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21.ベルのお土産探し

 アリエルさんとの依頼を達成したので、私たちは王都へと戻ってきた。

 報酬をもらって、酒場を後にする。(報酬は全額アリエルさんに渡したら、不服そうだったけど受け取った)


 時刻は午後の三時くらいだろうか。

 これから新しい依頼を受けるのには微妙な時間帯なので、アリエルさんはお屋敷に帰るらしい。

 私はと言うと、ベルさんへお土産にする本を探しに行こうと思っていた。

 酒場を出て、お屋敷とは逆方向へ歩き始める私にアリエルさんが首をかしげる。


「あれ? お前どこ行くんだ? 屋敷はこっちだぞ?」

「ベル様にお土産を買って行こうと思いまして」

「お土産?」

「はい」

「なんでベルに」

「ベル様、本が好きなようですので、何か本をと」

「ちっ……」


 首肯すると、なぜだかアリエルさんは不機嫌を(あら)わにした。

 どうしてベルさんにだけなんだよ! ってことかな?

 

「あ、もしかしてアリエル様も何かほしいです?」

「いらねぇよ!」 


 大きな声で断り、アリエルさんは「ふん」と鼻を鳴らして行ってしまった。

 遠くなっていく背中を見送って、私も移動を開始する。

 本、ということなので、私がお世話になっている魔法書店に行こうと思う。基本的には魔法書のお店だけど、面白い書籍ならなんでも置いている、というのがあのお店の信条だった。


 シラユキさんに会えるかも、なんて思って周りを見ながら書店にやって来る。

 来るのは一か月ぶりくらいだけど、前と変わらない外観で安心する。

 お店に入ると、「いらっしゃいませ」と落ち着いた女性の声がした。


「あ、クロエじゃない」

「久しぶり、メリダ」

「ほんと、一か月半ぶりくらいじゃない?」


 笑顔で迎え入れてくれる、ふわっとした茶髪ロングのメリダ。私よりも三つ年上で、大人の雰囲気が素敵なお姉さんだ。

 メリダが座っているレジカウンターの前に移動する。

 すると、他にお客さんはいないのに、メリダが声を潜めた。


「クロエ。追放されたって聞いたんだけど……」

「あぁ、うん」

「うんって、大丈夫なの?」

「今は別のお仕事をしてるんだ~」

「そうなの?」

「うん。今日はそれで来たの」

「そう。あなたのお仕事ってことは魔法書かしら?」

「ううん、今日は物語がほしくて。少し高くてもいいから、珍しいものとかないかな?」

「物語ね……」


 尋ねると、メリダは「うーん」と思案する。

 やっぱり魔法書が主に扱われているお店だから、そういう本はないのかもしれない。


「あ、そういえば」

「なになに? 何かあるの?」

「ちょうど手に入った良いものがあるの」

「へぇ、どんなの?」

「クロエもアウスベールくらいは聞いたことある?」

「冒険譚で有名な人だよね? 主人公の男の子がカッコいいって」

「そうそう」


 アウスベールは私でも知っているくらいには有名な作家だった。

 とはいえ、そんな人の作品はベルさんだったらすべて読んでいるのではないだろうか。


「その人の2作品目が手に入ったの。有名になったのは5作目からで、クロエが言っている物語は7作目ね。3作品目までは昔の作品で全然出回ってないのよ?」

「あの、ちなみにいくらくらい?」

「ん~、クロエだからなぁ。そうねぇ……」


 あごに手を当てて悩んで、メリダは指を三本立てた。

 ということは。


「銀貨三枚?」

「まさか。三十枚よ」

「まじ?」

「まじ」


 三十枚って、私の退職金と同じくらいじゃないか。

 しかも魔法書じゃなくて普通の物語でその値段なんて、今までに聞いたことなかった。

 とはいえ背に腹は代えられない。

 そのくらいレアな作品なら、きっとベルさんも読んだことはないだろう。きっと喜んでくれると思う。

 それに、今はお屋敷でお世話になっているから生活費はほとんどかかっていない。四姉妹のために使うのが一番かもしれない。今までに貯めてきたお金もあるし、この出費はポジティブに捉えることにした。


 でもとりあえず値切ってみよう。

 相手がメリダだからできることである。


「あのさ、メリダ」

「なぁにクロエ? 値切り交渉ならお断りよ?」

「うっ……そこを何とか。銀貨29枚で」

「うち以外の書店は使わない?」

「……努力はする」

「ふーん?」

「じょ、冗談だってメリダ。私が今までこのお店でたくさん魔法書を買ったのを知ってるでしょ?」


 20冊以上は購入したと思う。

 もちろん、それなりに高価な魔法書も買わせていただいた。

 ちなみにシャルの魔法書との出会いはここではなく、依頼で遠くに行ったときに偶然手にしたのである。


「まぁね。いいわよ、クロエだから銀貨25枚にしてあげる」

「ほんと!?」

「ええ」


 というわけで銀貨を25枚支払う。

 今持ち歩いているお金はすっからかんになってしまった。


「はい、どうぞ」

「ありがと。たぶん、また近いうちに来ることになると思う」

「そう? よろしくね」


 メリダから本を受け取って、私は書店を出る。

 街で女性たちをたぶらかしているというシラユキさんを探しながら、お屋敷へ戻ることにした。


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