18.アリエルと討伐依頼
「——って感じで、魔法を使ったほうがいいと思うんですけど、一緒に勉強しませんか?」
「…………」
「あれ? アリエル様、聞いてます?」
「うるっせぇな! 聞いてねぇよ!」
「え、せっかく移動時間を有効に使って魔法について話していたのに……」
「頼んでねぇ!」
スタスタとアリエルさんは歩く速度を上げる。
頑固なほどに魔法のことは聞きたくないみたいだ。まったく耳を貸してもらえなかった。けっこう依頼で討伐をするときに役に立つことも言ったつもりだけど、きっと聞いていない。
無理に教えることは無理、ということだろう。
他の姉妹も同様だと思う。
やがて目的地である村へとやって来た。
村長に依頼の話をして、アレインがやって来るというポイントを教えてもらう。どうやらアレインの群れは街道から逸れた平原にいるらしい。とても広大で風が気持ちのいい場所だ。
草むらや木もあるから、隠れることもできる。夜の間に接近して、作物を襲っているのかもしれない。
さっそく平原へ移動する。
じっと目を凝らすと、簡単にアレインたちが這いずるように移動しているのを発見できた。ここから見えるだけで、ざっと10体はいるだろうか。
隣で剣を抜くアリエルさんに報告する。
「アリエル様、あそこに」
「わかってるよ、うるせぇな!」
「あっちにもいるので、気を付けてください」
「お前が指図すんなっ!」
アリエルさんが苛立った口調でそういって、なぜか私へ剣を振るった。
風圧で前髪が揺れる。
「危なッ!? ちょっとアリエル様、相手はあっちですよ!?」
もちろん、アリエルさんとしても当てるつもりはなかったと思う。
実際、剣は私から離れたところを通過していった。だけど、味方に向かって剣を振るうっていうアリエルさんの人格とか考え方は普通に危ないのでは……?
「ふんっ!」
鼻を鳴らして、アリエルさんは一匹のアレインへと真っすぐに向かっていった。
正面に立って、綺麗な構えから剣を振り抜く。
アレインは真っ二つに斬られ、ぐしゃっと地面に散らばった。
「アリエル様、すごいです!」
「別にこのくらいは当たり前だ!」
「あっ! 横からアレインが」
「おらぁッ!」
また一匹、アレインがぶった斬られる。
私は剣は使ったことがないから具体的なことはわからない。でも、太刀筋は悪くない、と思う。うん、思う。あくまで悪くない、だけど。
魔法を覚えてくれたら、更なる活躍が見込めそうだ。
観察をしている私の前方で、アリエルさんは次々にアレインを切り刻んでいく。
もう10匹くらいは越えたかもしれない。
いつの間にか、アレインの数がかなり減って来ていた。
「おいっ、お前!」
「どうしました?」
「魔法、見せて見ろよ」
「へ……?」
「ほら。どうせもう終わりなんだ。偉そうに教えようとしてるお前の魔法がどんなもんか、見せて見ろよ。先生サマ?」
「じゃあ、遠慮なく」
アリエルさんは丁寧にもアレインを一匹残してくれていたみたいだ。
そのアレインに狙いを定めて右手を突き出す。
「彼のものを燃やせ」
私の右手の手のひらに魔方陣が展開される。
刹那、アレインは消し炭になった。
アレインが相手だし、こんなものだろう。
「そんな、あっさり……」
「どうかしました、アリエル様?」
「な、何でもねぇよ! 人に魔法を教えられるくらいなんだから、これくらいは当然だ! 調子に乗るなよ!」
「いや、別に調子に乗っては……それより、この辺りのアレインはもう片付きましたかね?」
「あぁ、今ので最後のはずだ」
「それじゃあ、村へ報告に行きましょう。村の人に確認してもらったら依頼成功ですね!」
かったりー、と首を回しながらアリエルさんが私のほうへ歩いてくる。
と、その背後を見て、私は目を大きくさせた。
「アリエル様、後ろ!」
「あん?」
アリエルさんが私の声で振り返る。
その先には、今まで倒したアレインの集合体とも言える巨大なアレインが私たちを見下ろしていた。