうだ。
「夕食を運ぶときに、これも一緒に届けてくれませんか?」
「クロエさんがそう言うのであれば」
「よろしくお願いします」