2.魔法書シャルロット
金色の光と共に同じ色の魔方陣が魔法書の表紙に描かれる。
そして、次の瞬間。
私の隣には、快活に笑う少女が現れた。
「かかっ、クロエよ。我も助太刀するぞ?」
ショートカットの金髪に、燃え盛る炎のような紅の瞳。
見た目は私と同じくらいの年齢。
私の魔法書に宿っている妖精・シャルロットである。
この世界の魔法書の全てに妖精が宿っているってわけではなく、こうして人の姿になったり、意志をもっているのは珍しい。私もシャル以外には見たことも聞いたこともない。
まぁ、私とシャルの出会いについては、また追々話すとして。
「シャル、何度も言っているけど服を着てくれない?」
「なぜじゃ? 我は気にせぬぞ?」
「私は気にするんだけど……」
「魔力の消費を抑えるためじゃと言っておるだろうが」
そう。彼女――シャルは魔法書から人の姿で現れるとき、必ず裸なのだ。本当に一糸も纏っていない。ちなみに、胸はやや控えめである。
たしかに魔力の消費を抑えるのはいいけど、それでも裸なのはどうなのかなぁ……。
「なんだシャルロット。貴様、ギルドマスターの決定に文句でもあるのか」
「主の危機を見過ごすわけにはいかぬからな」
「シャル~」
「かかっ、良いってことよ」
男前に笑って、胸を逸らすシャル。
……同性とはいえ、やはり服を着てほしい。
「シャルロット。お前が何を言おうと変わらん。クロエはクビ。お前もクビだ」
「あの娘の戯言を信じておるのか、貴様? それでもギルドを預かる者なのか?」
「はっ、何を言うか。我が娘リュグナが嘘を吐いているとでも言うのか?」
「他のものにも聞いてみよ、と言っておるのじゃ。パーティはクロエとリュグナだけではあるまい」
「その必要はない。リュグナの言っていることが真実だ」
なんていうか、親ばかって言うのかな……これ。
ゲハムさんは私とシャルの話を一向に聞いてくれない。
隣でシャルの魔力が高まっていくのがヒシヒシと伝わってくる。
というか、私とシャルは魔力を共有しているので、私もいつでも魔法を放てるくらいにはなっていた。
「なんだシャルロット。俺とやろうってのか?」
「かかっ、それも良いかもしれなんな。ふむ、このギルドを消し炭にするのも一興かの?」
「俺を脅すつもりか? 言っておくが、何か問題を起こしたらギルド追放どころではすまんぞ。牢獄か、国外追放か、そのくらいは覚悟できているのだろうな」
ニヤリとゲハムが口角を上げる。
それを見て、シャルは忌々し気に舌打ちをした。
「クロエ、もうよい。行くぞ」
「え、待ってよシャル」
「このような場、そなたがいるような場ではないわ。いるだけ無駄じゃ」
シャルは最後にゲハムさんを睨みつけて、魔法書へと戻って行った。
あんなに怒ったシャル、見たのは久しぶりかもしれない。
私のために怒ってくれたのかと思うと、ちょっと嬉しくなる。
「クロエ、もう一度言うぞ。お前はクビ。追放だ」
「……わかりました」
「それでいい。さ、出ていけ」
まさか、こんな風にギルドを去ることになるなんて思っていなかった。
けど、仕方ない。
私はペコリと頭を下げて、ギルドをあとにした。