22.シラユキと街の女性たち
ベルさんへのお土産の本を購入した私。
レアなものが手に入ったと、大満足で紙袋に入った本を抱えてお屋敷へ戻っていた。
きっとベルさんは今日も部屋にいるだろうから、すぐにでも届けよう。
人で賑わっている大通りをスキップしたくなる気持ちを抑えながら歩く。すると。
「ん、なんだろ?」
視線の先にあるお店が、何やら賑わっていた。
若い女性たちの「きゃ~」という黄色い声が聞こえてくる。どこかの有名な冒険者でもいるのだろうか。
ちらっとだけ確認すると、そこにいたのはシラユキさんだった。
たくさんの女性たちに囲まれたシラユキさんは可憐な笑みを浮かべておしゃべりをしている。
……どうやら、ティナさんが言っていたことは本当だったらしい。
シラユキさんは街の女性たちと毎日のように遊んでいる。それも朝早くからずっと。
すると、じっと見つめていたからか、シラユキさんが私の視線に気づいた。
「おや? そこにいるのはクロエじゃないか」
「シラユキ様、こんにちは」
「あぁ、こんにちは」
軽く挨拶を交わす。
急ぎの用事もないので、シラユキさんの近くに移動する。
ベルさんに本を届けるのは、帰ってからでも大丈夫。きっと今も部屋の中で別の本を読んでいるだろう。
四姉妹について何でも知っておきたいので、今はシラユキさんのことを知るチャンスだ。
「あっちから来たということは、今はお屋敷へ帰るところかな?」
「はい。依頼が終わったので」
「そうか、それはお疲れ様」
女性の一人がシラユキさんに尋ねる。
「シラユキ様。この方は?」
「この人はクロエ。妹たちがお世話になっているんだよ」
「そうなのですか」
妹たちだけではなく、私が指導をお願いされているのはあなたもなんですが……。
シラユキさんの言い方だと、まるで自分は関係ないみたいじゃないか。
まぁ、でも。今のところはシラユキさんに私がお世話になっていることのほうが多いかもしれない。そう言う意味で言ったのかな?
シラユキさんが、私の抱えている紙袋に気づく。
「ん、それはなんだい? ボクへのプレゼントかな?」
「すみません、これはシラユキ様へではなくベル様へ渡すものなのです」
「ベルに」
「はい。ベル様、本がお好きなようでしたので」
「そうか、ベルにだけ、ね……」
小さくつぶやいて、シラユキさんは少しの間だけ黙ってしまう。
「シラユキ様?」
「あぁ、すまない。なんだか妬けてしまうな、と思ってね」
「す、すみません。そういうつもりはなかったのですが……」
アリエルさんにも言われたけど、たしかにベルさんにだけというのはよくなかったかも。
四姉妹なのに、その一人にだけというのは不公平だったのかもしれない。
「本当だよ。クロエはベルのような子がタイプなのかい?」
「えっ!? いや、そういうわけじゃ……」
「ふふ、冗談だよ」
「もう、シラユキ様……」
「すまないね」
シラユキさんはウィンクをして、悪戯っぽく笑みを零す。
「部屋に閉じこもっているベルのことを気にかけてくれているのだろう? ボクは嬉しいよ」
「前に会ったとき、私の魔法書に興味をもたれていたんです。だから、本をきっかけに仲良くなれないかな、と」
「なるほど。それは名案だね。あいつは変わった奴だが、悪い奴じゃない。それは長女であるボクが保証するよ」
長女のシラユキさんにそう言ってもらえると、少し背中を押してもらえたような気になる。
やはりシラユキさんは、私が魔法を指導することに悪い印象はないのかもしれない。
「シラユキ様も魔法について何か――」
「ボクかい?」
「はい。講義でも実技でも興味のあることから」
「せっかくだけど、ボクは遠慮しておくよ」
「そうですか……」
「あぁ。ボクなんかよりも、妹たちに時間を割いてやってくれるかい?」
「それはもちろんです。でも、シラユキ様も」
「ボクは構わないよ。そうだ、そろそろベルのところへ行ってあげるといい」
半ば強引に話を打ち切られてしまった。
「それじゃあね、クロエ」