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19.アリエルと剣

「アリエル様、後ろ!」

「あん?」


 アリエルさんが私の声で振り返る。

 私とアリエルさんの目の前には、普通のアレインの数十倍はあろうかという巨大なアレインが私たちを見下ろしていた。


「な、なんだよこれ!?」

「アリエル様、早くこちらに!」


 アリエル様が押し潰されてしまってはひとたまりもない。

 いくら大きくなってもアレインの身体は半液体でジェル状なのは変わらないから、覆いかぶさられれば窒息したり、溺死してしまいかねない。

 ギルド・アポロンのマスターの娘を目の前で死なせたとなったら先生を続けるどころか、街から追放されてしまうかも。いや、牢屋にぶち込まれるかも……。

 とにかく、今はアリエル様の身の安全が一番だろう。

 

 逃げてもらえれば、私の魔法で跡形もなく消し去ってくれる。

 けど、アリエル様は足を止めたままだ。巨大なアレインを見上げている。

 

「アリエル様、何をしているのですか!」

「うるせぇ!」

「早くこちらに」

「これくらい、オレだけで十分なんだよ!」


 アリエルさんは再び剣を抜くと、巨大なアレインに斬りかかった。

 的が大きいので、攻撃は命中する。だけど。


「どんなもんだ! ……あれ?」


 アリエルさんの剣はアレインの身体の途中で、勢いを殺されて止まってしまった。必死に剣を抜こうと引っ張っているけど、むしろアレインの身体の中に飲み込まれて行く。

 このままじゃ、アリエルさんまでアレインに飲み込まれてしまう。

 

「アリエル様! 剣を放してください!」

「黙れ! オレに指図するな!」

「指図じゃないです!」

「うるせぇ!」


 私が言っても逆効果。アリエルさんをさらに焚きつけてしまったのか、意固地になって剣を抜こうと力を込めて引っ張る。だけどびくともしない。

 アレインの身体がもうすぐ剣の柄に届いてしまう。剣を握っているアリエルさんの手に届くまでは時間の問題だ。

 

「あぁ、もうっ!」


 私はどうすればいい?

 魔法を放てばアレインは倒せる。だけどダメだ。アリエルさんとの距離が近すぎて、アリエルさんまで燃えてしまうかもしれない。

 くそっ。

 悩んでいる余裕はない。私はアリエルさんとアレインへ駆け出した。

 右手に魔力を集中させて、魔方陣を展開させる。


「アリエル様、すみません!」


 剣から手を離そうとしないアリエルさんに体当たりをして、身体を吹っ飛ばす。

 思いっきりぶつかったから、けっこう離れたところまで飛んでいってくれた。

 

「いっ……てめぇ!」

「すみません!」


 謝りつつも、アリエルさんへ振り向くことはしない。

 アレインが飲み込みかけている剣の柄を掴む。魔力を注ぎ込むと、私の魔法で熱された剣の周りのジェルが解けたので、一気に抜いた。

 うわっ、めっちゃベトベトしてる……。

 けど我慢。

 次いで左手の手のひらをアレインへ向ける。


「燃え盛れ!」


 手のひらの前に魔方陣が二つ現れ、刹那、アレインが火柱に包み込まれた。

 灼熱の炎がアレインを存在ごと蒸発させていく。

 身体のほとんどが水分なので、アレインは跡形もなく消え去った。

 こんな大きなアレインは見たことがなかったけど、さすがにもう生きてはいないだろう。欠片もなくなっているし。


「アリエル様。大丈夫でしたか?」

「てめぇ、よくも」

「す、すみません。でもこうするしか思いつかなくて」

「……ちっ」


 不機嫌そうに舌打ちをするも、アリエルさんはそれ以上は何も言わなかった。

 ほっとしつつ、アレインから取り返した剣を返す。


「アリエル様、どうぞ」

「…………」

「アリエル様、この剣は大切なものなのですか?」

「なんでそう思うんだよ」

「だって、あんなに危険を冒してまで取り返そうとするなんて」

「……母親にもらったんだよ、昔な」

「そうだったんですか……」


 亡くなったお母さんの形見だったのか。

 それで意地になってまで手放さなかった、ということか。

 

「…………ありがとな」


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